「偏りを活かせる社会を創る」を理念として、発達障害を抱える人材の人材紹介などを行っているGIFTED AGENT株式会社では、新たにハイリーセンシティブ(感覚過敏)の人に向けたファッションブランド「gftd. fashion」を立ち上げた。さらに今年4月には、第1弾としてファッションブランド「HATRA(ハトラ)」とコラボしたパーカーを発売。同ブランドにおいて製品の立案やデザイン、制作まで担当している濱中明弘さんに、発達障害とファッションについて語ってもらった。
※濱中の濱は、まゆはまが正式表記

ファッションが好きな気持ちと、肌触りとのせめぎ合い
濱中さん自身も発達障害の当事者で、GIFTED AGENTが運営している施設に利用者として通っていたところ、同社の代表である河崎純真さんから「ファッションの事業を一緒にやらないか」と声をかけられたそう。もともとデザインやファッションに強い感心があった濱中さんだが、感覚過敏の症状のせいで服の選択の幅はかなり狭められていた。タグや縫い目、服自体の圧迫感などがどうしても気になってしまうのだ。
ファッションが好きな気持ちと、肌触りが気になる気持ちでせめぎ合いを感じていた濱中さん。タグを自分で切ってしまったり、服を裏返しにして縫い目などが外に向くように着てみたり、服に関しては試行錯誤が続いた。もちろん通販は使えない。ひたすら合うものを試着で探すしかなかった。
「感覚過敏を持っている発達障害の人はかなり多く、その中でも肌触りに敏感な人は少なくありません。でも、そういう人向けの服がないので自分に合う服を探すのが大変です。

大手繊維商社とのコラボも企画
「gftd. fashion」から発売されたパーカーは、タグや縫い目が外に向けられている。通気性に優れた綿100%の素材を採用しており、肌触りを徹底的に追求した。また、フードにもこだわりが詰まっている。
「発達障害の人は、他人の視線や光といったものに敏感なので、それらに対するストレスを軽減してあげたいと思いました。このパーカーのフードは、かぶることで視界を遮断して、自分の世界にこもることができます。服でありながら、シェルターでもあるイメージでデザインしました」

コラボ相手である「HATRA」にとってもハイリーセンシティブ向けの服作りは初めての試みだったが、“居心地のよい服”をテーマとするブランドだけあって、「gftd. fashion」のコンセプトを完璧に実現してくれたそう。濱中さんは、「多くを語らずとも伝わった」と今回のコラボを振り返っている。
現在は子供向けのサイズのみの展開だが、大人からも多くの問い合わせが寄せられている。「gftd. fashion」への反響は大きく、今後、大手繊維商社ともコラボ企画を実施する流れになった。
「大手企業からデザインや縫製を評価していただいたのは嬉しいことです。また、それだけマーケットが大きいと見込んでもらえたということなんでしょうね。第1弾は子供服でしたが、今度は大人から子供まで幅広いサイズで展開していきたいです」
今後作りたいと思っているのは、どんなアイテムだろうか?
「直接肌に触れるものということで、インナーはいつか作りたいです。
当事者と非当事者が一緒になって楽しめるファッション

濱中さんは、「『gftd. fashion』の服は、発達障害の当事者でない人にもぜひ着てほしいです」と語る。その思いがあるからこそ、デザインにはこだわった。
「発達障害というのを全面に出したくないんです。だからこそ公式サイトでは、従来の“感覚過敏”ではなく、“ハイリーセンシティブ”という表現を採用しています。『gftd. fashion』の服を着るときに『これは発達障害者の服だ』と気後れしてほしくないし、周囲から『あの服を着ているってことは、あいつは発達障害者だ』と思われる状況も作りたくない。当事者と非当事者が一緒になって『この服いいよね』と言い合えるものを作りたいと思っています。発達障害の人はコミュニケーションも苦手だったりしますし、『gftd. fashion』が楽しい会話のキーワードになればいいですよね」
発達障害の当事者と非当事者の間に垣根を作りたくない――。その思いのもと、現在は『gftd. fashion』のショップを併設したカフェを準備中だそう。GIFTED AGENTでは今夏、そのショップ兼カフェも収容したコミュニティビルを東京・早稲田にてオープンする予定。1階がショップ兼カフェ、2階が子供たちのためのフリースクール、3階が発達障害などのマイノリティが集まるコミュニティスペースとなる計画だ。
「GIFTED AGENTの理念は、『偏りを活かせる社会を創る』。衣食住に加え、“働く”、“学ぶ”と社会を作るために必要な要素を詰め込んで、うちの会社が目指す社会のスモールケースを作ろうとしています。その中で、人々がどんな動きをするのか見てみたい。もちろん、発達障害ではない人も受け入れるつもりです。誰もが垣根なく一緒にいられる場所になればいいなと思っています」
(原田イチボ@HEW)