杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華

11月4日(日)、島根県の美保関にて『神と海の祭』が行われた。これは松江市議会議員・野津なおつぐ氏が発起人となって始まったイベント。
松江市街から車で20分、鳥取県境港市から10分の距離にある美保関は、かつて風待ちの港として栄えたが、現在はイカ釣り漁などを中心とする静かな港町である。そんな小さな集落で行われるイベントにこれまで出演したのは杏子、小林武史、安藤裕子、Salyu、フジファブリック、ポラリス……など超豪華な面々。5回目となる今回はさらにパワーアップした形で開催された。
杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華

杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
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杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
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まず前日、このイベントに全面的に協力しているあらきゆうこの新バンドcalyboo(カリブー)のライブが前夜祭として行われる。当日は作家・田口ランディの講演、絵本と音楽が融合した『絵本の音楽祭』、隠岐の島の海士町で行われた音楽イベント『AMA FES』出張版、地元シェフが地元の食材を使ってコース料理を振る舞う『ダイニングダイアログ』、さらに数々のフードショップやワークショップの出店など多数の企画が目白押し。すべての催しは町の中心である美保神社を中心に、そこに至る参道である青石畳通り、築100年を超える国の文化財・美保館で行われ、入江に広がる町全体がカルチャーの色に染められた。
杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華

杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華

杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華

その『神と海の祭』のメインイベントは陽が暮れた18時前、粋な演出と共にスタートした。今日の出演者である竹原ピストル、ワンショットのメンバーが揃いの衣装に身を包み、提灯行列に先導されて美保館を出発する。青石畳通りを練り歩き、鳥居をくぐって美保神社に入場。深い自然の闇の中、提灯の灯とライトアップされた神社の建物が幻想的な光景を創り出す。境内に入った一行は神主のお祓いを受け、玉串拝礼、礼拝、そしてメンバーを代表して竹原による奉納演奏(アカペラで歌を!)と一連の儀式を執り行う。美保神社は音楽の神様である恵比寿様の総本宮。
つまりこれから行われるライブは『神と海の祭』という名にふさわしく、神様への奉納なのである。
杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華

杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華

この日のステージは美保神社本殿の前に建つ拝殿。拝殿は山に抱かれるように建っており、周りからゾクゾクするような冷気と霊気が押し寄せる。パワースポットとしても有名な場所でのライブ、まず舞台に上がったのはワンショットだ。杏子(Vo,Dr)、あらき(Dr,Vo)、元COILの佐藤洋介(Ba,Vo)、河村隆一などのサポートをこなす福田真一朗(Ga,Vo)による4人組。バンド名通り、当初は一度きりのスペシャルバンドとして結成されたが、あまりに評判がよかったため気付けばキャリアを延長していた。

アンビエントなピアノ音をバックに登場すると、太いギターリフが鳴り響く。1曲目は「Poison Ivy」。あらきのタイトなドラミング、佐藤の安定感あるベース、杏子はスカートのスソを持ち上げ激しく踊り、今宵の“奉納”の火ぶたを切る。続く「満月の3日後」はワンショットのオリジナル曲。福田のギターソロも炸裂し、観客は夜神楽でも観ているような盛り上がりを見せる。松任谷由実の「春よ、来い」をしっとり歌った後は、全員ハッピを着て「幕末wasshoi」。
この場にピッタリの「ワッショイ!」というコール&レスポンスに杏子も「神様も喜んでる!」と笑顔を見せる。ライブは福田&佐藤がヴォーカルをとった「BIRDS」、そして杏子がエモーショナルに歌い上げた「青猫」で幕を閉じた。
杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華

続いて登場したのは竹原。今日は衣装を着ているため(衣装は京都で「merph」というブランドを展開する坂井真吾氏が提供)、いつものTシャツ姿と雰囲気が異なる。ブルースハープを鳴らし最初に歌ったのは「オールドルーキー」。ギター一本の弾き語り。その力強い存在感は、先ほどの杏子が天女だとしたら仁王像のようでもあり弁慶のようでもある。「LIVE IN 和歌山」「よー、そこの若いの」「おーい、おーい」「みんな~、やってるか!」「Forever Young」「ぼくは限りない~One for the show~」……。夜の山中、神社の境内という環境のせいか、竹原の生命力が立ち昇るような印象を受ける。祈りの気持ちを込めて歌われた「Amazing Grace」、ハードコアな魂が浮かび上がる「俺のアディダス~人としての志~」。そこから吉田拓郎「落陽」、中島みゆき「ファイト!」という2曲のカバーを挟んだが、カバー、オリジナル関係なく歌を聴き手以上の誰かに届けようとする竹原の“奉納感”はこの場所に強烈にマッチしていた。ラストは奉納儀式で独唱した「ただ己が影を真似て」が今一度披露された。

杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華

杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華

杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華

アンコールではあらきから挨拶があった。境港出身のあらきは美保神社が大好きで、今年は絶対竹原と杏子をここに連れてきたいと思ったという。大好きな場所に大好きな人たちを集め、大好きな町の人たちに大好きな音楽を紹介するということ。このイベントが実現した縁(えにし)に改めて感謝を述べる。

出演者全員が登場してのセッションはまずあらきが歌う「Train Run」。竹原がKONTA役を務めたバービーボーイズの「目を閉じておいでよ」。そして最後はあらき、杏子、竹原、佐藤が所属するオフィスオーガスタの祭典『オーガスタキャンプ』のテーマ曲ともいえる「星のかけらを探しに行こうAgain」。オーラスは、美保関は古事記に“手を打つ”という行為が書かれた土地ということから一本締めでお開きとなる。
杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華

森閑とする境内に響き渡る澄んだクラップ。顔を上げると奉納された音楽に頬をほころばせるように満天の星空が広がっていた。
(取材・文/清水浩司)
杏子、あらきゆうこ、竹原ピストルらが島根県・美保関で開催の『神と海の祭 2018』で奉納ライブ
撮影/鈴木蓮華
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