ヒモは、愛される存在でいることが必要。養ってもらう立場なので当然だ。
ムカつかれたらおしまいだし、お金を引っ張らなければならないし。細い糸の上を歩くような慎重さと緻密さが不可欠になってくる。

7月28日よりスタートしたドラマ『ヒモメン』(テレビ朝日系)を観て驚いた。窪田正孝扮するヒモ・碑文谷翔に、慎重さのカケラもなかったのだ。
「ヒモメン」窪田正孝と川口春奈はバカ同士。他人の物をすぐ現金化しようとする窪田の手癖に非難轟々
イラスト/Morimori no moRi

窪田正孝と川口春奈による“バカ同士のドラマ”


第1話の冒頭から、いきなりひどい。交際する看護師・春日ゆり子(川口春奈)が帰宅するや、空腹をアピールする翔。ゆり子が出勤前に渡したお金については「ドブに落とした」と見え見えの嘘をつく。ゆり子が後輩にもらったお土産のお人形を携帯で撮り、勝手にネットで売ろうとする。
開始から3分もしないうちに、これらのクズ行為で女性視聴者からの反感を全力で買った翔。

一方のゆり子もいけない。バックハグをされただけで恍惚の表情になり、「しょうがないなぁ〜」と全てを許すチョロさである。幸せの沸点が低いよ!

要するに、バカップル。バカ同士のドラマだと、オープニング3分で理解できた。


特に、翔は本当にヤバい。彼のクズ行動を以下に紹介しよう。
・ゴミ捨てを頼まれ、マンションの2階からゴミ置き場へダイレクトにゴミを投げる。
・腹痛で病院へ行き、診察料をツケにしようとする。
・ゆり子の職場に訪れ、病院で金をたかる。

ゆり子は、翔を更生させたいと願っている。職に就かせたい。そこで彼女は、減る一方の貯金残高を見せて翔の危機感を煽った。
これが、功を奏したか? 翔は思いつめた表情で家を飛び出し、そのままハローワークへ駆け込んだ。やっと、働く気になったか! ……違うのだ。ハローワークの建物を確認し、雨がしのげる場所を探してきただけ。これで、ホームレスになっても大丈夫! いやいや、ハロワでホームレスなんて笑えないだろう。
何かのメッセージかと思われる。しかも、田んぼで“食べられる野草”を山ほどむしり食料の足しにしようと考えたが、食べたら腹を壊してしまった。

ゆり子は、翔の何が良くて付き合っているのだろう? それとも、看護師だけに母性が強いのか? 仕事で患者に尽くし、私生活でヒモに尽くす。ハードな職場だからこそ「ヒモに癒されたい」という気持ちになるのかもしれない。

人の物をすぐ現金化しようとするヒモ


初回の翔は、本当にヤバかった。彼のせいでゆり子は大ピンチに陥ったのだ。

ゆり子の勤務先に、VIP患者・矢沢(宇梶剛士)が入院してきた。病院の出資者でもある矢沢は個室でインコ「ペーちゃん」を飼い始め、ゆり子はペーちゃんのお世話を押し付けられることに。
小遣いの無心に来た翔は、ペーちゃんのお世話に苦戦するゆり子を目撃。ゆり子を思い、代わりに餌付けを試みるも、鳥かごの扉を開けたままトイレへ行き、その隙にペーちゃんは逃げてしまった。矢沢は激怒し、ゆり子は責任を取らされて退職の危機に……。

責任を感じた翔は、同じ種類のインコを買って矢沢にあてがい乗り切ろうとした。しかし、このインコは最低3万円するらしい。
翔は働いていない。だから、金がない。そこで翔、ゆり子が大事にしている全巻揃いのコミックスを売りに出してしまった。結果、査定額は1,000円。しかも、それを軍資金にしてパチンコでする悪循環。

最終的には「片っ端から探してきた」と泥だらけで現れた翔が、インコを矢沢に差し出して一件落着! もちろん、本当にペーちゃんを探し出せるわけがない。ブリーダーから同じ種類のインコを譲り受け、代わりのインコをあてがったのが真相だ。
とは言え、譲り受けるのもタダじゃないはず。なんと、1万円かかっているという。そのお金を翔はどうしたのか?
「まだ、秋冬物の服って使わないよね。知ってた? 夏の間はね、これから到来する秋冬の服が高く売れるの。査定額もア〜ップ!」
今度は、ゆり子の服を売っていた翔。
最悪である。

お人形、マンガ、服……。やたらと、他人の持ち物を現金化しようとする悪癖が翔にはある。特に服とマンガなんて、“勝手に売られてブチ切れるランキング”のトップ5には個人的に入ってる。自分の家にある物がどんどんなくなるなんて、恐怖以外の何物でもない。

やはり、翔は働くべきだと思う。お金さえあれば、大半のトラブルを未然に防ぐことができた。ゆり子の職場の先輩・田辺聡子(佐藤仁美)も、ヒモの餌食にかかったことがあるらしい。彼女は力強く断言する。
「ヒモとの関係に未来はない! あいつら、自分のことしか考えていないんだから」

権力者vsヒモ


このドラマの真意は何だろう? だって、ヒモのダメさ加減ばかりが印象に残るのだ。

そんな中、一箇所だけ翔とヒモのいいところを描く場面が存在した。それは、権力を使ってゆり子をいびるVIP・矢沢と翔が対峙した瞬間だ。

「お金、払ってください。ゆり子に鳥の世話とか餌作りとか、余計な仕事させましたよね。その分のお金を、ちゃんとゆり子に払ってください! それ、看護師の仕事じゃないですよね!」

まだ、怒りは収まらない。「インコを逃亡させた」として、ゆり子は濡れ衣を着せられている。そして、退職を迫られた。
「これって、何とかハラスメントって言いません? あなたを訴えたら勝てるんじゃないですか!?」

矢沢は権力者だ。「職場に圧力をかけてキャリア終えさせる」と、翔に脅しをかけて反撃する。でも、翔は強い。少なくとも矢沢には強い。
「俺は無職です! 失うものなんてありません。あなたがどれだけの権力使おうと、無職の前では無力です!

地位を利用してパワハラをする権力者。そのヒエラルキーの内にいない無職者ならば、風下に立つ必要はない。
どの看護師も矢沢の横暴を見て見ぬふりしてきたのに。
逆に言えば、社会の理不尽に辟易し、その枠から外れたいがために無職を選ぶ若者が生まれているのかも。働かないで生きるにはどうすればいい? それは、ヒモだ。ヒモの身分から語る風刺。不意打ちで社会問題をぶっ込んでくるから焦る。
「あなたみたいな人の言いなりになるくらいなら、無職になったほうがよっぽどマシです! お金持ちで権力があるからって、誰でも言いなりになると思ったら大間違いです!!」(ゆり子)

確かに深いことを言ってるけれど、天狗にならないでほしい。翔のクズ行動に怒りの声を上げた視聴者が、SNS上では多数存在するのだ。目についたのは「むかつく」「イライラする」「愛すべきヒモかと思ってたら、これはヤバいヒモ」「ヒモだけじゃなくてクズだった」といったツイートたち。

何度も言うが、ヒモは“愛される存在”でいるべき。ゆり子だけでなく、視聴者にも愛でてもらえるよう翔には精進してほしい。『ヒモメン』第2話は、今夜23時15分から。
(寺西ジャジューカ)

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土曜ナイトドラマ『ヒモメン』
原作:鴻池剛
脚本:森ハヤシ ほか
音楽:井筒昭雄
演出:片山修(テレビ朝日) ほか
ゼネラルプロデューサー:横地郁英(テレビ朝日)
プロデューサー:秋山貴人(テレビ朝日)、河野美里(ホリプロ)
制作協力:ホリプロ
制作著作:テレビ朝日
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