日本最大級のアイドルフェスティバルTOKYO IDOL FESTIVAL 2018(TIF)が、去る8月3日から5日までの3日間、東京のお台場・青海周辺エリアで開催された。
TIF2018を徹底的に振り返る。パンク、ゲリラ、覆面アイドル…間口の広さも日本最大
今年もSMILE GARDENでオープニングアクトを飾ったももいろクローバーZの佐々木彩夏

夏の恒例イベントとして定着したTIFも今年で9回目を迎え、参加するアイドルは207組1315名におよんだ。
なかには、AKB48グループのように、国内6グループ(AKB本体からはTIF2018選抜、フレッシュ選抜、Team8が出演)およびタイのBNK48を一挙に送り込んできたところもある。そうした複数のグループが参加したファミリーのなかでも、今回とくに私が強い印象を受けたのが、BiSHをはじめとするWACKファミリーだ。

ファミリー内でのグループ同士の結束


BiSHは一昨年、昨年とTIFに出演し、いずれの出演時も代表曲「星の瞬く夜に」を6回立て続けに披露したが、今年は5回繰り返したあと、6曲目に意表を突いて「Buttocks beat!beat!」という曲を持ってきた。「お尻ペンペン!」という掛け声が強烈な同曲は、じつは所属事務所WACKの後輩のEMPiREの曲である。
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激しくヘッドバンキングを決めるBiSH

面白かったのは、EMPiREのほうも、2日目のフジテレビ本社屋1階広場のDREAM STAGEで、持ち歌の「Buttocks beat!beat!」を4回繰り返したあと、BiSHの「星の瞬く夜に」を披露したことだ。まるでエールを交換するように、互いの曲をラストナンバーに選んだというわけである。なお、EMPiREは昨年デビューし、今年4月に初のフルアルバムをカセットテープオンリーでリリースしている。TIFへの出演は今年が初めてだった。
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日が暮れるなか熱いパフォーマンスを繰り広げたEMPiRE

なお、2日目には、やはりWACKファミリーのBiS1stBiS2ndがHOT STAGEであいついでライブを行なっている(両グループはもともとBiSという同じグループだったのが、今年6月より1stと2ndに分かれて活動中)。ステージでは1stも2ndも「BiSBiS」を繰り返し披露したあと、ラストは1stが「GANG2」、2ndが「Plastic 2 Mercy」という曲で締めた。2曲とも、同じ事務所のGANG PARADEのカバーだ。
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ルックスからして個性派ぞろいのBiS2nd

BiSH、BiSの1stと2nd、EMPiREと、ひとつの曲を繰り返し披露したあとで、互いの曲をカバーするというスタイルを共有したあたり、ファミリー一丸となっての“総力戦”という趣きがあった。ファンの熱狂ぶりも群を抜いていた。

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肩を組んで跳ねるBiS1st

同じファミリーに属するグループ同士で協力しあったり、曲をカバーするという光景は、ほかのアイドルのステージでも見られた。

2日目のDREAM STAGEに出演したシュークリームロケッツは、テレビ朝日のオーディション番組「ラストアイドル」から派生したグループの一つだ。同ステージでのラストナンバー「好きで好きでしょうがない」は、ラストアイドル名義の新曲とあって、披露に際しては同じくラストアイドルファミリーSomeday Somewhereも加わっている。
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2日目のステーでパフォーマンスを披露するシュークリームロケッツ。翌日にはラストアイドルファミリーのステージにも立った

また、2日目に出演した前出のBNK48も、「会いたかった」「恋するフォーチュンクッキー」などAKB48の代表曲をタイ語で披露した。「恋するフォーチュンクッキー」はタイでも人気があり、ライブでは、おにぎりを握るような振付の部分をメンバーもファンも「おにぎり、おにぎり」と言いながら踊っているのだとか。
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タイ・バンコクを拠点に活動するBNK48

「かっこよさ」を追求するアイドル


そのBNK48の先輩にあたるAKB48は、1日目に今年のTIFのために結成された選抜チームがHOT STAGEに出演している。そこには48グループ総監督の横山由依や峯岸みなみ、柏木由紀などベテランから、グループの次代を担う若手までが結集した。
 
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AKB48 TIF2018選抜。セットリストのうち3曲でセンターを向井地美音が務めた

このときのMCで、若手の注目株である向井地美音が、自分もアイドルファンなので、TIFのステージに立つことを楽しみにしていたと語った。それとあわせてアイドルの魅力として、「かわいい子たちが、かっこいいパフォーマンスを見せるというギャップ」をあげていたのが印象的だった。昨年のTIFで注目され、今年初めてメインステージであるHOT STAGEに立ったTASK have funなどは、まさにこれに当てはまる。
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キュートなルックスにキレキレのダンスで注目されるTASK have fun

全体からいっても、いまのアイドルは、かわいさよりもかっこよさを追求する傾向にあるのではないか。今年のTIFを観てそれを強く感じた。「楽器を持たないパンクバンド」をフレーズを掲げる前出のBiSHはその代表格だろう。
ファンを煽るように激しくコール&レスポンスを行なうグループも、神使轟く、激情の如く。など各ステージで目にした。
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「神使轟く、激情の如く。」。TIF会場最寄のりんかい線・東京テレポート駅にも新曲ポスターがお目見えした

アイドルの歌唱力は拙いというのも遠い昔の話。いまや見事なボーカルで曲を聴かせるグループも少なくない。なかでも大阪・春夏秋冬(「・」は正しくは星印)のMAINAと、フィロソフィーのダンスの日向ハルの両メインボーカルは双璧をなす。3日目には野外ステージSMILE GARDENに続き、HOT STAGEでのグランドフィナーレでも2つのグループのコラボライブが実現した。
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それぞれ本格派のメインボーカルを擁する大阪・春夏秋冬とフィロソフィーのダンスによるコラボ、その名も「大阪のダンス」

自ら曲を手がけるアイドルも目立つようになった。ゑんらという3人組ユニットは、完全セルフプロデュースユニットとして、独特の世界観を歌った曲を自作自演している。私は1日目のフジテレビ湾岸スタジオ内のDOLL FACTORYで観たのが初めてだったが、和楽器の音を用いたイントロからして惹きこまれた。
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自分たちでつくった曲を歌うゑんら

自作自演といえばこの人、3日目のSMILE GARDEN「サマソニ with TIF」のステージにバンドを従えて登場した大森靖子もかっこよかった。TIFにはメジャーデビュー前の2013年に出演、大きなステージを与えてくれたことに恩返しするつもりで今回出演したという大森は、アイドルへの想いを歌った「IDOL SONG」などを熱唱。やはり代表曲「絶対彼女」では、リフレインされる「絶対女の子」のフレーズを観客にマイクを向けて一緒に歌う一幕もあった。

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大森靖子(右端)のステージにはアップアップガールズ(仮)のメンバーも飛び入り出演した

大森靖子に続き、セルフプロデュースで注目されているアイドルに眉村ちあきがいる。今回のTIFには出演しなかったが、3日目、お台場にバスを貸し切って現れた。TIFの会場周辺をバスでまわりながら、その車中でファンを前に弾き語りを行なうというゲリラ的な行動だ(眉村は「バスジャック」と称して、以前から何度かこうしたライブを行なっている)。思えば、今年初めてメインステージのHOT STAGEに立ったベッド・インも、ゲリラ的に会場に現れてファンと交流したのがそもそもの始まりだった。ひょっとすると、眉村もこれをきっかけにTIFに出演するようになるのか、それともあくまでゲリラを貫くのだろうか。

ちなみにHOT STAGEのベッド・インとSMILE GARDENの大森靖子はちょうど出演時間が重なった。この2組が出演するところからして、TIFの間口の広さがうかがえよう。これは毎年TIFを取材するたびに思うことだが、あまりに多様化が進み、一体アイドルとは何か、その定義が年を追うごとに難しくなっている気がする。
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昨年、姉妹グループの欅坂46と一緒にTIFに初出演したけやき坂46は、今年は単独で1日目のメインステージのトリを務めた

今年初めて出演したなかには、「・・・・・・・・・」のように、全員匿名で、ステージにも目を覆面で隠して登場するという具合に、メンバーの個性をあえて消したグループもあった(ちなみに正式な読み方もないが、メンバーは便宜的に「ドッツトーキョー」と自称していた)。そのパフォーマンスも、まったくボーカルのない曲で始まったので、「ひょっとして歌わないアイドルなのか!?」と思いきや、次の曲ではちゃんと歌って、意表を突かれた。
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ノイズサウンドやコンセプチュアルな活動でも注目される「・・・・・・・・・」

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「・・・・・・・・・」とコラボする機会の多いtip Toe。クオリティの高いサウンドが聴かせる

こうしたグループが続々と登場し、アイドル像が多様化し続けているのも、TIFのような、パフォーマンスがあるレベルに達してさえいれば何でもありという受け皿があるからこそではないか。

一方で、多様化と逆行するように、ソロで活動するアイドルが減っているのは興味深いことだが。
今年のTIFを見ても、ソロで出演したのは常連の吉川友寺嶋由芙など数えるほどしかいない。なぜ、ソロアイドルは消えたのか? それは現在のアイドルシーンの実態をとらえるうえでも、一つの鍵になるのではなかろうか。
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i・Ris(・は正しくは星印)での出演とあわせてソロでもTIFに参戦した芹澤優

人気グラドルが3年ぶりにTIFに帰還


さまざまなコラボが見られるのもTIFの醍醐味だ。先述の大阪・春夏秋冬とフィロソフィーのダンスのほか、元Dream5で現在グラビアアイドルとして人気を集める大原優乃は、同じ事務所の東京女子流と組み、「東京女子流with大原優乃」として出演している。大原にとっては3年ぶりのTIFとなった。
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東京女子流とTIF限定ユニットを組んだ大原優乃

“TIF復活組”では、でんぱ組.incも3日目のSMILE GARDENに2年ぶりに出演した。昨年新たにメンバー2名が加わり7人体制となってからは初のTIFだ。ステージを縦横無尽にかけまわるパフォーマンスは、これぞでんぱ組と思わせた。
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でんぱ組.incは写真中央の鹿目凜(たまご色)と根本凪(緑)が加入し7人体制になって初めてTIFに出演した

TIFを彩ったグループがあいついで解散へ


でんぱ組に昨年加入した一人である鹿目凜(昨年SNSで流行した「『彼女とデートなう』って使っていいよ」の生みの親でもある)は、それ以前から所属していたベボガ!と兼任を続けてきた。しかしベボガ!は来月の川崎クラブチッタでのライブをもって解散が決まっている。

ベボガ!だけではなく、今年のTIFを前にPASSPO・(「・」は正しくは星印)、ベイビーレイズJAPANバニラビーンズがあいついで解散を発表。最後のTIFを迎えるグループがひときわ目立つ年になった。

バニラビーンズは2日目のSMILE GARDENのステージに登場、第1回から出演してきたTIFを振り返って「私たちが唯一アイドルになれる場所」と語り、さよならを歌った「ニコラ」など3曲を披露した。
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今年のTIF開催直前に解散を発表したバニラビーンズ。10月の単独ライブと感謝祭をもって活動を終える

ベイビーレイズJAPANは3日目夕方のSMILE GARDENが最後のTIFのステージとなり、大勢のファンが集まった。
最新曲「僕らはここにいる」など6曲を歌いあげ、やりきったという表情を見せたメンバーに対し、惜しみない拍手が送られる。最後にリーダーの傳谷英里香が、「きょうもこんな最高な景色を見せてくださって、ありがとうございました」と感謝を伝え、締めくくった。
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ベイビーレイズJAPANのTIF最後のステージ。9月24日の山中湖での野外ライブをもって解散する

PASSPOのTIFラストステージは3日目の夜のHOT STAGE。私は残念ながら観られなかったが、そのあとの同会場でのグランドフィナーレに登場したHKT48の指原莉乃(昨年に続きTIFチェアマンを務めた)によれば、PASSPOのステージを裏でHKTが出番を待ちながら観ていたところ、圧倒されて泣いてしまうメンバーもいたという。

ここにあげたのは第1回より出演してきたバニラビーンズをはじめ、いずれもTIFの歴史を彩ってきたグループだ。それだけに、TIFにとっても一つの区切りを感じさせた。

会場で配られた手づくりのチラシに感涙


そういえば、先月下旬、やはりTIF常連の9nineから「重大なお知らせ生配信」を行なうとの告知があり、まさか解散発表かとファンが色めき立ったことがあった。結論からいえば、解散ではなく、約1年ぶりとなるシングルの配信が決まったとの発表だったのだが、これまで多くのアイドルの解散が「重大なお知らせ」という言葉のもと発表されてきただけに起こった騒動であった(これについてはBuzz Feedがくわしく検証している)。

その9nineはTIFに3日間出演。私は1日目夜のSMILE GARDENのステージを観たが、すっかり大人になったという印象を受けた。今年のTIFでは、新曲やライブ情報、メンバー紹介などを掲載したチラシを配布している。これが文字はすべて手書き、写真も切り貼りという手づくり感あふれるもので、初心に帰ろうという彼女たちの意気込みが伝わってきた。

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TIF会場で配布された9nineのチラシ

9nineは今年で結成13周年、現在のメンバー4人がそろってからも(このとき加入した川島海荷は一昨年に卒業)すでに8周年を迎えた。大人になるのも当然である。ちなみにメンバーの一人、ちゃあぽんこと西脇彩華は、Perfumeのあ〜ちゃんこと西脇綾香の妹だ。Perfumeは結成から18周年、メンバーが30歳になろうかという現在も積極的に新しいことに挑戦し続けている。9nineにもぜひそれに続いてほしい。さまざまなスタイルが提示されつくした感のあるアイドルだが、そのなかでもまだ挑戦の余地が残るのは、ひょっとすると「年齢」かもしれない。

TIFも来年で10回目を迎えるはずだが(再来年のオリンピックとの兼ね合いなど気になる点はあるが)、今年出会ったアイドルと再会できること、そしてまた新たな出会いがあることを願わずにはいられない。
(近藤正高)
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