多衣「私は何としてもあなたと旬平さんにやり直してほしいの。それが旬平さんにとっての、本当の幸せだから」

12月15日(土)放送の、土曜ナイトドラマあなたには渡さない(テレビ朝日系)第5話。


旬平(萩原聖人)がいなくなってから一年半後、「花ずみ」も通子(木村佳乃)や多衣(水野美紀)たちは、旬平の不在に少しずつ慣れていっていた。そんな中、笠井(田中哲司)が旬平の居場所を探し出し、通子に連絡をくれた。旬平は、千葉の定食屋で働いていた。
「あなたには渡さない」「俺に未練はないのか」新しい命と贈収賄事件を巻き込んで壮大な夫婦喧嘩今夜最終回
イラスト/まつもとりえこ

その一方で、多衣が妊娠していることや笠井が増収賄事件に関わっていることがわかり、通子は混乱していた。多衣と笠井は、また自分を守るために嘘を吐いているのではないか。また隠しごとをされているのではないか。通子は、そんな疑念を拭うことができずにいた。

夫を一人前に育てたかった妻、妻に褒められたかった夫



旬平は、海の近くの小さな定食屋で働いていた。普段着に前掛けをつけただけのラフな格好で、ビールを飲みながら板場に立っている。客は、近くの海で働いている男たちだ。

訪ねてきた通子を見て、旬平は黙り込む。「また黙ってはぐらかす気?」と言う通子に、旬平は「お前は、どうして店や多衣のことじゃなくて、自分のことを聞かない?」と返す。何度も繰り返してきた、質問にちゃんと答えない旬平と、自分の言いたいことを一番に言わない通子の喧嘩だ。


客は、定食屋の娘・安代(前田亜季)と旬平がまるで夫婦であるかのようにからかう。奥の部屋からは、赤ん坊の泣き声。「こどもまでいるなんて。もう、何も聞けなかった」と、通子はまた聞きたいことを聞けずに帰る。

旬平「俺のほうから聞きたいことだよ。お前のほうこそ、俺に未練はないのか」

これまで、わけがわからない言動をしているのは旬平のほうだと思っていた。いままでほとんど悪びれる様子なく、それでも通子に何かを伝えようとしている。あまりに堂々としているので、本当に何もわかっていないのは通子や見ている我々なのかもしれないと思い始めてきたほど。

旬平は、定食屋の看板メニューだというコロッケを通子に食べさせた。通子に料理を褒められるときの旬平はいつも本当に嬉しそう。通子は「お坊ちゃん育ちのこの男を、一人前に育てたかった」と思っていた。旬平もまた、通子に母親のように自分を押し上げてくれる力を求めているのだろうか。


帰り際、通子は安代に「あの、聞いても良いですか? その子の父親って」と、赤ん坊の父親についてたずねる。安代は、険しい顔をして「旬平さんです」と答えた。通子はそれを信じたが、ずっと『あなたには渡さない』を見てきたファンは、これは嘘かもしれないと気づいたのでは。そして実際に、安代のこどもの父親は旬平ではなかった。

誰もが通子に嘘を吐き、隠しごとをせずにはいられない。それは、通子がそれほどに強く正攻法では勝てない相手だから、怯えているためなのかもしれない。

「俺、多衣さんが何考えてるのか、全然わかんない」「私にはわかる!」



通子が家に戻ると、笠井が関わった増収賄事件の当事者・海堂知事が逮捕されたというニュースが放送されていた。同じ時期に、多衣を通じて笠井から6,000万円を受け取っていた通子は、自分も当事者だという気持ちを抑えられない。そんな通子を、笠井は「うぬぼれないでほしいな」と突き放した。

しかし、またしても通子は多衣と笠井に守られている。多衣のお腹のこどもは、矢場(青柳翔)との間にできたこどもだった。しかし、それを「笠井とのこども」ということにし、男女の仲にあることを証明。
6,000万円は、笠井が女としての多衣に渡したものということで、完結させようとしていたのだった。

さらに、多衣が矢場と関係を持ったのは、他人のこどもを宿して「旬平に相応しくない女」になるためだった。

多衣「私は何としてもあなたと旬平さんにやり直してほしいの。それが旬平さんにとっての、本当の幸せだから」

相手の幸せを一番に願う。多衣は、その愛情でもって通子にマウンティングを仕掛けてきた。こどもの命まで賭けて。気持ちは純粋なのかもしれないけど、やっていることがヤバすぎるよ。

AbemaTVで配信しているスピンオフドラマ『あいつには渡さない』3話では、矢場が父親になることを無邪気に喜んで犬のぬいぐるみを買ってくる。名前も、男だったら「俊多(しゅんた)」、女だったら「俊衣(としえ)」と、二人の名前から一文字ずつ取る気満々だ。

知育に良いからと、音が出る犬のぬいぐるみを買ってきてウキウキとしている矢場に、多衣は「矢場くんの子じゃない」と嘘を吐く。「ええぇ……」と引きながら、ぬいぐるみを袋にしまう姿が悲しいけど笑えてしまう。

多衣「あの人の服がこんなにぴったりなら、私の体もぴったりなはずよ。
これももらう気ない? うぬぼれかしら。私、店で矢場くんが私のこと、欲しそうに見てるって感じることがあるの」

本編では、旬平の服を譲ることを口実に、こう言って矢場のスイッチを入れさせた多衣。自分が多衣を幸せにすると意気込んでいたのに、「俺は、モテなくて、ちゃんとした恋愛もできなくて、浮かれポンチで、イタイ男なのか……」と嘆くまで落ち込んでしまった。

矢場「俺、多衣さんが何考えてるのか、全然わかんない」
通子「私にはわかる!」

わかるのかよ! お互いの気持ちが通じ合っているのは、やはり女同士だけなのか。通子は、また多衣が自分を守ろうとしていることを確信する。多衣はもはや、旬平だけでなく通子をも愛しているのかもしれない。憎しみと愛は、近い場所にある。

愛する相手のためなら、自分を犠牲にしてどんなことでもする多衣と笠井。
愛する相手に、それを伝えることすらできない通子と旬平。
そして、ただ多衣を幸せにしたいと思っていただけの矢場。

原作の『隠れ菊』が発表されたのは1996年だ。携帯電話もインターネットも普及していない時代に、彼らがここまで気持ちを伝えられずこじれていくのはうなずける。
しかし、通子や旬平たちに近い30~40代の約8割が個人のスマートフォンを持つ2018年(※)に、こんなにもこじれるものだろうか。どうして、こじらせていくのだろうか。
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所調べ

今夜放送の最終回で、通子たちがどうなるか。それを見ることで、なぜ今の時代にこの笑えてくるほどややこしい大人たちの関係をドラマにしようとしたのか、その理由がわかるのかもしれない。

新たな命や贈収賄事件まで巻き込んでの壮大な夫婦喧嘩の結末は、今夜11時15分から放送予定だ。

(むらたえりか)

▽青柳翔・水野美紀によるスピンオフドラマ
『あいつには渡さない』(AbemaTV)

▽本編配信サイト
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AbemaTV
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土曜ナイトドラマ『あなたには渡さない(テレビ朝日系)
2018年11月10日(土)より 毎週土曜23時15分から
原作 連城三紀彦「隠れ菊」(集英社文庫刊)
出演 木村佳乃、水野美紀、田中哲司、萩原聖人、青柳翔、井本彩花、山本直寛、荻野目慶子
ナレーション 菅原正志
脚本 龍居由佳里、福田卓郎
音楽 沢田完
主題歌 chay feat.Crystal Kay「あなたの知らない私たち」(ワーナーミュージック・ジャパン)
オープニングテーマ FAKY「Last Petal」(rhythm zone)
ゼネラルプロデューサー 黒田徹也(テレビ朝日)
プロデューサー 川島誠史(テレビ朝日)、清水真由美(MMJ)
演出 植田尚、Yuki Saito
制作 テレビ朝日、MMJ
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