海があり、緑があって、カンガルーやワラビーといった野生動物が生息するオーストラリアは、土地も広い。世界の経済・統計情報サイト「世界経済のネタ帳」によると人口密度も1平方キロメートル当たり3.20人で、1平方キロメートル当たり335.39人の日本と比べると、かなり密度が少ない。
イギリスのドライクリーニング&ランドリーの会社ZIPJETが調べた、ストレスに関する研究データが記載されたウェブサイト「ZIPJET」によると、オーストラリアのシドニーはストレスの少ない都市8位にランクインされている。日本はどうかというと、東京のランクは72位だ。ストレスの原因の一つには、労働時に関する人間関係や、会社の待遇などが挙げられる。ストレスを軽減するための休息だって必要だ。
日本では、「なかなか有給が取れない」「有給が消化できない」「休日も出勤しなければならない」などの声が聞こえてくるが、オーストラリア人たちは休暇をどのくらい取っているのか。シドニーで聞いた。
3カ月間の休みをもらう代わり緊急の仕事はネットで
最初に質問に答えてくれたのがシドニーの銀行でパート社員として働く男性。彼は休暇を3カ月取得する予定だ。通常、正規の社員に与えられる休みは4週間。それと比べてもはるかに長い。
――3カ月も休みを取っても大丈夫なのですか?
絶対に休みを取りたいので、1年前から上司に相談しました。休みを取る際は、繁忙期を避ける等の工夫は必要です。
――3カ月も空けると仕事が滞りそうですが。
インターネット環境下でコンピューターさえあれば仕事ができます。3カ月間、仕事から完全フリーとはいきませんが、メールや電話、インターネットを通して仕事をすることで上司の承諾を得ています。仕事をやめるわけではないため、帰国後に就活などの心配をしないですむのが良いところです。
――仕事に対するストレスはありますか?
仕事の量が多くストレスだったため、4日から3日の労働に切り替えてもらえることになりました。上司に相談して数カ月のうちに対応してくれたのでいい会社だと思います。勤務日が3日になったらストレスは軽減できるだろう、と上司は相談に乗ってくれました。
本当なら2カ月休みたいが1カ月で我慢
次に聞いたのが大手ホテルのスーパーバイザーを務める正社員の男性。彼は法で定められた正規通りの4週間の休暇を取得している。
――日本で会社勤めをしていると、なかなか4週間も休暇は取れません。
本当だったら2カ月は取りたかったです。サービス業であり、スーパーバイザーの立場から4週間の休みの許可を毎年もらっています。
――いつでも休みを取れるというわけではないですよね?
夏(南半球の夏は12月から2月)は、忙しいので休みが取れません。主に冬(6月から8月)に取るようにしています。
――仕事でのストレスはありますか?
上司と部下、両方からきます。仕事のシフト決めで部下から文句が出たり、上司からもっといいサービスができないか、などのクレームを受けます。ただし、会社が嫌になるほどのストレスではないです。
海外出張の前後に休みを入れてバケーションに
3番目に聞いたのが民間非営利団体(NPO)で秘書をする正社員の女性。彼女の場合、休暇を年2週間と各海外出張時の前後数日間に取っている。
――まとまった休暇が2週間というのはオーストラリアでは短めですね。
海外出張が東南アジアのリゾート地の近くになることが多く、前後1、2日に休暇を入れてリフレッシュしています。日頃から一生懸命働いているのだから、それくらいは取りたいですね……。年末年始などの忙しくない時期には、2週間ほどの休みを取って、家族のもとを訪れたり、旅行をしたりします。
――仕事にストレスは感じていますか?
非常に強く感じています。繁忙期には吐き気や頭痛もします。新しいスタッフを雇うと言いつつ会社は雇う様子がないことにもストレスを感じますし、他のスタッフの嫉妬やひがみなどもストレスの一因となっています。
――仕事と体調管理のバランスも大変ですね。
いざ病気や緊急なことが起きた時に休めるか、というとそうではありません。具合が悪くても、「午後から出勤できないか」とか「顧客の空港送迎だけでも」と依頼されます。
豪は仕事を失ったときの保証が手厚い
街中で聞き込んでみると、細かなワークライフバランスはオーストラリアでも会社の環境や上司との関係次第とも言えそうだった。ただしオーストラリアでは労働者保護の観点に立った法律も多数制定されている。
例えば、オーストラリア人権委員会法、年齢差別法、障害差別法、人種差別法、性差別法といった法律が労働者を保護している。オーストラリア政府の管理する「FairWork」というウェブサイトでは、最低賃金や、休暇、退職に関する情報が記載され、働き方が公平かどうか確認することも可能だ。これら法律が定められている背景には、オーストラリア自体が、イギリス、ニュージーランド、アジア(主に中国、インド、フィリピン)などからの移民が多くいる国でもあることも関係している。人種、年齢、性別などで差別をしていては、会社も社会も成り立たなくなってしまうからだ。
課題もある。移民による人口増加に伴い、失業率は年々高くなっているからだ。その対策として、政府から非労働者に対する生活保護・就職支援や、低所得者に対する生活保護がある。これらのサポートはセンターリンクという政府の機関が相談や手続きを担当する。そのため日本と比べれば「一度仕事を手放したら生活できなくなる」という焦燥感を伴うストレスは少ない。
(青砥えれな)