「社内カフェ」導入企業が増える理由  事例や効果、アイディアを総まとめ
株式会社ドリコムの社内カフェ (C)アスクル株式会社

「毎日、決まった人としか話さない」「同僚の顔と名前が一致しない」「コミュニケーションの場所を作っても使われない」――。社員の数が増えるにつれてコミュニケーションの量が減り、雑談が減ってしまう。
ワークスタイルも、かつてのように集団で同じ仕事をするものから、個人やチーム単位でプロジェクトを行うスタイルに変化しつつある。従来のオフィスではコミュニケーションが不足しがちになる。

コミュニケーションが不足すると、「誰が何をしているのか」「今、会社はどんな状況にあるのか」が不透明になり、会社が直面している問題に対する意識が希薄になったり、経営層と社員の目線がズレてしまうことになりかねない。ひいては、同僚や上司、会社に対する不信感につながることもあるだろう。

このため、急成長しているベンチャーなどでは、さまざまな工夫を凝らして、公式・非公式の社内コミュニケーションの機会を増やす例が増えている。会社を取り巻く状況を共有できるような全社集会を開けるホールを設けたり、かしこまらない会話ができる非公式コミュニケーションを促すために、社内カフェやバーを設けたりすることが珍しいことではなくなってきた。

中でも「社内カフェ」は、GoogleやFacebookのオフィス事例としても紹介されており、こうした試みの象徴的な存在と言える。本記事では、そうした社内カフェの効果や、各社の事例、コストをかけずに設置する方法、失敗しないための運営アイディアなどを紹介してみたい。


今、社内カフェを導入する企業が増えている理由


社内カフェは、食事もできる福利厚生的な役割や、勉強をしたり、集中して作業したりする場所としての意味もあるが、それ以上に重要なのは社員間のコミュニケーションだ。
異なる部署の人と話したり、雑談をすることによって、仕事上のストレスも解消され、アイディアやイノベーションが生まれるきっかけになる。
社内カフェは、そんな偶発的なコミュニケーションを生み出す“マグネットスペース”なのだ。

社内カフェの利用シーンについて考えてみよう。

1:あいさつがてらプライベートの会話をする場所として
何気ない会話をかわす場所があれば、同僚・部下の成長や見えないSOSにも気づきやすい。
部門間のコミュニケーション不足を解消したり、職場の人間関係を改善したり、多様な人間関係を構築できる。また、雑談からは新しいアイデアが生まれることが多い。

2:ちょっとした相談に使える場所として
メールでは伝えにくいけど、わざわざ打合せをするほどでもないような確認事項や相談ごとができる。

3:休憩して業務効率をアップできる場所として
チームがヒートアップしているため、休憩をとりにくい場面では、業務効率をあげるために社内カフェで気分転換。ちょっとした時間に立ち寄れる新しい快適スポットが、気持ちをリラックスさせ、心身をリフレッシュしてくれる。

また、社内カフェは情報やツールを発信したり共有したりできる場にもなる。社内カフェに掲示すれば、全社メールよりも自然な形で多くの人の目に止まるので、より早く共有したり、出張のお土産や、頂いた差し入れなどを共有したりするにも適している。それらを目当てに人が集まれば、そこにまた新たなコミュニケーションが生まれる。
ちょっとした面談場所、簡単な社内セミナー・イベント会場としても利用できるだろう。

もうひとつ、快適そうな社内カフェには、顧客や新しい人材への企業としての大きなアピールポイントにもなり、企業としてのブランディング効果も期待できる。

まるでオアシス!ワクワクする社内カフェの事例集


陽の光が入る明るい部屋にふかふかのソファ、漂うコーヒーの香り。居心地が良く、自然と人が集まり、コミュニケーションが生まれる、まるでオアシスのような社内カフェの事例をいくつか紹介しよう。

●ディスコの広大なカフェスペース


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株式会社ディスコの社内カフェ (C)アスクル株式会社

就職支援サイト運営等を行う株式会社ディスコは、2016年10月に、1フロア1,000坪(テニスコート12面分)のオフィスに移転し、各事業部を1フロアに集約。カフェスペースや打ち合わせスペースを大幅拡充し、社内にあった壁を取り払い、社内コミュニケーションを大幅に改善した。
社員がランチしたり、休憩したり、ちょっとした打ち合わせ、会議もできるスペースになっている。

●セミナーも開ける、ピクスタの3号カフェ


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ピクスタ株式会社の社内カフェ (C)アスクル株式会社

ストックフォトサービスを提供するピクスタ株式会社のオフィスに設けられた「3号カフェ」(首都高3号線が見下ろせることからその名が付いたそうだ)は、テーブルやソファ、ファミレス席などが設けられており、社員がランチを食べたり、仕事をしたり、自由に使える空間だ。セミナーも開けるように段差がついたミニホールになっている。

●コミュニケーションが生まれるひな壇を作ったマンダム


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株式会社マンダムの社内カフェ (C)アスクル株式会社

男性向け化粧品メーカーである株式会社マンダムのマーケティング青山オフィスにも、エントランスを入ると広いカフェスペースが広がっている。

来客を招いたパーティーやプレス発表会も催される。カフェスペースの天井部分はスケルトン化しており、パーティーホール的に使うことも違和感のない設計だ。カフェカウンターでは立ち話もできる。特徴的なひな壇は、グーグルのオフィスからイメージされている。「皆がフランクにわっと集まってきて、プレゼンテーションもできるし、階段に座ってディスカッションできるような、アメリカの大学のスタイルをイメージしていました」(同社第二マーケティング部主任 室 冬美さん)

●ドリコムの「本職のバリスタがいる社内カフェ」


「社内カフェ」導入企業が増える理由  事例や効果、アイディアを総まとめ
株式会社ドリコムの社内カフェ (C)アスクル株式会社

インターネットにおける「ものづくり企業」を標榜する株式会社ドリコムでは、色合い、配置、バランス、どこを取ってもプロの仕上げの社内カフェを設けている。広さは100平米。大きなイベントの際にはセミナールームと連結して大ホールにもできる。ソファやテーブルで打ち合わせしたり、商談したり、仕事をしたりできる。堅い話は会議室でして、アイデアを練ったりなどのフランクな会議はこちらでする、といった使い分けがされているとのこと。カフェカウンターは、評判のカフェ「ON THE CORNER」(渋谷)が行っており、ドリコムでは「D ON THE CORNER」として運営され、 毎日バリスタがコーヒーを入れてくれるので人気の場所だという。

●ビズリーチの「BIZCAFE」にもバリスタが常駐


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株式会社ビズリーチの社内カフェ (C)アスクル株式会社

株式会社ビズリーチは、2017年3月に社内専用カフェ「BIZCAFE」をオープン。社員専用カフェだが、テーブル席と、ソファ席があり、こちらでもバリスタがコーヒーを淹れてくれる。
社員が社外のカフェに集まっているのを見た役員のアイディアから、この社内カフェが実現したとのこと。

●いたせりつくせり、LINEのカフェスペース


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LINE株式会社の社内カフェ (C)アスクル株式会社

2017年4月に移転したLINE株式会社のオフィスにあるカフェスペースは、ソファ席、テーブル席、カウンター席などさまざまなタイプのシートが250席ほども用意された、かなり広大な空間。月1回の全社集会など、スタンディングでは700人程度まで入れるという。くつろいだり、ノートパソコンを持ち込んで仕事したりできる場所としてデザインされている。カフェスペースの奥には畳のエリアがあったり、技術書やデザイン関係の本、最新の雑誌などが置かれたブックギャラリーも。支払いはもちろんスマホのおサイフサービス「LINE Pay (ラインペイ)」で!

●オフィス全体がハワイになっているノースショア


「社内カフェ」導入企業が増える理由  事例や効果、アイディアを総まとめ
ノースショア株式会社の社内カフェ (C)アスクル株式会社

広告制作事業を展開するノースショア株式会社のオフィスは、港区麻布十番という東京のど真ん中にありながら、徹底してハワイのビーチをイメージさせるデザインになっている。オフィスにいることを忘れてハワイのリゾートで仕事している気分に浸りきれる環境は、社員のモチベーションを高め、クリエイティビティを最大限発揮させる効果がある。カフェでは、社員や、同社のコ・ワーキングスペースの利用者がコーヒーなどを飲みに立ち寄り、会話を楽しむ。

●社内カフェのコストと投資価値


社内コミュニケーションが必要なのはわかるが、こうした社内カフェは大きな企業だけの贅沢で、自分の会社とは無縁と諦めてしまっている人も多いかもしれない。

しかし、創業間もなく、資金的な余裕に乏しいベンチャー企業でも、限られた空間を有効に使い、社員のコミュニケーション活性化できる空間づくりは可能だ。

デジタル広告分野のアドテクノロジー企業、株式会社EVERRISEでは、あまり稼働率が高くなかったセミナールームと休憩スペースだった部分をと合わせて、「Ebar」と名づけた多目的に使えるバースペースに改装した。雰囲気はまったく変わり、スケルトン化した天井はブラックで渋く、カフェバーと呼べる空間が出現している。

「社内カフェ」導入企業が増える理由  事例や効果、アイディアを総まとめ
株式会社EVERRISEの社内カフェ (C)アスクル株式会社


実際に、家具メーカーのイトーキは、社内の書類を半分にするプロジェクトを立ち上げてスペースを節約し、そこにカフェスペースを設置したという。有効利用されていないスペースを見直してみる価値はあるのではないだろうか。
せっかく会議室で社内パーティーを開いても、若手はなかなか集まらない、という嘆きもよく聞かれる。
オフィスの執務スペースや会議室では仕事のイメージが強すぎて、ケータリング料理を取り寄せても、あまり気分が切り替わらず、くつろげないという面がある。

しかし、上記の「Ebar」のようなスペースがあれば、宅配でピザを頼み、あとは缶ビールがあるだけで盛り上がる。執務スペースには手をつけずとも、部分的な改装で魅力的なバースペースを作ることは可能だ。もちろん、パーティー時だけでなく、執務中の休憩やリフレッシュ、ワークスペース、オープンミーティングスペースとしても多目的に無駄なく使えるので、スペース利用効率は非常に高くなっている。

社内カフェを贅沢と考えずに、オープンな会議や執務ができ、全社会議もできるホール機能も考えれば、社員満足を高める設備として投資する価値は十分にあるのではないだろうか。

さらに身近に考えてみよう。
おしゃれな社内カフェをいきなり作るのが難しくても、例えば喫煙所や自動販売機の設置場所など、多くの社員が集まるようなスペースを、ほんのちょっとでも居心地良く改良すれば、そこに社員同士のコミュニケーションが活性化する機会に繋がる。マグネットスペースは、必ずしも広さやおしゃれさが必須条件ではないのだ。

究極的には、社内カフェのコストは、そのスペースの賃料と内装造作費用、あとはコーヒー等の飲み物代などだ。
オフィス家具・文具メーカーのプラスでは、オフィス改善を提案するだけでなく、その活用方法も紹介する“コト提案”を強化しており、「5 TSUBO CAFE」という商品も販売している。

これは1~5坪のスペースで実現できるカフェ造作セットで、コーヒーや植物もセットすることも可能。月17,000円からリースできる。
かりに2坪のスペースをこの設置に使うとして、坪単価2万円とすると、月4万円ほどの賃料と月1万円ほどの飲み物代、合計して約月5万円程度の投資で、社内カフェスペースができてしまうのである。

「社内カフェ」導入企業が増える理由  事例や効果、アイディアを総まとめ
簡単に社内カフェを導入できるプラスの「5 TSUBO CAFE」 (C)アスクル株式会社


こんなコンパクトな社内カフェをオフィスに設置すれば、偶発的なコミュニケーションが生まれ、人をつなぐ場所となり得るだろう。

社内カフェを活性化させるアイディアの数々


Webプロダクションの株式会社シフトブレインでは、コミュニケーションスペースとして使えるカフェスペースを、社内の交流促進だけでなく、社外との交流にも活用している。これにより、スタッフが自然に集うようになり、多層的なコミュニケーションを生み出すようになった。
コミュニケーションスペースの作り方として、シフトブレインの運営方法には多くのアイディアに満ちている。

・コーヒーの香りでスタッフを集める: 早く出社したスタッフがコーヒーを淹れるので、自然に人が集まる。

・「朝のフルーツ」を提供: 月曜朝には、バナナやミカン、ブルーベリーなどのさまざまなフルーツがカフェスペースに運ばれ、好きなものを食べられる。グラノーラや牛乳もあるので、朝食をとるスタッフも。

・ミネラルウォーターや炭酸水などを格安で提供: 会社から補助で安く飲み物を提供。スタッフが立ち寄ったついでに、同僚とコミュニケーションをとったり、その場で仕事をしていったりする。水飲み場に人は集まる、まさにオアシス効果だ。

・カフェスペースで朝会を行う: オフィスが複数フロアに分かれているため全員で顔をあわせる機会を補う場として朝会を設定。朝に全員が一集まることで、1日の中でメリハリをつけて働くことができる。
会議室のように堅い雰囲気にならず、コーヒー片手に少し雑談を交えつつ、顔合わせできる。

・お昼のランチイベントで社内外の交流を深める: 週に1度、ケータリングサービスにカフェで営業してもらい、リーズナブルでおいしいランチを提供。本格的なおいしいランチをお得なプライスで食べられる。

・夜19時からはバータイム: 終業時間以降はお酒を飲めるバータイムに。帰宅する前に立ち寄って、仲間と話して帰ったり、設置されたIH調理器やシンクを使って、腕に自信のあるスタッフが料理を作ることも。

・交流会を開催: 開発メンバーによる交流会を毎週開催。

「社内カフェ」導入企業が増える理由  事例や効果、アイディアを総まとめ
株式会社シフトブレインの社内カフェ (C)アスクル株式会社


社内カフェを舞台にさまざまな取り組みを実施することで、ここまで多くのコミュニケーションが生まれる場所を作ることができるのである。

社内カフェという場所のパワー


人と人がつながる場所にはシナジーが生まれ、新たなアイデアが生まれたり、生産性が高まる。
社内カフェには、集まった人のムードを変えるパワーがある。そこに、「ここでこういうことやったら楽しいんじゃない?」「コミュニケーションが生まれるんじゃない?」というアイデアが載ることで、文字通り「生きた空間」として活用することができるのである。

(「みんなの仕事場」運営事務局)
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