僕が専業主夫になるまでの経緯


専業主夫になりたい、という人が増えました。
特に20代の若い世代から聞くことが多いです。ちょっと昔は「主夫になったら働かなくていいから楽」みたいに仕事から逃げる口実としてジョークっぽく語られていたことが多かったのですが、今は自分のキャリアプランの一部として真面目に主夫を目指す人が増えてきたように感じます。


しかし、主婦・主夫というのはちょっと特殊な職業であり、1人でなろうと思ってもなれるものではないのです。主婦・主夫は「夫婦間での役割分担の結果」なので、まずはパートナーからの理解が必須になります。
それではうちの場合はどうだったか、というと、僕が「主夫になりたい」と言ったとき、妻は「やっとそう思ってくれたのね」と言いました。

自律神経失調症と診断されてから……


意外な言葉に聞こえるかもしれませんが、これにはちょっとした背景があります。
前回の「男のプライド」でも話しましたが、僕は当初は主夫になることは非常に抵抗があり、働くことに異常なまでに固執していました。

自律神経失調症と医者から診断され、目眩や不眠、鬱に苦しみながらも「会社に出社することが絶対的な正義」と信じて疑いませんでした。今振り返ると、なんであんなにこだわっていたんだろう、と不思議なのですが、とにかく当時はそんな状態でした。


ですから、会社に通勤する時にタクシーを使ったりしていました。当時もらっていた給料から考えるとものすごい出費だったのですが、出社自体が目的だったので気になりませんでした。お金を払ってでも出社したい、という感じです。

また、今だから言えますが当時は酒を飲むと体の症状が和らいだので、仕事中にこっそりウイスキーを飲んでいました(!)。本当にそのくらい、心身ともに病んでいました。

そんな状態だったので、僕は毎日ボロボロ。
「仕事が辛い、でも行かなきゃ」と怯えながら過ごす僕を傍から見ていて、妻はさぞ辛かっただろうと思います。妻も何度も「仕事はやめていいよ、生活はなんとかなるよ」と言ってくれたのですが、随分長い間、聞く耳を持ちませんでした。僕が働くことにとても強くこだわっていたので、妻としてもあまり強くも言えなかったそうです。

そんなわけで、話は戻りますが、僕が主夫になりたいと自分から言いだしたのは妻としてはとても嬉しかったのです。稼ぐことより、家族が皆健康で幸せに過ごす方がいい、という当たり前のことを妻ははじめからわかっていました。こういう経緯があったので、僕が主夫になることに、妻は当初から納得していました。


「女だから」という言い訳が通用しない


「誰が養ってると思ってるの?」 専業主夫の僕に妻がある日こう言った
「誰が養ってると思ってるの?」 専業主夫の僕に妻がある日こう言った
「誰が養ってると思ってるの?」 専業主夫の僕に妻がある日こう言った
「誰が養ってると思ってるの?」 専業主夫の僕に妻がある日こう言った

僕は主夫になってから自分の人生観すら大きく変わりましたが、実は妻にも大きな変化がありました。ある日妻が会社から帰ってきて、ふと言った言葉が今でも忘れられません。
一家の大黒柱になるのって、こんなにプレッシャーなんだね

妻は、今までは「自分は女だから、仕事が大変になったらやめちゃおう」というような考えがあったようです。しかし夫が主夫になることで、一家の働き手は自分ひとり。もしも自分が仕事を辞めてしまったら一家全員路頭に迷うことになります。
「慣れてしまえば、そうでもないね。金なくなったらその時はその時だし」
と今となっては楽観的ですが(いや路頭に迷ったら困るんだけど…!笑)、妻も当時は悩んだようです。


その後、妻は自分のキャリアを深く考えるようになりました。よくワークライフバランスの話で「女性は育児や家事があるから仕事のキャリアを伸ばせない」と言われますが、妻はもうその言い訳ができません。主夫である僕が95%の家事と育児をやるようになったので、仕事でキャリアが伸ばせないのは女だからではなく「本人のスキルが低いから」となってしまうわけです(妻は外資系医療業界で女性管理職も多く、「女だから組織で出世できない」も通用しません)。

男性にとっては割と当たり前な「大黒柱のプレッシャー」や「出世・昇給は自己責任」という感覚は妻には新鮮だったようで、はじめは戸惑い、苛立っていました。

ただしばらく経ってどう動くべきか気付いてからは、自分の価値を高めるべく転職を数回して、今でははじめの会社の1.5倍の年収を稼ぐようにまでなりました。

妻「誰が養ってると思ってるの?」


まだ僕が主夫になってから間もない頃です。ある時、夫婦間でちょっとした口論になりました。
理由はもう覚えていませんが、僕の意見を言った時に返された言葉が「私が養ってるわけでしょ。誰の金でご飯が食べれているの?」。

これって今ではモラル・ハラスメントと言われかねない言葉ですよね。よくこういったモラハラは男性から女性に向けて行われますが、こういうのは実は男女の差ではなく、「立場の差」によるところの方が大きいのかもしれない、と思いました。もちろんこの後夫婦で話し合い、妻もこれにはすぐに反省し、二度と言うことはなくなりました。

夫が稼ごうとも、妻が稼ごうとも、夫婦で稼いだお金は夫婦のものです。
なぜかというと、片方が外で稼いでいる間、もう片方は家事や育児など本来もう片方がやるべき作業を手間と時間をかけてやっているからです。

会社で例えれば「営業部門」と「管理部門」のようなもの。営業は金を生みますが、人事・経理・総務はお金を生みません。ただ経理や総務がいなければ、会社は回りませんよね。

どちらが偉い、ではなく分業してお互い協力し合うことで大きく効率化できます。

主夫だけでなく、主夫の妻も変化が大きい


主夫はどうしてもその本人に注目が集まることが多いですが、こうやって考えてみると主夫になることは夫婦の役割分担の結果なので、夫だけでなく妻も同じくらい変化があったりします。

男女の新しい役割を考える議論では、男性だけに変革を求める風潮が強いですが、実際にやってみると男性だけでなく、女性も同じくらい変わる必要があります。男性と女性、常に両輪で考えていきたいところです。
(ムーチョ)

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