
SUPER BEAVERがなぜ今夏発売のニューアルバムのタイトルを『歓声前夜』としたのかに改めて気づけた一夜であった。まぎれもなくあの作品は、そこに集った者たちの歓声や気持ちが重なった際に完成を魅せる1枚。
結成14年目にして行われた初の全国ワンマンツアー『「歓声前夜」Release Tour 2018 ~初めての、ラクダ運転~』のセミファイナルが10月14日に東京・豊洲PITで行われた。その2日後のファイナル、台風のため12月延期の大阪公演も控えた同ツアー12本目のこの日は、そこで得たもの糧となったもの確信したものを惜しみなく集まった者たちに分け与えてくれた。
「完成」への序章は開演定刻から訪れた。オレンジに浮かび上がるステージに柳沢亮太(G.)、上杉研太(B.)、藤原”30才”広明(Dr.)が悠々と現れる。間を置き渋谷龍太(Vo.)も登場。渋谷がセンターステップに立ち、この日集まってくれたことへの感謝の意を表す。
「俺たちが過去最高の夜を作るのは言わずもがな。今日はあなたと一緒に過去最高の夜を作りたい。俺たちがレペゼン・ジャパニーズポップミュージック・フロム・トーキョージャパンSUPER BEAVERです。最後までよろしく!!」と渋谷。「ふがいない夜こそ」が会場も交えた謳歌大会の幕を切って落とした。




「ダブルスコア、トリプルスコア、いや、それ以上の想い出を作ろう」と渋谷。この日はニューアルバム『歓声前夜』の曲たちを中心に新旧織り交ぜた楽曲たちが会場の一人ひとりに手渡しのように贈られた。
「14年目にして初のワンマンツアーは、(一般的には)ちょっと遅いのかもしれないけど、俺たちだけのステージで日本全国を回り、どんなエネルギーと対峙出来るのか? を楽しみにここまで来た。俺たちは120点を出す。あなたも俺たちと対峙してくれますか」と入った「ラヴソング」では、あなたには幸せになって欲しいとの気持ちが雄々しいコーラスと共に会場中に染み渡っていった。
「対峙」。この日の渋谷は何度もこの言葉を使った。向き合うだけでなくキチンと目と目を見ながら伝え歌う、彼らの歌表現や内容にぴったりのライブの在り方だ。
「言うのと言わないのとでは全然違う。
「ある時期の自分たちの不甲斐なさを助けてくれたのは、みなさんの応援もだけど、自分たちの歌でもありました。あの時は自分たちのために歌っていた。だけど今ならあの時、自分たちを助けてくれた歌たちがあなたのために歌えるんじゃないかって。あの時、自分たちのために歌っていた曲を今日はあなたのために歌いたい」と神々しい白色ライトのなか歌われた、メジャー在籍時の曲で今回リテイクされた「シアワセ」もかつてとはまた違った響き方をした。それはまるで昔埋めた未来の自分への手紙のごとく。あの頃がしっかりと今へと繋がり、自分のここまでの道のりが誇らしく変わっていたことを改めて思い起こさせてくれた。
後半戦はますますボルテージが上がった。疾走感溢れるサウンドと共に放たれ、嬉しさ同様、悔しさまでも受け手に伝えることに長けた彼ららしい「嬉しい涙」、また「閃光」ではボーっと過ごしていたら人生なんてあっと言う間だ。

「今日この景色を見て、ずいぶん頼もしい仲間が増えたなと実感しました。毎日毎日お互い戦っているからそう思えるんだろうね。そんな最高の仲間の中で俺たちがやるべきことは過去最高の夜を一緒に作ることだけ。昨日の自分を悠々飛び越えてやろうぜ!!」(渋谷)と、ここまでの最高峰の更なる高みを目指すべく交わされたアライアンスを経て、曲毎にそれが達成されていく。会場に坩堝を生み出した曲やこの日一番のアンセム的なシンガロングが轟いた曲、この日最大の一体感を味合わせてくれた曲等々、気持ちのみならず、声や身体までも一体にさせてくれる曲たちが連射された。



「このステージから投げる自分たちの気持ちがどのように化けるのか? あなたの中に入って、それをどうガソリンにしていくのか? 俺たちが発信した気持ちがあなたの中にしみ込んで、あなたの気持ちになって俺たちに返してくれる時、俺たちはその気持ちごと受け止める。そして受け止めたその先で更に新しい音楽が生まれる。そうやって出来たのが今回のアルバム。4人じゃどうしたって完成しない。あなたが居て、あなたが受け取ってくれて、あなたの気持ちに変って、それが再び俺たちに投げ返って届く時、それが完成。これからも音楽を幾つも作り、何度も何度もあなたに会いに行く。

アンコールは2曲。この日のために用意されたかのような曲たちであった。と、その前に全国ツアー『都会のラクダ ″ホール&ライブハウス″ TOUR 2019~立ちと座りと、ラクダ放題~』を来春から行うことを告知。これは彼ら初のホールワンマンツアーに加え、各地にて自身の出自でもあるライブハウスでも対バンを迎えプレイする2ウェイのユニークなツアー。この開催報告に会場が歓喜する。


アンコール1曲目の「ありがとう」は、当初予定に無かったが急遽やりたくなって加えられた楽曲。シンプルだけど口に出さないと伝わり切らない言葉が胸のど真ん中めがけて次々ストレートに飛び込んできた。そして、最後は明るくあえて牧歌的に心配ないよと伝えるかのように「なかま」が会場一人ひとりに向けて贈られ、「俺たちは足を使っていくバンド。必要とあれば、あなたのところにも行く。
この日も彼らの過去最高は更新された。寂しいがきっと2日後も12月の大阪公演でも彼らは、この日を上回る過去最高を集まった者たちと共に築いていくのだろう。彼らはこれからもライブ毎に自分たちの自己最高のライブを更新していく。それはもちろん自身だけで達成するものではなく、その場その時に集まった「頼もしい仲間たち」と共に。

取材・文/池田スカオ和宏