
NTTデータは総務省などが推進する働き方改革のキャンペーン「テレワーク・デイズ」に参加。同期間中に、会議の生産性を向上させる目的で同社が開発を進めている「VR会議」を、社内会議にて試験的に利用した。
VR会議のトライアル利用で得られた知見とテレワーク・デイズの実施結果について、同社人事本部人事統括部 ダイバーシティ推進室の来間貴浩氏、技術革新統括本部 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ サイバーフィジカル技術担当の谷宣廣氏、同本部 システム技術本部 生産技術部の中川健一氏、島倉優人氏に話を聞いた。

会話内容をチャットで表示 自動翻訳も
VR会議のシステムは、同社と筑波大学が行った共同研究をもとに開発したもの。今回のトライアルでは、テレワークにおいて短時間でいかにコンセンサスを醸成できるかなど、テレワークにおける遠隔会議の質の向上にVR会議がどの程度寄与するかを評価したという。
システムの主な機能は以下の5点。
(1)隣に人がいるかのような、高臨場な会議空間を実現
(2)会話内容を発話者の上部およびチャット形式で表示
(3)会議内容を文字等によりWEBへ自動で中継
(4)発話者の言語設定に応じて会話を自動翻訳
(5)PC、スマートフォンおよびモバイルVR専用機など多彩な環境で利用可能


筆者もVR会議を体験させてもらった。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着し、コントローラーを手に持って、VR会議を始める。スムーズに、ストレスなくVR会議を行えたことには驚いた。
谷氏にも参加してもらい会話してみたが、2人が会話している内容が空間内に次々とテキストで表示され、かなりの便利さを感じた。
社外会議での利用にはまだ課題あり
実際に社内会議でのトライアルを行った中川氏にも使用感を聞いた。
――実際にVR会議をされていかがでしたか?
中川健一氏 私は自宅で使用しましたが、アクセスやセットアップも容易にでき、違和感なくすぐ会議に入ることができました。仕事の電話がかかってこない中で会議ができると集中できますね。考えは捗ると思います。
――VR会議のシステムを開発した理由について教えてください。
谷宣廣氏(以下、谷) 弊社でもテレビ会議の環境は整っていますが、社内アンケートでは「対面の会議には及ばない」という回答が多くありました。
VR会議ではそれぞれが別の場所にいながら話し合いますから、時間を決め、参加者がHMDを装着するところから始めます。また、ハンドコントローラーを手に持ちますが、仮想現実空間の中で自分の手と同じ場所に疑似的な手を表示できます。これによってジェスチャーを相手に伝えることができます。
――これからVR会議はどう進化していくのでしょうか。
谷 今回のVR空間は堅い会議室としましたが、海辺にしてリラックスしながら会議することも可能です。テレワーク期間中はシステム端末を配布し、社員の自宅や豊洲の本社、ほかの地域でもトライアルを行えました。VR会議は使えるシステムなのか、利用した社員にアンケートをとったところ、85%以上「使える」との回答を得ました。
ただし報告系や情報共有系の会議には使えるものの、その場でのドキュメントファイルの編集などはまだ難しく、その点では対面での会議に「及ばない」という回答でした。
ちなみに社外会議での利用は、まだハードルは高いです。VR端末普及の問題もありますが、利用社員へのアンケートでも採用に耐えられるレベルと回答したのは2割に過ぎません。
――そして働き方のありようも大きく変わっていくでしょうか。
谷 VR会議は2020年の実用化を目指しています。東京五輪が開催される頃には、働き方も今よりもっと変化していくでしょう。仮想現実空間が現実を超えられるほどのリアリティーを持てば、会議はどこにいても開催できるようになると思います。
テレワーク実施した社員「やりませんと言われても、もう戻れない」
――「テレワーク・デイズ」には何人が参加したのでしょうか?
来間貴浩氏(以下、来間) 弊社ではテレワークか時差出勤か休暇取得をコア日の7月24日+2日、合計3日以上行ってほしいと社員に要請しました。今回は75%の社員が3日間以上参加し、管理職は100%テレワークを行うと目標を定めました。テレワークを行う際には、管理職の理解が必須だからです。
結果、延べ42,600人が参加しました。内訳はテレワークが14,700人、時差通勤が19,900人、休暇取得が8,000人です。これは延べ人数ですので、全社員の約11,000人を超えますが、おおよそ95%の社員がいずれか1回実施しました。「社員の75%が3回以上行う」という目標に対しては、84%と達成した一方、「管理職100%達成」はやはり難しく、92%が最低1回はテレワークを行いました。
2018年3月末には業務PCのシンクライアント化とリモートデスクトップを組み合わせた業務環境の構築を全社員・協働者で完了しています。クラウド上でも自席でも、自分のファイルが確認できますので、テレワークがやりやすい環境でした。
――テレワークを行ったうえで感じたメリットと改善すべき点を教えてください。
来間 テレワークは働きやすいという声が弊社内で高まっています。「もし『今後テレワークはやりません』と言われても、もう戻れません」という声もありました。今年は大型台風が何度も日本を襲いましたが、シンクライアント化により、必ずしも会社に来なくてもいいので、事業継続の面でもメリットはありました。
また、採用面でも良い影響を与えています。私も採用活動で面接に立ち会うこともありますが、学生からの働きやすさに関する質問にも、自信をもって回答できます。
デメリットは実はあまりないのですが、業種や職種によってはテレワークを行うことが難しいことがあげられます。システム管理や開発業務でセキュリティ面からやりにくかったり、客先常駐社員の利用が難しかったり、それらに不公平感があります。
――東京五輪の時は、交通インフラの許容能力を超えることになり、テレワークや時差通勤が必須との研究成果が発表されています。
来間 本社のある豊洲での有力な交通インフラは、東京メトロ有楽町線です。
(長井雄一朗)