ネタ振り(伏線の提示)のフェイズが延々続いていた『高嶺の花』(日本テレビ系)。行間を想像して楽しみ続けていたものの、そろそろ……というか、とっくに我慢の限界だった。
(関連)
「高嶺の花」裏切る石原さとみに先手を打った峯田和伸のアクアマリン5話
ドラマ「高嶺の花」 オリジナル・サウンドトラック/バップ

ようやく、8月8日放送の第5話からは回収作業に入った模様。

人間関係でも数手先を読む峯田和伸


思わせぶりな場面ばかりなのだが、ずっと気になっていたのは第1話のエンディング。携帯の将棋ゲームでレベル99に到達、しかも勝率が100%に達していた風間直人(峯田和伸)の能力についてだ。

前回のエンディングで、直人は月島もも(石原さとみ)と一夜を共にした。たった一度、体を交わしただけで月島家に招かれる直人。ももは直人に何の相談もないまま、月島流家元の父・市松(小日向文世)に宣言する。
「(直人と)早々に式を挙げるつもりです」
「私にそんなつもり(家元を継ぐ意向)はありません。風間の姓をいただくつもりです」

意図を即座に察知した直人は、ももに合わせる。養子に入るつもりがあるか市松に問われた直人は、はっきり突っぱねたのだ。
「それは……できかねます。しがない店ですが、じいちゃんの代からの自転車屋です。私が潰すわけにいきません」
ももは、自分の思いを汲んでくれた直人に弾けるような笑顔を見せ、“グッ”と親指を立てた。

第5話は目まぐるしい。
実の母との秘話を市松から伝え聞いたももは、心変わりした。家元になる決意を固めるのだ。やはり、直人は察する。上機嫌で朝食を作るももの姿に、母・節子(十朱幸代)の教訓を思い出すのだ。
「朝から機嫌がいい女なんて、久々亭主に抱かれた以外ありえないねえ」
「普通にしてたらばれそうだから、ごまかしてんのよ。嘘と裏切りを」

直人はももに指輪を渡した。指輪を見て固まるもも。
もも これって……
風間 人魚の涙から生まれました。
もも アクアマリン……(笑)?

「船乗りに恋した人魚が、叶わぬ恋に流した涙が宝石となった」という伝説が、アクアマリンにはある。全てを察し、なおかつ受け入れる直人。自分との結婚は破綻してもいい、ももが幸せになるならば。その心境がアクアマリンが示している。


自転車日本一周を目指す引きこもり中学生・堀江宗太(舘秀々輝)は、道中で坂東(博多華丸)に出会った。日本一周に挑戦するきっかけを聞いた坂東は、直人の聡明さに感心する。
「その自転車屋さん、面白い人だね。いや、だって君、家にいたらいつかお母さん殺しちゃったろ? 全てが気に入らない、その元凶は母親……って話だもんね。その自転車屋さん、きっと結構頭がいいね」
追い詰められていた宗太を一人旅に出さないと、最悪の結果になっていた。直人は、不幸にならない方向に宗太を促していた。ももに対する態度と同じである。

将棋は数手先を読む勝負。勝率10割の直人は、人間関係でも先を読む。ももが風間姓を名乗るほうが幸せなら合わせるし、家元を目指したほうが幸せならならば受け入れる。関わる人が幸せへ向かうよう、直人はいつも先手を打っている。

小日向文世が作り話を?


90年代にタイムスリップしたかのようだ。
野島伸司の世界観、いよいよフルスロットルである。なんと、家出して行方が知れなくなっていた吉池拓真(三浦貴大)が月島家に現れ、市松に大ケガを負わせ逃亡したのだ。「純愛エンターテインメント」と聞いてたのに、いきなりサスペンス……。

病室で、市松はももに月島流を継いでほしい理由を明かした。母は自らの命と引き換えにももを出産した。その時、母は市松にこんな言葉を残したという。
「あなたは家元であり、この子は月島を継ぐ子なのだから。自分の命に代えても産む価値のある子なんだ」
妻の願いを叶えるには、ももの才能を潰してはならない。だから、拓真との結婚を破綻させた。それが市松の言い分だ。

この説明、はっきり言って引っかかる。ももの実父は運転手の高井雄一(升毅)だと前話で明らかにされたばかり。
そんな相関図の中、「あなたは家元であり、この子は月島を継ぐ子なのだから」と堂々と言えるだろうか? つまり、「ももに跡を継がせたい市松の作り話ではないか?」という疑問が残るのだ。

そして、この作戦は功を奏した。
「わかった。わかったから、もう……。本当の自分を取り戻す。もう一人の自分を引っ張り出せばいいのね?」(もも)

ももはしきりに“あっちの私”と”こっちの私”という表現を用いる。風間らと過ごし、キャバ嬢を演じるのが”あっち“で、華道の家元の娘として存在するのが”こっち“。取り戻すと決意した「もう一人の自分」とは、“こっちの私”のことだ。

「方法はわかってるのね? そう、罪悪感なのね……?」(もも)
家元になるには、罪悪感が必要。わかるようなわからないような理論だが、その生贄は直人しかいない。罪悪感を得るため、幸せを感じ合っていながらももは直人を裏切るつもり。そして、やはり直人は察する。
もちろん、ももの裏切りは受け入れる。前述の“ももの上機嫌”と“直人の勝率10割”に着地する関係性である。

風間がももに指輪を渡したシーン。受け取ったももは数秒固まり、複雑な表情のまま涙を浮かべた。直人の愛を利用しようとしている自分。申し訳なさを感じたゆえの涙だ。その時、直人が発したのは「それでも、愛してます」という言葉。
次回予告がエグかった。結婚式で、ウエディングドレスのまま式場から逃げ出すもも。でも、きっと直人は受け入れるだろう。先手を打つ直人は、全てを察した上で「それでも、愛してます」なのだ。

そういえば、峯田和伸率いる銀杏BOYZはメンバーが一人抜け、二人抜け、今では峯田のみ所属するバンドとなってしまった。
次週ももが去るということは、ドラマでも峯田は一人になるということか……。
(寺西ジャジューカ)

『高嶺の花』
脚本:野島伸司
音楽:エルヴィス・プレスリー「ラブ・ミー・テンダー」
チーフ・プロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松原浩、鈴木亜希乃、渡邉浩仁
演出:大塚恭司、狩山俊輔、岩崎マリエ
※各話、放送後にHuluにて配信中
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