
EPIK HIGH/7月4日にアルバム『WE'VE DONE SOMETHING WONDERFUL -Japan Edition-』をリリース
韓国のHIP HOP界でレジェンドと称されているEPIK HIGHが、3年ぶりとなるニューアルバムを昨年リリース。この度、同作に日本語ヴァージョンを2曲追加収録した『WE'VE DONE SOMETHING WONDERFUL -Japan Edition-』が到着した。
今回は、2001年の結成以降、第一線で活躍し続け、リリカルな表現と幅広い音楽性で今や韓国の音楽界に欠かせない存在となった彼らに、これまで歩んできた道のりや、盛り上がりを見せている現在の韓国のHIP HOP事情を直撃。ニューアルバムに込めたメッセージやこれからのスタンスについても語ってもらった。
(取材・文/猪又 孝)
僕たちが音楽を始めた時から比べると、1万倍くらい大きくなっている
――今日は韓国の音楽界に長らく身を置くEPIK HIGHのみなさんに、韓国のHIP HOPシーンについて伺いたいと思います。韓国では5年ほど前からHIP HOPが盛り上がりを見せていますよね。
TABLO:僕たちが音楽を始めた時から比べると、もう1万倍くらい大きくなっていますね。すごく楽しいし、エキサイティングです。
――EPIK HIGHは2001年結成ですが、当時、シーンはどんな感じだったんですか?
TABLO:僕たちがデビューして初めてテレビに出たとき、スクラッチをやりたくてDJ TUKUTZがターンテーブルを持ち込んだんですけど、当時それを配線できるスタッフが誰もいなくて。DJとはどういうものか?っていうことすら、わかってもらえてなかったんですよね。で、番組のプロデューサーから「スクラッチをやってるフリで」と言われて。さすがに怒って「3人でできないんだったら帰る!」とまくし立ててナントカやらせてもらったんです。以降、その番組では実際にできるようになりましたけど、他の番組とは喧嘩別れしたり、出演をキャンセルすることもありました。
DJ TUKUTZ:当時、韓国ではHIP HOPというジャンル自体が珍しかったので、今振り返れば、そう言われたのもわかるんですけど。
最近はシステムが調って、音楽番組でDJがスクラッチできる環境になってきたのを見ると素直に嬉しいです。僕のおかげとまでは言いませんけど(笑)。

TABLO(MC)

DJ TUKUTZ(DJ)
――自分たちが韓国のHIP HOP界を切り開いてきたという自負もありますか?
TABLO:もともとHIP HOPのミュージシャンがテレビに出ること自体、珍しかったので、当時そういう自覚はなかったです。でも、2005年に僕たちの「Fly」という曲が音楽番組のチャートで1位を獲ったことを機にHIP HOPがどんどん広まっていったような気がします。もちろん僕らと同じ頃にデビューしたHIP HOPのミュージシャンの頑張りを忘れちゃいけなくて、今テレビをつけたらラップしているアーティストはどこかしらに出ているわけで。HIP HOPが珍しいものではなくなった、というのは嬉しいことですね。
――たくさんの逆境を乗り越えるモチベーションになっていたものは何ですか?
TABLO:そういう大変な環境自体がモチベーションになっていましたね。乗り越えなきゃいけない壁が本当にたくさんあったんですよ。当時は番組に出るためのリリック審査もありましたから。その審査を回避する歌詞を書くという意味では賢くなったと思うし、それがグループを成熟させてくれた。そうやって番組に出られるような音楽も作りながら、今ではもっとヘビーな内容のメッセージも表現できるようになりましたから。だから、今の若い人たちにも逆境は自分たちを強くするということを伝えたいですね。
やっぱり、たやすく手に入ったものは、簡単に離れていくので。
――韓国でHIP HOPが広まった背景には、K-POPブームの影響も大きいと思いますか?
TABLO:K-POPがHIP HOPにどんな影響を及ぼしたかはわからないです。でも、今のK-POPを見ると女性グループにしても男性グループにしてもラップを担当するメンバーが必ずと言っていいほどいるのでHIP HOPがK-POPブームの一端を支えたと思うし、K-POPを世界に広めたのはHIP HOPの土壌があったからだと思うので、お互いWIN WINだったんじゃないかと思います。

MITHRA(MC)

――2012年には、現在のHIP HOPブームの火付け役と言われているラッパーサバイバルオーディション番組『SHOW ME THE MONEY』が始まりました。TABLOさんはこの番組のシーズン3、シーズン4で審査員を務めましたが、『SHOW ME THE MONEY』が韓国のHIP HOP界にもたらしたものは何だと思いますか?
TABLO:メリットとしてはHIP HOPというジャンルをたくさんの人に知ってもらえるようになったこと。HIP HOPにはたくさんの要素があるんですよね。たとえば韻やパンチラインの面白さ、プロデューサーやトラックメイカーによって生まれるスタイルの違い。そういうところを知れば知るほど楽しめるジャンルだと思うんですが、この番組を通してそれを説明できて、一般の方々の理解度が深まって、僕たちの音楽を聴くときにもっと楽しめるようになったというのがいちばん大きなメリットだと思います。
――では、デメリットは?
TABLO:ラッパーがものすごく増えたことですね。10代の子たちも「ラッパーになりたい、ラッパーになりたい」と言うようになった。でも、HIP HOPというカルチャーはラッパーだけでは成り立たない文化なので。グラフィティもあるし、映像もあるし、トラックメイカーも重要。
いろんな才能が必要な文化なのに、ラッパーだけが増えて目立つようになってきた。そうなるとカルチャーとして発展しなくなってくるんじゃないかと。今はラッパーに偏りすぎているので、これからはそれ以外の才能も発掘したり、バックアップできるような動きが出てくればいいなと思っています。
――【EPIK HIGH】インタビュー後編へ
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