ここしばらく見た中で、『ファイティン!』ほどまっすぐな映画もなかなかない。「人を外見で判断してはいけない」「たとえ血が繋がっていなくても、人は家族になれる」というまっすぐすぎるメッセージを直球で投げ、そしてマ・ドンソクのかわいさも直球でぶち込んでくる爽やかな映画だ。

究極の適材適所「ファイティン!」マ・ドンソクの腕相撲とかわいさが直球過ぎて恐ろしい

二の腕の周囲が50cmの男が贈る、直球勝負の腕相撲映画!


『ファイティン!』は完全にマ・ドンソクを当て込んで作られた映画である。『新感染 ファイナル・エクスプレス』で日本でも知られるようになった韓国の巨漢俳優マ・ドンソク。実はこの人は1989年に18歳で家族とアメリカに移住し、米国籍を取得している。コロンバス州立大学で体育学を学び、俳優になる前はフィットネストレーナーやボディビルダーをやっていたという経歴の持ち主なのだ。周囲が50cmあるという極太の二の腕は役作りや俳優としてのキャラ立てのために作ったものではなく、元々そっちの畑の人なのである。そういう人が腕相撲を題材にした映画に出る。適材適所の極致だ。

もうひとつマ・ドンソクを当て込んだであろう点として、『ファイティン!』の主人公マークの設定が割とそのままマ・ドンソク本人であるところが挙げられる。マークは韓国に生まれたものの、貧しさから幼い頃アメリカに養子に出され、その後養父母を亡くす。天涯孤独の身となったマークは生まれ持った腕っ節の強さでアームレスリングに挑み、一度はチャンピオンの座を目指したものの八百長疑惑によって競技からリタイア。今はロサンゼルスのクラブで用心棒をやっているという人である。本当は気が優しいものの、見た目のゴツさと、それまでの経験からくる人付き合いの不器用さから周囲にビビられまくっている男だ。

そんなマークの弟分ジンギが、マークを母国韓国でのアームレスリング大会に誘う。
考えた末韓国に渡ったマークはジンギに教えられた自分の実家へと向かうが、家にいたのは見も知らぬ子供2人だった。一方ジンギはサラ金とスポーツ賭博で荒稼ぎするユ・チャンス社長を口説き、社長の鳥羽にマークを売り込む。「八百長ができるならスポンサーになってやる」という条件を提示され、ジンギはそれを飲むことに。

一方マークは再び実家に赴き、そこに住んでいるのは南大門のビルで服屋を営むスジンであり、2人の子供はスジンの息子ジュニョンと娘ジュニであることを知る。その後の賭けアームレスリングで八百長を蹴り、乱闘の末警察に捕まるマーク。国籍の問題もありあわや強制送還となるところだが、そこへ助けにきたのはマークの家族であると証言するスジンだった。スジンの家に転がり込んでアームレスリングの韓国大会に出場しようとするマークとジンギ。一方、スジンにはまだマークに打ち明けていない秘密があった。

『ファイティン!』は「孤独な男が新たな家族と関係を築けるか」「己のプライドを賭けて挑んでいる勝負で不正ができるか」という話であり、最初に書いたようにそこに向けて捻りなしの豪速球を投げている映画だ。だから「観客がこうなったら嬉しいし、こうなってくれないかな〜」というようにストーリーが転がっていく。大体この映画の悪役は嫌味で姑息な金持ちで、そいつが送り込んでくる悪のアームレスリング選手(悪のアームレスリング選手って何……?)は刑務所帰りで他人の手首を破壊するのが趣味という極悪人だ。それに対するマ・ドンソクは孤独だが素朴なおっさんで、八百長はやらず、子供にも優しい。
直球である。

この今時珍しいまでの直球具合が、なんとも見ていて心地よい。特に終盤、この映画が腕相撲の映画であることを活かしたフラッシュバックの演出があるのだが、ここにこの映画の全てのシーンの意味がギュッと集まってくるところはベタながらグッときてしまった。スジンの2人の子供とマークの交流や、お調子者だけど憎めないジンギ、マークの母とスジンの間のある秘密などなど、使えるものは全部使って「家族とは、勝負とはこういうもんじゃい!」というのを伝える。捻って変則的にメッセージを伝えればいいってもんじゃない、この世にはド正面からちゃんとストレートに投げた方がいいメッセージもあるのだ……という、熱い意気込みがあった。非常にいい気分で映画館を出られること請け合いである。

なんでこんなにかわいいのかよ、マ・ドンソクという名の宝物……


製作陣がこの映画で伝えたことがもうひとつ、それは「マ・ドンソクはめちゃくちゃかわいい」という点である。マ・ドンソクはむくつけき大男であり、前述のように二の腕の周囲は50cmあり、はっきり言って顔も怖い。しかしそれだけに、愛嬌のある行動をとっていると普通のおっさんが同じ行動をとっているよりずっとかわいく見える。落差がすごいのだ。

『ファイティン!』がすごいのは、「マ・ドンソクがかわいいだけのシーン』がかなり挟まっているところである。例えば韓国に帰ってきたばかりの夜、マークが滞在するのはラブホみたいなモーテルである。
疲れたマークがその部屋のベッドに寝そべりつつ横に転がっていたリモコンを押すと、ベッドがブルブルと振動する。またボタンを押すと、今度は振動が強くなってしまう。どうしていいかわからず、無表情のままとりあえずベッドの上でブルブルと振動し続けるマ・ドンソク。はい、かわいいですね。

その他にもマ・ドンソクがかわいいだけのシーンが鬼のように詰め込まれている。即堕ち2コマみたいなテンポでマッサージチェアにハマり、そのまま寝落ちするマ・ドンソク。スジンの子供に見つかりそうになり物陰に隠れるも、体がでかすぎて半分くらいはみ出ているマ・ドンソク。立て付けの悪い便所のドアを開けようとしたところドアを破壊してしまうマ・ドンソク。バスの座席に座っている子供をあやそうとしたら力が入りすぎ、片手で吊革を引きちぎるマ・ドンソク。それも割と仏頂面というか、素っぽい表情でこういうことをやる。最初は「ハハハ、マ・ドンソクはおちゃめだな〜」と笑って見ていたものの、途中から「あざとすぎるんですけど! なんなんですか! 責任者を呼んでください!」というテンションになりかけた。まあかわいいから全部許してしまうんですが……。


もちろん、これらのシーンには「マークの人となりを表現する」という立派な目的もあるだろう。しかし、それ以上に「マ・ドンソクがかわいいと嬉しい」「もっとマ・ドンソクがかわいいシーンを入れよう」という思惑もなきにしもあらずだったのではないか。そしておそらく、マ・ドンソク本人も自分がどういう行動をとっているとかわいいのかをよ〜く理解しているはずである。その結果生まれてしまった、幾多のマ・ドンソクがかわいいだけのシーン。なんてあざといんだ……許せねえ……許すけど……!

というわけなので、単純に「かわいいマ・ドンソクが見たい」というだけの動機で見に行ってもゲップが出るほど満足して帰ってこれることは保証する。直球のいい話を見た上にマ・ドンソクのかわいさも堪能できるなんて、恐ろしい映画もあったものである。
(しげる)

【作品データ】
「ファイティン!」公式サイト
監督 キム・ヨンワン
出演 マ・ドンソク クォン・ユル ハン・イェリ チェ・スンフン オク・イェリン ほか
10月20日より全国順次公開

STORY
幼い頃韓国からアメリカに養子に出されたマーク。彼は弟分のジンギと共に、アームレスリングで身を立てるため韓国へと戻ってくる。自分を手放した母がいるはずの実家を訪れたマークが出会ったのは、2人の子供を育てる見知らぬ女性スジンだった。
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