
持たざる2人、ボンボンを抱き込んで投資詐欺を開始
映画の語り部はディーンの方だ。ディーンは中産階級の生まれだが、教育に力を注いだ両親によってロサンゼルスの名門校ハリウッド・スクールに通うことととなる。そこで出会った同級生が、ジョー・ハントだった。ジョーもまた、狭いアパートに親と同居する普通の学生。金持ちだらけの学校の中で2人は顔見知り程度の関係だったが、互いの印象には残っていた。
1983年、卒業後にプロテニス選手となったディーンは、ロサンゼルスの上流階級が商談に使うテラスで偶然ジョーと再開する。金融会社に勤めていたジョーはディーンに自ら計画した金投資の計画をディーンに持ちかけ、興味を持ったディーンは彼の友人であるビバリーヒルズのボンボンたちが集まるパーティにジョーを連れて行く。結果は散々に終わったものの、ジョーの計画に可能性を感じたディーンは無断で同級生たちから1万ドルを借り受け、ジョーに貸し出す。
ジョーは自らの計画を元に1万ドルの元手で金投資に乗り出すが、直後に金相場が下落。しかしそこで彼の詐欺師としての才能が開花した。ジョーは再度計画を練り直す。融資された1万ドルは5000ドルの損益だったが、それを5000ドルの収益と書き換え、たった3週間で元金を1.5倍にしたと金持ちの友人たちに吹き込んだのだ。
「BBC」は若手投資家グループとして頭角を現しつつBMWの車を輸入転売する仕事も手がけ、周囲の富裕層からも融資を受けて扱う金の額を大きくしていく。いつしか彼らは「BBC」の頭文字から「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」と呼ばれるようになっていった(実際にはジョーが通っていたレストラン「ボンベイ・バイシクル・クラブ」の略だという)。ウォール街で鳴らしたベテラントレーダーであるロン・レヴィンからの融資も受け、ジョーとディーンは金も豪邸も女も手に入れる。が、虚飾の上に虚飾を重ねて規模を拡大していったBBCの事業は、そういつまでもうまくいくはずがなかったのである。
なんせ投資詐欺の映画である。所詮詐欺なので、手元に本当に金がなくてもあるように見えればいい。というわけで、こういう商売は景気が良さそうに見えるイケイケ感が勝負どころだ。それがなければ「倍にしてきてあげるから!」と親戚の子供のお年玉をかすめてパチンコ屋に駆け込むおじさんと変わらない。要は「君の金を僕に預けると増えるよ!」と言って投資家から金を巻き上げる商売なわけだ。
パチンコ屋に駆け込むおじさんには誰だってビタ一文渡したくないだろうが、それがアンセル・エルゴートとタロン・エガートンの2人組率いるビバリーヒルズの金持ち集団だったらどうだろうか……。
エガートンもいい。『キングスマン』シリーズでは貧乏人の家庭に生まれたにも関わらず本物の紳士を目指すという成り上がり志向のキャラだったが、本作でも割とそれに近い貪欲なキャラクターを演じている。この人はとにかく眉毛の芝居が絶妙にうまく、さらに小生意気な顔つきも手伝って「とにかく金さえ出させちゃえばこっちのもん」というイケイケ感が充満。もうちょっと暴力的な匂いがすると『スカーフェイス』の時のパチーノみたいになっちゃうところなのだが、基本的には優男なので「鉄砲までは出てこないな……」というラインに収まっているのもミソだ。
不均衡な人間関係はいつ見ても切ないのだ
『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』が悲しいのは、決して友情物語というわけではない点だ。なんせ実話なので、めちゃくちゃやったけどジョーとディーンはいつまでも仲間……というわけにはいかないのである。その原因となるのが、2人の関係の不均衡だ。
ジョーはけっこう切実にディーンを必要としている。ジョーにはアイデアもあるし、まさかという事態が発生した時に瞬間的に開き直る度胸もある。
そんなジョーに対してディーンが最初に提供したのは、ビバリーヒルズのボンボンたちとのコネクションだ。ディーンも裕福な生まれではないが、金持ちの息子たちとうまくコネを作る調子の良さがあった。ジョーが成功するための最初のとっかかりの部分を、ディーンは用意してやったのである。ただ実際のところ、アイデアと度胸のある人間はロサンゼルスにはごまんといるだろう。つまり、ディーンからすれば、組む相手はジョーでもジョーじゃなくてもどっちでもよかったのである。
しかしジョーからすればそれは違う。金持ちの息子たちは、ジョーのことなど最初は全く相手にしていなかった。その中で自分のアイデアに興味を示してくれたのは、ディーンだけだったのである。ジョーからすれば、自分の事業にとってディーンは無二の存在だったのだ。
この2人の不均衡な関係は後になればなるほど影響が大きくなっていく。俺たちはどこで道を踏み外してしまったのか。ただ金持ちになりたかっただけなのに。普通こういう「人間関係のすれ違いがでかくなっていってもつれる話」はけっこう時間経過を含むことが多いが、『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』はわずか1年間ちょっとの期間の話である。圧倒的なスピード感というか、なんぼなんでも早い。まるでアルバム1枚で解散したパンクバンドである。まさに若さと切なさ溢れる、元気いっぱいな詐欺事件だ。
この「持たざる者」2人はどうなっちゃうのかはぜひ映画でご覧いただきたい(実際の事件なのでネタバレもなにもないという気はするが)。80年代の無法とボーイズ2人のフレッシュ感と切なさでもみくちゃにされるはずである。
(しげる)
【作品データ】
「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」公式サイト
監督 ジェームズ・コックス
出演 アンセル・エルゴート タロン・エガートン ケヴィン・スペイシー エマ・ロバーツ ほか
11月10日より全国順次公開
STORY
1983年のロサンゼルス。名門校を卒業したディーンは同級生のジョーと偶然再会する。ジョーの語る金投資のアイデアに興味を持ったディーンは仲間の金持ちの息子たちから1万ドルの融資を借り受け、ジョーにその資産を運用させる。それをきっかけに、2人は危険な金融詐欺の世界に足を踏み入れる