笠井は死んだ? “ドロドロファンタジー”の結末
通子「笠井さん、会いに行くから。絶対に見つけるから。だから、待ってて。今度は私があなたを守るから」
保釈された笠井が自殺を匂わせ、通子がそれを救いに走るラストシーン。不穏なライティングを背に受ける笠井と多衣の出産シーン、そして仰々しいナレーションに「本当にこれで終わりなの?」と驚いたが、この幕引きは原作のままだ。
うなされて寝ていた通子の様子を見て、旬平が「笠井さん、死ぬ気かもしれない」と言う。笠井を死なせたくないという通子を、旬平は「行かないと後悔するぞ」と促す。
旬平「待っているから」
通子「いいんですね。私、笠井さんと今度こそ命がけの浮気をしてくるかもしれませんよ」
旬平「それだと、俺の過去が上手くチャラになる」
なんねーよっ! とツッコんでしまった人も多いよう。でも、夫婦の問題というものは、その夫婦が良いと思ったら良いんだからこれで良いのだ、と思わせるパワーがこのふたりにはある。
激しい寝癖がつき、額にしわが寄り、当然すっぴんで目も半開きの通子の寝起き顔。その間抜けな顔に向かって、笠井さんの生死というシリアスすぎる話を真剣にすることができる。ペアルックを着ることよりも、こういうバランス感覚のほうがよっぽど「夫婦」を描いている。通子と旬平は、本当の夫婦になったのだ。だから、旬平は通子を笠井のもとに送り出せた。
通子の人生で、「花ずみ」、旬平と家族、多衣は「結婚後に得たもの」「姑・キクに奪われたもの」だ。しかし、笠井だけは「結婚前に得たもの」「キクの手に直接は渡らなかったもの」。キクとの問題の余波で失いそうになっている笠井を取り戻せば、通子は完全に自分の人生を自分の手におさめることができる。笠井を助けることが、通子の人生の最後のピースだ。