
企画のスタートから最終回の展開についてまで振り返っていくエキレビ!の錦織敦史監督インタビュー。後編では、主人公のヒロとゼロツーの関係性から語ってもらった。
(前編はこちら)
ゼロツーには、アイコンになり得る要素をいろいろ持たせた
──群像劇とはいえ、中心になるのはヒロとゼロツーでした。この二人のキャラクター性や関係性なども、企画の初期から固まっていたのですか?
錦織 最終的に2人で宇宙へ行くということは決まっていたのですが、それ以外はけっこう変わりました。初期案のゼロツーは今とは180度違う性格で、おとなしいというか、ちょっと幽霊みたいな雰囲気もあって。ヒロの後ろをじとーっと付いて回るようなミステリアスな女の子だったんです。そういう子もわりと好きなので(笑)。ただ、僕がヒロの性格をあまり前向きにすることができなくて、ストーリーが全然転がっていかなかった。そこでストーリーを引っ張っていく人が必要だと思って、ヒーローとヒロインを逆転してみました。お話としては、ヤンキー物や任侠物の構造を使わせてもらっていて。最初ヒロは、不良転校生のゼロツーに見初められるんですけど、実はゼロツーのバックボーンには怖い世界があって。そこに足を踏み入れていく、みたいな。あとは、少女マンガのパターンで、王子様的な相手に見初められて、という話を男女逆転でやってみたいとも思ったんです。

──作品のアイコンの役割は、主人公のヒロではなく、ヒロインのゼロツーに託したわけですね。
錦織 だからゼロツーには、アイコンになり得る要素をいろいろと持たせました。角であったり、赤い色であったり、「ボク」という一人称であったり。「ダーリン」という呼び方もそうですね。群像劇をやると、どうしてもアイコンが足りなくなってしまうところがあるので、ゼロツーというキャラクターは作品の勝負どころでもあったと思います。
どんどん進んでいって泥だらけになる主人公も良いんじゃないか
──ヒロに関しては、基本的な性格などに変化はなかったのですか?
錦織 変化というか、ヒロが一番何も決まってないまま進んでいきました。スタッフにはすごく申し訳なかったのですが、はっきりとしたキャラクターを付けたくなかったんです。キャラクターを付けると「こういうキャラクターだとこういう動きをするよね」という感じで(言動が)どんどんテンプレート化していくので。昔は優等生でリーダーシップもあったけれど、今は落ちこぼれになって、ちょっといじけている男の子。そこだけは決めておいて、あとはゼロツーに合わせてどう転がっていくのか。
──しかし、ゼロツーたちにしたことを、ヒロにはやりたくなかった?
錦織 そうですね。たぶん、やろうと思えば、みんなにもっと好かれる主人公らしい主人公を作ることもできたと思うんですよ。でも、ヒロにだけは、それをやりたくなかったし、やれなかった。終わった今でもどうするのが正解だったのか、自分では分かりません。とはいえ後悔しているわけでも無いんです。たぶん、ヒロはどうやっても、あのヒロにしかならなかったとも思っています。

──ヒロも最終的には主人公らしい主人公になっていたと思います。
錦織 15話くらいになってから、「あ、ヒロはこういう子なんだな」というのが自分の中で分かって。そこからはぶれなくなりましたね。
──ヒロに片思いをしていたイチゴもキーマンとなるキャラクターで、不憫なところも含めて人気も高かったと思います。イチゴとヒロ、ゼロツーの関係はどのようなイメージだったのですか?
錦織 この話って言ってしまえば、人外の存在が、人間の世界ではないところに恋人の人間を連れて去っていくお話なので、人間の世界に引き戻そうとする古女房的な存在が欲しかったんです。だから、イチゴに関しては最初から負け戦と言うか……(笑)。ゼロツーがそういう存在で、ヒロがそんなゼロツーに惹かれてしまった時点で、人間には勝ち目がないんです。あの世界の中に居場所が無かったんですから。イチゴがどうこうではなくて、誰にもヒロを止めることはできなかった。その中で、ヒロに地上にいて欲しいと願う女の子なりの成長は見せられたのかなと。泣いたり喚いたりするけれどもなかなか諦めきれない。それって一見泥臭いけれど、人間らしさでもあると思うんです。

2人なら、それぐらいの奇跡を起こしてもおかしくない
──ヒロとゼロツーの最後の展開、仲間と別れてVIRM本星に行き、戦いを終えるとともに消えてしまうという結末は、構成が固まった時点で決まっていたのですか?
錦織 ゼロツーに関しては決めていたのですが、ヒロに関しては最後まで決めかねていました。僕は話を作ると女の子に思い入れてしまうし、格好良い女の子が好きだから(笑)。ヒロに「自分は消えるけれど、あなたは人間だから地球に帰って、もう一度人間として生きて」と言えるゼロツーは格好良いと思っていたんです。ただ、話を作っていく中で、ヒロだけが戻ってくる展開は無いだろう、と。想定よりも恋愛が軸の話になったし、最後は2人で「比翼の鳥」になる方が良いと感じたんです。人間同士だと肉体の壁があってひとつになることはできないですが、ヒロとゼロツーは消えゆく代わりに最後はひとつになれた、というお話を書きたいなと。その方向の展開は、最初からやりたいことでもあったので、結局そこに戻った感じでもあります。ただ、本読み(シナリオ打ち合わせ)の時には、みんなとも、とりあえずラストは置いておこうと話していて。「最後は、ゴリ君(錦織監督の愛称)の気持ちで良いんじゃない?」と言われてました。
──急かさないから、その時の感情で決めなさい、と。
錦織 そうそう(笑)。
──しかし、遥かな未来の地球で、ヒロとゼロツーの面影を感じさせる少年と少女が出会う最終回のエピローグからは監督の優しさを感じました。
錦織 僕の願望ではありますね。運命に翻弄されながらも抗い続け、最後まで添い遂げた2人なら、それぐらいの奇跡を起こしてもおかしくないだろうと思えたんですよね。
「ストレリチア・真アパス」は、地球を守れる力を持ったゼロツー
──第23話のラスト、「ストレリチア・アパス」が「ストレリチア・真アパス」になった時、顔がロボットの顔からリアルなゼロツーの顔になりますが、元から、あの最終形態のイメージはあったのですか?

錦織 まず前提として、企画の最初の案では、フランクスの顔はあのデザインだったんです。女性キャラの顔がそのまま出ているロボットにして、女の子がほぼ乗り移ってるみたいな感じにしようと思ったんですよ。でも、それだと巨大感が出なかったりすると思って、僕の方からロボットっぽい顔にして欲しいと、メカニックデザインのコヤマ(シゲト)さんにお願いして、最初のデザインはお蔵入りしてしまいました。ただ、人間になりたいと思っていたゼロツーが、人間にはなれないけれど人間の中で一緒に生活はできていたのに、運命によってロボットになってしまい、ヒロの呼びかけも聞こえなくなっている。その状態からゼロツーが戻ってくる感じをどうやったら描けるかなと思った時に、ボツになってたあの案を出そうと思いついたんです。
──ちなみに「アパス」というのは、どういう意味なのですか?
錦織 「風鳥座」という星座のことなんです。フランクスの名前は、それぞれ花に由来していて、「ストレリチア」は鳥の名前が入った花の名前なんですけれど(和名は「極楽鳥花」)、今度は宇宙に行くので、鳥の名前が入った星座から名前を取りました。
──初めての完全オリジナル作品を作り終えたことで、手応えを感じたり、今後作りたい物が見えてきたりはしていますか?
錦織 手応えについては未だに分かりませんが、必死に作って来たものが終わったことで、いろいろとクリアにはなりました。無意識だからこそ恥ずかしがらずにできた良い点も、もっと上手く時間を使えたら良かったなと思う点もありました。「夜中に書いた文章を朝起きてから見たら恥ずかしい」みたいな感覚と言いますか……(笑)。でも、それだけガムシャラにできたということでもあると思います。あと、やっぱりオリジナルはどう転がるか自分でもわからないので面白いですよね。それに、テレビアニメは反応がすぐに返ってくるので、お祭りのような感覚もあって。良い意見もそうじゃない意見も含めてあの時間はかけがえのない自分の血肉となりました。とりあえず今は空っぽなので、先のことはあまり考えていませんが、また気持ちを入れ替えて、これからもアニメを作っていけたらと思っています。それは、絵の仕事かもしれないし、監督なのかもしれないですけれど。1回出し切って楽になったというか、自分のやりたいことが、より見えてきたので、また楽しんで作っていけるように企んでいきたいですね。
(丸本大輔)
(C)ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会