
昨年はデビュー25周年の記念イヤーということで、ドーム&スタジアムツアーを始め、これまでの経歴を象徴するような“華々しい”活動を行ったMr.Children。この25年の間に多くの人の耳と心に届くヒット曲を生み出し続けてきたことに、改めて気づかされる機会ともなった。
そして、26年目を迎えた今年、彼らから届けられたのは『重力と呼吸』と名付けられた、実に3年4ヶ月ぶりとなるオリジナルアルバム。“3年4ヶ月”という月日は、Mr.Childrenのアルバム史上、最も期間が空いてのリリース。また前作『REFLECTION』では、CDの収録時間に収まりきらない23曲という楽曲をUSBという形({Naked}盤)で発表したにも関わらず、今作には10曲。これはMr.Childrenのアルバム史上、最も少ない曲数(ミニアルバムを除き、3rdアルバム『Versus』と同数)だったりもする。ただその10曲を聴いたとき……Mr.Childrenというバンドの存在を知ったあのとき以上に心を動かされた。もう自分の歴史の中に落とそうとしても落ちないシミのように紛れもなく染み付いている存在と、初対面より衝撃的な出会いが26年目に訪れようとは。
曲の展開や、歌詞に綴られた言葉など、細かく分析すればきっとその衝撃の一端を説明できるのかも知れないけれど、正直、そんな必要ないんじゃない? 聴いたままを感じるのが音楽だよね? と、元も子もないことを言いたくなってしまうくらいの熱量――それは、『Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸』と冠されたツアーでも、はっきりと体感することができた。かなり前置きが長くなってしまったが、ここでは11月29日に横浜アリーナで行われた公演の模様をレポートしたいと思う。
“バンド”という生命体にスポットを当てたライブ

一見、派手な装飾などないシンプルなメインステージと、そこからセンター席中央付近まで続く花道があるだけのセット。後にこれが一見だけで、とても豪華なセットなことに気づかされて行くのだが……オープニングSEとともに会場が暗転し、楽器が並べられただけのステージを寒色系の色味の照明が彩り、そこに徐々にメンバーが登場。一瞬、真っ白な光が差してメンバー全員の姿が目に入ると、「SINGLES」の音が鳴り出す。ライブ初披露の曲にも関わらず、すぐに観客は手拍子を始め、もう何度もやっているような一体感が生まれる。ステージ上部から降りてきた大小2つの円形の舞台装置と照明で、ステージ上のメンバー4人の姿が浮き彫りになり、ここから始まる“バンド”という生命体にスポットを当てたライブへの宣誓のようにも見えた。
怪しげなベース音が聞こえ、2曲目「Monster」が始まる。ステージの上部と左右から大型ビジョンが出て来て、ステージがトランスフォームしていく。これは最後まで観ての感想でもあるのだが、この一見シンプルだったステージが、曲ごとに形や色味を変えていく様は、ドレミファソラシドというシンプルな音の連なりが、これほどまでにドラマティックに人の心を動かす音楽となっていく様とも重なり、またバンドという生命体の息づかいとも重なって、会場全体が一つの生き物のような感覚を与えてくれた。3曲目「himawari」では観客に挑むように歌う桜井の姿と、ステージの床面も合わせたビジョンから溢れ出るような光が一体となって迫り、胸の奥にしまっていた何かまでここの場に引っ張り出されたような気持ちになった。
「さあ始まったぞ、横浜アリーナ! ついて来て、Mr.Childrenです!」
桜井が声を上げ、また一段階ギアが上がり「幻聴」へ。観客は鈴木(Dr.)の先導に合わせて手拍子をし、サビでは一斉に手を振り、桜井も「すごいじゃないか」と褒める。さらに「でっかい声聴かせて!」(桜井)というリクエストにも応え、“オー”と何度も声を上げた。

短いMCを挟み、「僕らと皆さんのこの出会いを祝してこの曲を贈ります」と言って演奏されたのは「HANABI」。10年前にリリースされた曲でありながら、Mr.Childrenとリスナーとの出会いを何度も起こさせてきた曲だ。サビの“もう一回”というフレーズを大きな声で歌う観客の姿に、この“もう一回”の積み重ねが、さらなる出会いを増やして行くことを確信する。続けて、「さあ、聴こえてますかこの音。Mr.Childrenの骨格の音です」と桜井が紹介した鈴木の力強いリズムに乗せての「NOT FOUND」、ピアノの音色と桜井の声という組み合わせで、歌唱後の桜井が「すごいシーンとしてる。
「僕らにもみんなにもまだまだ伸びしろがある」

サポートメンバーの紹介ののち、桜井が花道に歩出ると、そこにはドラムセットが。客席を縦に伸びる花道に、メンバー4人が間隔をあけて並ぶ。そして桜井はこれから演奏する曲にまつわるエピソードを紹介する。1992年にデビューし、94年に「innocent world」で日本レコード大賞を獲得。だが頂点を極めたことで、その先にあるであろう下り坂に怯えるようになり、95年は闇雲に曲を作っていたという。そんな中、ホテルを約1ヶ月間貸し切っての曲作りの際、最終日だけは曲作りをせずに楽しく過ごそうと計画。しかしその日の午前中、桜井は出かけた草野球の試合でセンターを守っていると、ふとこの曲のフレーズが、「名曲という花が咲く、その種が」(桜井)降ってきてしまい、結局、最終日も曲作りを行った。それが1996年リリースの「花 -Memento-Mori-」※。
まずは桜井の奏でるアコースティックギターの切なげな音と、温かみのある声とが会場にゆっくりと浸透して行く。2番になるとそこにバンドの音も加わり、小さな種から芽が生え、茎が育って行くようにグルーブもどんどん大きくなる。花道の上にかかる紗幕には、メンバー4人が演奏する姿が映し出され、最後のサビでは「聞かせて」という桜井の呼びかけに、観客の歌も加わり、95年に野球場で生まれた種が、2018年の横浜で花を開かせる。その勢いを持って、「addiction」、「Dance Dance Dance」と、ライブはさらにアグレッシブに。


するとここで一旦クールダウン。ピアノのインストが流れる中、花道の上から白い雲のようにも、水中から見上げた波のようにも見える薄い布が降りてくる。そこに柔らかな光が当てられると、衣装を黒のTシャツから白のシャツに着替えた桜井が花道に立ち、「ハル」を穏やかに歌い始める。曲の後半には桜の花びらに見立てた紙が天井から客席に降り注ぐ演出もあり、ここまで見せてきた最新設備を駆使したものとは違い、少しアナログな感じがまた情感を引き立てる。そして、桜井の圧倒的な歌力が光る「and I love you」、シンプルにその歌に引き込まれてしまう「しるし」と続けると、ライブはいよいよ後半戦を迎える。
「さあ次はみんなの番です! みんなが日頃身にまとってるもの、背負い込んでるもの、全部この会場に置いて行ってください。みんなを素っ裸にしたいと思います!」(桜井)
イントロから手拍子が起こった「海にて、心は裸になりたがる」、足元が揺れるくらい会場の全員がジャンプをしながら歌った「擬態」、観客の“オ~オ~”という歌声に、思わず桜井も「すっげー!」と驚いた「World end」まで、一体感を高めながら一気に駆け抜け、残すは1曲。その前に、桜井は今回のライブの軸となっているアルバム『重力と呼吸』について語る。
昨年、自分たちの音楽を聞いてくれる人たちへの感謝を伝える一年を過ごした上で「まだまだやりたいことがあって、あこがれがあって、理想があって、夢があって、そこにまだたどり着いてないけど、今からでも遅くない、ちょっとずつでもいいからそこに近づいて行きたい、そんな風に思いながら新しいアルバムの制作に入りました」と。アルバムから感じたあの圧倒的な熱量、そして今、この場で感じている熱量は、もはや絶対的なトップでありながらも、なおも湧き上がる意欲から作られている。
やりたいことがある。次は史上初の単独海外公演へ。

鳴り止まない手拍子に導かれて始まったアンコールは「here comes my love」から。柔らかなメロディが桜井の声とともに力強く昇華して行く。続く「風と星とメビウスの輪」では、花道に降りてきた紗幕にメビウスの輪を映し出しながらの歌唱。前半の穏やかさに反して、後半からの激しい衝動を叫び声に変えたような歌声に心を打たれる。
「この季節が大好きなんです。夏の喧騒と暑さが徐々に薄れて行って、涼しくなって、切なくなって、寂しくなって、もうちょっとで一年が終わってしまうと思うと、うっすらと後悔が湧いてくるような。

そしてついに……「最後の最後に、僕らの情熱と愛情のすべてをこの曲に乗せて。みんなへの歌です“Your Song”」と紹介し、アルバムのリード曲であり、1曲目でもある「Your Song」を演奏。桜井の叫びから始まるこの曲を初めて聴いたとき、なんとも言えないものが自分の中から沸き起こる感覚がし、その曲をこの日の最後に聴けたことで、何かまたここから始まって行くような気持ちにもなった。ステージを見つめる観客たちの笑顔にも、なにか清々しさのようなものも感じる。ラストはメンバー全員で手をつないで観客に深々と頭を下げて「ありがとう!」と挨拶し、たくさんの笑顔が溢れる中でライブは幕を閉じた。
本ツアーは12月23日の大阪公演を持って終了となったが、年明けにはMr.Children史上初となる単独台湾公演が決まっている。“まだまだやりたいことがあって”という言葉が本当なんだなと、ライブを観ていても感じたが、こういった目に見える形で表現してくれるのも嬉しい。26年目の新たなMr.Childrenがここにいる。
取材・文/瀧本幸恵
※花 -Memento-Mori-は1つ目eの上に'
<セットリスト>
M1 SINGLES
M2 Monster
M3 himawari
M4 幻聴
M5 HANABI
M6 NOT FOUND
M7 忘れ得ぬ人
M8 花 -Memento-Mori-(注1)
M9 addiction
M10 Dance Dance Dance
M11 ハル
M12 and I love you
M13 しるし
M14 海にて、心は裸になりたがる
M15 擬態
M16 World end
M17 皮膚呼吸
EN1 here comes my love
EN2 風と星とメビウスの輪
EN3 秋がくれた切符
EN4 Your Song