バーチャルボーイ、その早すぎた登場に世間の理解が追いつかなかった
画像はWikipedia Commonsより

ここ数年でVR(仮想現実)を用いたコンテンツが爆発的に増えてきている。ゲームしかり、体験型アトラクションしかり。
2016年にはVR元年などという言われ方をしたりもしたが、VR技術自体は50年以上も昔から開発されてきたものだ。

個人で楽しむVRコンテンツといえばスマートフォン用VRアプリだったり、PlayStation VRなどの名前がすぐに思い浮かぶだろう。しかし、忘れてはいけない機器がある。任天堂から1995年に発売された『バーチャルボーイ』だ。

世界初の完全立体映像ゲーム機


“世界で初めての完全立体映像ゲーム機”を謳ったバーチャルボーイは、そのCMだけで純粋なゲーム好きだった当時11歳だった筆者を見事に一本釣りした。

購入当初は大はしゃぎ。赤と黒を基調としたグラフィックは斬新そのもので、覗き込むことで奥行きを感じられる没入感に大興奮しながらゲームを遊んでいた。
ちなみに筆者が一緒に購入したソフトはボンバーマンパズルゲームの『とびだせ!ぱにボン』と、パンチが飛んでくるドキドキ感がたまらなかったボクシングゲーム『テレロボクサー』の2本だった。

しかし、子どもの慣れとは残酷なものだ。ありがたがっていたはずのバーチャルボーイに対して「なぜカラーじゃないのか?」「なんでスタンド式なんだ?」と不満を口にするようになるまでも早かった。

そう、世界初の完全立体映像ゲーム機は、現在のようにスマートフォンを装着して自由に動き回れるVRヘッドセットとは異なり、スタンド固定型だったのだ。ゲームプレイ中の移動が固定されているため、傍から見るとゲームプレイ中の姿は非常にシュールだった。そしてコンテンツも、赤黒のモノトーンだった。



早すぎた登場、世間の反応は薄め


バーチャルボーイは“覗き込む”というプレイスタイルの特性からか、オートポーズ機能を搭載していた。ゲーム映像から逃げ場がないため、設定した時間プレイすると休憩を促す画面が表示されたのだ。「遠くの緑の山を見てね」なんていうメッセージだったと記憶している。しかし、いくら休憩を適度に挟むとはいえ、目に悪影響があるのではないかという不安(特に子を持つ親)も当時はかなり多かった。

また、家庭用ゲーム機としてプレイステーションやセガサターンが登場した90年代半ばは、3Dポリゴンゲームが人気を集めていた時期だ。立体感という意味では遠からず近からずといったところだが、カラーかそうでないかという違いや、1人でしか遊べないということもあってか、バーチャルボーイの販売台数は伸び悩んだ。


今のVRコンテンツの活況を見ると、バーチャルボーイは時代を先取りしすぎていたという感は否めない。日本で発売されたゲームタイトルはわずか19本、それもバーチャルボーイの登場から半年も持たずに新作ゲームは登場しなくなってしまった。

あと20年…、あと20年登場するのが遅ければ、時代はバーチャルボーイにもっと味方していたかもしれない。VRコンテンツが注目を浴びるようになり、思い出したかのようにバーチャルボーイも再注目されているところを見ると、そんなたらればを言ってみたくなる。とはいえ、なぜ中古ショップに売ってしまったのかと嘆く筆者も先見の明は持ち合わせていなかったのだが。

(空閑叉京/HEW)