テレビ朝日で放送中のドラマ『ヒモメン』。この作品を初回から観続けてると、フォーマットらしきものがおぼろげに見えてくる。

「ヒモメン」奇跡過ぎる窪田正孝、恋は理屈じゃない川口春奈にバカ負け。報われぬ勝地涼が可哀想だった4話
イラスト/Morimori no moRi

「爽やかすぎるヒモ男VSヒモを更生させたい女」の対立構造を謳っているが、主人公の“ヒモ男”碑文谷翔(窪田正孝)は、きっとこの先も更生しない。逆に、翔に触れることで、周囲の者が軒並み更生してしまうのだ。ヒモゆえの自堕落な持論は無垢に真理を突き、翔のラッキーパンチは大人を良い方向へと目覚めさせる。

初回では「無職の前であなたは無力!」と啖呵を切ることで、パワハラする権力者を改心へと導いた。第3話では、「自分の気持ちに正直に生きる。これが俺のモットー」と諭すことで政治家にスキャンダルを告白させている。

8月18日放送の第4話も、漏れなくそのパターンだった。
「ヒモメン」奇跡過ぎる窪田正孝、恋は理屈じゃない川口春奈にバカ負け。報われぬ勝地涼が可哀想だった4話
鴻池剛『ヒモメン〜ヒモ更生プログラム〜』1巻/KADOKAWA

ヒモの“さぼりたい欲”が「グローバル・スタンダード」だと受け取られる


同棲相手の春日ゆり子(川口春奈)から「ちゃんと就職しなければ付き合えない」と宣告され、家を追い出された翔は、なぜか、ゆり子が勤める病院の医師・池目亮介(勝地涼)のマンションに転がり込む。ヒモの新たなる寄生先だ。

この時の潜入方法は、まるでゴキブリの身のこなしだった。仕事から帰宅して、マンションの扉を開けた池目の背後に密着し、ヒュッとついでに侵入した翔。
池目の自宅のゴージャスさは尋常じゃない。広いわ、天井が高いわ、デザイナーズだわ。
さすが、医師! どう考えても翔より上だ。ゆり子は、ちっとも池目になびきそうにないが……。

ゆり子のことが好きな池目は、翔を助けるふりをして、受かるはずもない大手電機メーカー「ヒエラル電機」との面接をセッティングする。翔を面接で撃沈させ、ゆり子と永遠に別れさせようと目論んだわけだ。
そんなこととは知らない翔は、「サラリーマンはどんなことをしても領収書を切れば、会社から経費として金が戻って来る」と池目から説明され、がぜん就職する気満々に。

面接へ臨む翔にスーツを見立て、「クローゼットにあるから好きなのを使っていい」とカバンを貸す大盤振る舞いの池目。ここで翔が選んだのは、なぜかキャリーバッグだった。キャリーカートで面接へ行く無職……。

ヒエラル電機は、AIロボット開発のために中国・上海のエリート技術者“リン・シャオチャン”を招く予定だった。そこに現れたのは、池目のサングラスを勝手に拝借し、キャリーバッグ片手に颯爽と登場した翔である。異国からのエリートに見えるが、正体はただの入社希望者。でも、開発室長の手柴(長谷川朝晴)は勘違いした。


手柴 ニーハオ。あなたがリン・シャオチャンですか?
 え? ……ああ、はい! 翔ちゃん(ショオチャン)です。聞いてます?
手柴 もちろんです! どうぞ、ご案内いたします。

前話の「お食事券」と「汚職事件」に続き、今回も安定のすれ違いコント。プロジェクト存亡の危機に立ち、切羽詰まる手柴らは無職の翔を丁重に扱った。相手の低姿勢に合格を確信した翔は調子に乗る。何のキャリアも無い無職が、入社条件を提示したのだ。

 仕事中、遊んだりしたいですね。ゲームとか!
手柴 遊びと仕事は分けない。これが今の、グローバル・スタンダードだ。

同社が開発するAIロボットを翔が誤って壊すと、「耐久性に問題があると言いたかったんでしょ?」と手柴はポジティブに認識。奇跡的に、翔の株は上がり続けた。


池目が観せてくれた番組でサラリーマンが土下座する姿を覚えていた翔は、それを意味なくそのまま実践。すると、土下座効果で手柴らは危機を脱出する始末。翔が手柴に感謝される瞬間を、ゆり子はその目で目撃した。

ヒモで無職の持論が超一流企業の開発者が目覚めさせた


ヒエラル電機は、翔のことをエリート技術者として扱い続けた。でも、翔にそんな技術はない。苦しくなった翔は手柴に正体を打ち明けた。

手柴 あなたは技術者じゃないの!?
 今は無職です。
手柴 前職は何を?
 前職も無職。

「前職も無職」、なんたるパワーワードか……。

明日に迫る発表会で完成形AIロボットをお披露目しないと、プロジェクトに関わる者全員が切り捨てられるはず。手柴は頭を抱え、上司への不満を口にした。
「ここまで言いなりになりながら、機嫌を取りながら何とかやってきたのに……」
「あいつは、キャバクラや愛人旅行まで経費で落として、ズルばっかりして! ろくな男じゃない」

ここで、翔が発したのは無垢なヒモならではの持論である。
「手柴さんもズルすればいいじゃないですか。
だって、ズルして夢叶うんだったらズルすれば良くないですか? え、ロボ開発したいんですよねえ? ロボの開発と部長の機嫌、関係ないじゃないですか? 手柴さんって、好きなこと仕事にしてるんだなぁ〜って思ったけど、違うんですね」

翔の言葉に撃たれた手柴は、奇策を思いつく。
「明日、みんなで会社をダマさないか?」(手柴)

とんでもなくアナログな奇策だった。客と会話をするのはAIロボットではない。ロボットが乗る台の下へ身を潜めた翔が代わりに受け答えしている。夢の商品を完成させるべく、手柴が考案したズルだ。

第4話のMVPは勝地涼


第4話は、池目回だった。ラッキーパンチを連発する翔と対称的に、やることなすこと裏目に出てしまう池目。噛ませ犬としての本領を、彼は今回発揮した。

例えば、ロボの下に翔がいることを見破った池目は、壇上に上がりケチを付け始める。そして、台を覆うカーテンを剥ぎ取った池目! しかし、間一髪で翔は身を隠し、池目が恥を掻くだけで騒ぎは終結……。

他にもある。ロボットが未完成だと勘付いた部長は、手柴らプロジェクトメンバーを激しく叱責。
溜まっていた不満が爆発した手柴らは全員で退職を願い出た。
一方、池目は翔が持ち帰った社外秘文書を、翔名義でライバルのオラクラ電機に送付していた。翔を罠にはめるための悪質な密告行為である。しかし、逆効果だった。文書を見たオラクラ電機の担当者は「あなた達の好きなように開発を続けて結構です」と、手柴たちをスカウト! 手柴は「翔が気を利かせ、文書を送ってくれたのだ」と勘違いし、「あなたは最高のビジネスマンです」と翔に大感謝した。

第4話における池目の噛ませ犬事例は、以下の3つだ。
●ゆり子と別れさせるため面接を受けさせるも、合格した翔は超一流企業開発プロジェクトの一員として迎え入れられる。
●発表会で翔に恥を掻かそうとして、池目が一人だけ恥を掻く。
●罠にはめて罪をなすりつけようとしたが、逆に翔をカリスマにさせてしまう。

「全部だ。全部、裏目に出た〜。クソぉ……」(池目)
都合が良すぎてバカ負けする。
し過ぎて、逆に楽しくなってきた。

遂には、ゆり子の心をも取り戻した翔。クビになった翔を、ゆり子は再び自宅に招き入れた。
「俺さあ、仕事するなら好きなこと仕事にしたいから、ずっとゆり子のそばにいる。ずっとゆり子のそばにいることを、仕事にしたい!」(翔)
だったら、家事をしろよというか……。主夫じゃないのに「そばにいる仕事」とは、何ぞや? でも、ゆり子の返答がたまらないのだ。
「いていいよ!」(ゆり子)
まさしく、バカップル。ゆり子はゆり子で「ヒモを更生させたい」の意気込みが足りない。なんだ、このドラマは。

要するに、恋は理屈じゃないということ。アホらしさ最高潮の絵に描いたようなハッピーエンド。バカ負けして、観てたらもはや幸せになるしかない。
(寺西ジャジューカ)


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テレ朝動画

土曜ナイトドラマ『ヒモメン』
原作:鴻池剛
脚本:森ハヤシ ほか
音楽:井筒昭雄
演出:片山修(テレビ朝日) ほか
ゼネラルプロデューサー:横地郁英(テレビ朝日)
プロデューサー:秋山貴人(テレビ朝日)、河野美里(ホリプロ)
制作協力:ホリプロ
制作著作:テレビ朝日
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