9月8日から3週間限定で上映中の劇場版『フリクリ オルタナ』
2000年〜2001年に発売されたOVA『フリクリ』の18年ぶりとなる続編第1弾で、前作を象徴する破天荒なキャラクター、ハルハラ・ハル子も登場。

17歳の女子高生、河本カナの楽しいけれど、どこかモヤモヤした日常は、ハル子との遭遇により激変する。

エキレビ!の上村泰監督インタビュー後編では、終盤のストーリーにも触れながら、カナと3人の親友の関係や、物語を牽引するハル子について、さらに深く語ってもらった。

(ネタバレ無しの前編はこちら)
劇場版「フリクリ オルタナ」上村泰監督の覚悟「他の作品では、こんなプレッシャーは味わえない」
9月27日まで期間限定上映中の劇場版『フリクリ オルタナ』。2000年〜2001年に発売されたOVA『フリクリ』の人気キャラ・ハル子は、本作でもベスパに乗って疾走する

3人の友達は、カナにとって道しるべになる存在


──主人公カナの友人であるペッツ(辺田友美)、ヒジリー(矢島聖)、モッさん(本山満)は、どのようにして生まれたキャラクターなのかを教えてください。

上村 そこは、かなりロジカルに考えたところでもあります。先ほど(前編で)お話ししたとおり、カナは、友達といるのは楽しいけれど自分には夢も無いし、将来、自分はどうなるんだろう、この先には何があるんだろう、みたいなことを考えてモヤモヤしている。そんなカナにとって道しるべになる存在というか。心の変化の過程を見ていく時、どういう子が周りにいると良いかなと考えて、ペッツ、ヒジリー、モッさんが生まれたんです。実際、僕が高校生の時にも、ミュージシャンを目指している友達や、大学生と付き合っている女友達がいたんですよ。そういう、ちゃんと夢を持っている友達や大人びた友達のことを、「すっげー大人だなー」と思いながら見ていました。僕は、学校帰りに本屋に寄ってアニメ雑誌を立ち読みして帰るか、ゲーセンに行く、みたいな高校生だったので(笑)。そんな風に何かをちゃんと考えながら行動している友達からは、すごく影響を受けたというか、いろいろと考えさせられましたね。
劇場版「フリクリ オルタナ」上村泰監督の覚悟「他の作品では、こんなプレッシャーは味わえない」
第2話「トナブリ」では、ヒジリー(写真上)が大学生と付き合っていることが発覚。第3話「フリコロ」では、服飾デザイナーを目指しているモッさん(写真下)がコンテストに挑む

──大学生と付き合っているヒジリー、ファッションデザイナーを目指しているモッさんには、高校時代、上村監督の周囲にいた友達の姿が反映されているのですね。

上村 そうですね。
そして、そういう大人っぽい子にも悩みごとはあるはずなので。彼女たちの葛藤もしっかり描きつつ、友達におせっかいをしてしまうカナも見せたいと考えました。カナたちが4人組になったのは、4人なら全6話の中で友達ひとりずつのエピソードも作れるし、ちょうど良い人数だなと思ったからです。ちなみに、本編の中でも少し触れていますが、カナとペッツ、ヒジリーとモッさんの各2人組はそれぞれ同じ中学の出身で、高校に入ってから合流して4人組になりました。

──ペッツに関しては、どういったポジションの友達というイメージですか?

上村 実は密かにヘビーな悩みを抱えている高校生もいると思うんです。大人になってからよりも、学生時代の方が(周りに)言いづらいこともあるでしょうしね。全体的に明るいテイストで描いている作品ですが、ペッツには、そういう重いところを担ってもらっていて。それを5話でいきなり出していく形にしました。
劇場版「フリクリ オルタナ」上村泰監督の覚悟「他の作品では、こんなプレッシャーは味わえない」
父親が政府高官のペッツ。宇宙人により地球にアイロン型巨大プラントが設置される中、家族と一緒に火星へ移住することに。何も知らされていなかったカナは、なぜ相談してくれなかったのかと問うが……

──5話でペッツがカナに対してかなり厳しい言葉をぶつけたときには驚いたのですが、改めて1話から観直すと、カナは良い子だけれど、少し空気が読めないところもあって。5話よりも前から、時々、ペッツが軽く突っ込んでいます。

上村 チクリと言ってますね(笑)。ペッツはカナのことがすごく好きなんだけれど、おせっかいがひどいよな、と感じていることも真実。
そういったところは、最初から少しずつ出していこうと考えていました。演出する際には、どんなキャラクターであっても、多面的なところが見え隠れするようにしたいんです。例えば、明るくて元気な子でも、その「明るくて元気」の裏にどんな面があるのかはすごく気をつけています。僕は、アニメだからこそ、そういう多面性が浮き彫りにしやすいと思っているんですよ。実写は現象をそのまま映像として映し出すことで空気感を伝えられるんですけれど、アニメは現象をそのまま描いても、そのままのもの(映像)しか映らない。その代わり、多面的な部分を掘り下げて描くと、(実写以上に)ものすごく効いてくる気がするんです。そこがアニメの強みだと感じているので、本当に意識して演出しました。

おじさんの恋みたいな話が面白いんじゃないかという案も


──全6話のシリーズ構成(全体の物語)は、早い段階から固まっていたのでしょうか?

上村 この話の流れになるまで、いわゆるちゃぶ台返しも何度かさせていただいていて、かなり時間もかかっています。途中には、カナと神田(束太)の恋愛物語にしようかという話さえあったくらいです(笑)。

──カナと神田ですか? 神田は、カナがバイトをしているそば屋の常連で、見た目は冴えない中年男性ですが……。

上村 おじさんの恋みたいな話が面白いんじゃないかという案もあったんです。でも、それだと、最初から考えていた高校生のモヤモヤを描ききれない。最終的に今の形に固まったのは、スケジュール的に、そろそろ決まらないと本当にやばいぞという状況になってからです(笑)。
ずっと喫茶店にこもって考えて、ようやく今の形に着地しました。

──いろいろな案を検討したとのことですが、OVA『フリクリ』を象徴するキャラクターのハルハラ・ハル子が登場しない話になっていた可能性も?

上村 ハル子が出てこないと『フリクリ』じゃないよね、ということは最初の頃から思っていました。ハル子が出てくると、状況をすごく引っかき回してくれるので、物語が一気に加速するんです。ハル子の存在の大きさを改めて感じました。
劇場版「フリクリ オルタナ」上村泰監督の覚悟「他の作品では、こんなプレッシャーは味わえない」
ケバブ屋、高校の養護教諭、バスケ部の臨時コーチなど、様々な立場でカナの前に現れるハル子。大人の女性の格好良さと、破天荒で謎めいた魅力を併せ持つキャラクターだ。

──ハル子を描く際、特に意識したことや、難しかったりしたことを教えてください。

上村 ハル子が登場するのであれば、たとえ、ストーリーが『フリクリ』の1(OVA)とは別のものでも、1のハル子を崩してはいけない。僕自身も1が大好きですから、違うハル子は観たくないんですよ。だから、セリフ回しなどもできる限り気をつけていたのですが、僕らは鶴巻(和哉・『フリクリ』監督)さんや、榎戸(洋司・『フリクリ』脚本)さんではないので、あの絶妙なセリフ回しを考えるのはすごく難しくて。そこに関しては、(ハル子役の)新谷真弓さんに助けていただきました。普通、声優さんと監督って、アフレコ当日にスタジオでキャラクターの説明をして、という関係なんですよね。

──基本的には、監督たちの作った台本を元に演じることが声優さんの役割ですよね。

上村 でも今回は、コンテに入る前の脚本の段階から新谷さんに協力をお願いしていて。
「こういう台詞回しは、ハル子っぽくないかも」といったことなどを提案していただいたり、こちらのアイデアも伝えたりしつつ。コンテやアフレコの段階も含めて、かなりディスカッションをしながら、ハル子を作り上げていきました。その中でよく話していたのは、(OVAの主人公のナンダバ・)ナオ太に対するハル子と、カナに対するハル子はやっぱり違うよね、ということ。少し考えてみれば、当たり前のことなんですけどね。例えば、ガイナックス時代に鶴巻さんと話している僕と、今の制作現場で話している僕は、ちょっと違う。当時は制作進行として鶴巻さんと話していたし、今は監督としてスタッフさんたちと話しているので、当然のことなのですが。ハル子に関しても、そういう微妙な違いが出てきて面白かったですね。

──ハル子は、動かしていて楽しいキャラクターだったのでは?

上村 それはもうメチャクチャ楽しかったですね! やっぱり格好いいんですよ! 僕にとって、女性の格好良さを感じたのは(OVAの)ハル子が初めてだったかもしれません。その格好良さはなるべく崩さないように気を付けました。

他の作品では、こんなプレッシャーは味わえない


──非常に思い入れの強い『フリクリ』の新作で監督を務めたことは、上村監督にとって、どのような経験になったのかを教えてください。

上村 僕は今までガイナックスのメンバーとは、あまり一緒に仕事をする機会がなかったんです。まあ、『幼女戦記』副監督(春藤佳奈)もガイナックス出身ですし、全然関わってないわけでも無いのですが。
(ガイナックス出身のスタッフが立ち上げたスタジオの)カラーやトリガーの所属でもないので、比較的、離れてはいるんですよ。でも、こうやって『フリクリ』を作ると、やっぱりガイナックス時代のことを思い出しちゃいますね。ずっと一緒にお仕事をさせていただいていた鶴巻さんも、平松(禎史)さんも、今石(洋之)さんも『フリクリ』のコアメンバーなので。皆さんも『フリクリ オルタナ』を観ちゃうのかな〜とか(笑)。佐藤店長(『フリクリ』の佐藤裕紀プロデューサーの愛称)とはFacebookで交流があるんですけれど、「楽しみにしてるよ」と言われて、言葉にできないプレッシャーを感じました。「ぜひ感想を聞かせてください」と返事しましたが、他の作品では、こんなプレッシャーは味わえないですね。

──プレッシャーを感じつつも、皆さんの感想は聞きたいのですね。

上村 はい。(『フリクリ』を作った)皆さんにどう思われるのかは、知りたいですよね。鶴巻さんには先日、電話して「飲みに行きませんか?」とお誘いしたんですけれど。鶴巻さんが風邪を引かれていて。まだ感想は聞けてないんです。


──アニメファンの中にも、世代的に『フリクリ』を知らない人はいると思います。『フリクリ』を知らない人と『フリクリ』のファン、それぞれにとって『フリクリ オルタナ』がどのような作品になっていれば良いと思いますか?

上村 おそらく『フリクリ オルタナ』は、シリーズの中で一番観やすい『フリクリ』になっていると思います。まだ、『フリクリ』の世界に触れたことの無い方には「最初に『オルタナ』から観てはどうだい?」って伝えたいですね(笑)。ここから入っていただけると、すごく入りやすいかもしれません。その後、『フリクリ』や『フリクリ プログレ』を観て、「『フリクリ』って、こんなに尖った作品なんだ!」と思われたとしても、それはありがたいことだなと思います。一方で『フリクリ』のファンの方には、「ここをチョイスしたんだ」とか「ここはちゃんと『フリクリ』やってるんだな」と発見したり、「こういう『フリクリ』も有りだよね」と感じていただければ、本当にありがたいです。

──私も『フリクリ』のファンですが、サブタイトルの入れ方やアクションシーンなどを観て、すごく『フリクリ』だなと嬉しくなりました。

上村 僕もガイナックスでやっていたので、そういうのは、自然と出ちゃうんですよ(笑)。
(丸本大輔)
劇場版「フリクリ オルタナ」上村泰監督の覚悟「他の作品では、こんなプレッシャーは味わえない」
9月28日〜10月18日に公開される劇場版『フリクリ プログレ』は監督が6人という異例の体制で制作。公開日には劇場で、劇場先行限定版Blu-ray(8,800円+税)も販売される

劇場版『フリクリ オルタナ』
9月7日〜9月27日に期間限定上映

【スタッフ】
監督:上村 泰
副監督:鈴木清崇
脚本:岩井秀人
キャラクター原案:貞本義行
キャラクターデザイン:高橋裕一
メカデザイン:押山清高(スタジオドリアン)
衣装デザイン:谷口宏美
プロップデザイン:細越裕治、秋篠Denforword日和(Aki Production)
美術監督:藤井綾香
色彩設計:中村千穂
CG ディレクター:さいとうつかさ
撮影監督:頓所信二
編集:神宮司由美
音楽監督・音楽:R・O・N
音響監督:なかのとおる
主題歌:the pillows「Star overhead」
スーパーバイザー:鶴巻和哉
総監督:本広克行
アニメーション制作:Production I.G × NUT × REVOROOT
配給:東宝映像事業部
製作:劇場版フリクリ製作委員会

【キャスト】
ハルハラ・ハル子:新谷真弓
河本カナ:美山加恋
辺田友美(ペッツ):吉田有里
矢島聖(ヒジリー):飯田里穂
本山満(モッさん):田村睦心
須藤 完:小西克幸
佐々木 門:永塚拓馬
相田 弁:鈴木崚汰
河本静香:伊藤美紀
河本文太:真坂美帆
デニス用賀:森 功至
木滝真希:松谷彼哉
神田束太:青山穣

(C)2018 Production I.G/東宝
編集部おすすめ