菅田将暉主演のドラマ「3年A組─今から皆さんは、人質です─」。菅田演じる冴えない高校教師が、生徒29人を人質に取って「最後の授業」を行うという物語。
このドラマ、とにかくテンションが高い。教師が爆弾を使って教室に生徒を閉じ込めるという荒唐無稽なストーリーだが、異常な空間に置かれた生徒たちのエゴと嫉妬と怨嗟が渦巻くドロドロとした人間関係がドラマを覆い尽くしている。そして生徒を演じる若手俳優たちのテンションと熱量がすさまじい。彼らの演技を受け止める菅田将暉のテンションの高さも尋常ではないのだが。
陰湿な投稿者の正体はクラスの人気者
先週のレビューでは「川栄李奈に注目」と書いたのだが、第2話では彼女のすさまじい演技が爆裂していた。「好演」でも「名演」でもなく、「熱演」を超えた「爆演」と呼ぶのがふさわしい。
美術教師・柊一颯(ひいらぎ・いぶき/菅田将暉)が“最後の授業”で生徒たちに出した課題、それは自殺した女生徒・景山澪奈(上白石萌歌)の死の真相を自分たちで考えること。第1話では彼女と親しかったクラス委員、茅野さくら(永野芽郁)に焦点が当てられたが、第2話ではクラスの女子の中心的存在の一人、ダンス部の宇佐美香帆(川栄李奈)のストーリーが語られた。
澪奈にはドーピング疑惑がかけられていた。ドーピング疑惑によってクラスでのいじめは激化し、自殺に追い込まれたのだ。
重圧に耐えかねたのか、柊を牽制する香帆だが、逆にクラスのリーダー的存在・諏訪唯月(今田美桜)に疑いをかけられる。柊に爆弾で脅されて、恐慌状態になる生徒たち。さくらが名乗り出るが、SNSのパスワードが言えずに嘘がバレてしまう。さくらの言動に腹を立てたのが香帆だった。彼女はついに自分が「やり逃げX」だと名乗り出る。パスワードは「kaho11815」で見事に一致する。澪奈の自殺の原因をつくったのは香帆だった――。

小さな名女優、川栄李奈の爆演炸裂!
理由を問われた香帆は、「あんたのせいでしょ」とさくらをなじる。「澪奈の友達は私だけだった。
しかし、過去の映像を振り返ると、「コミュニケーション強者」だとされている香帆の幼稚さと不器用さが際立つ。
水泳界の期待のホープでありながらクラスで孤立しがちな澪奈に、香帆は積極的に声をかけていた。ふたりで自撮りしてSNSにアップする香帆。これでフォロワーが増えるとエゴ丸出しで喜んでいる香帆を見て、澪奈はイヤな気分を味わうことになる。本当に澪奈と友達になりたいのなら、彼女のことを想って行動すればいい。自分のフォロワー数を増やすために澪奈を利用したいのなら、本音を隠しておけばいい。だけど、香帆はどちらもできなかった。彼女が幼稚で不器用だったせいだ。
「文句あるなら私に言えば良かったじゃん! 私に近づくなって言えば良かったじゃん!」
「言ったら離れてくれた!?」
「離れたよ!」
「嘘つくなよ!」
「嘘じゃない! 離れたよ! 澪奈が生きててくれるなら、離れたよ……」
相手のことを想って行動できるのはさくらのほう。そのことを瞬時に悟って、香帆は黙ってしまう。そして“地獄の金八先生”柊の「説教」が始まる。「うるさい!」と拒絶する香帆に、さらに大声で「逃げるな!」と一喝する柊。
柊は香帆に「お前に足りなかったのは想像力だ」と諭す。自分がされて嫌なことを平気でするのは想像力が足りないせい。そして、澪奈が残した言葉を香帆に伝える。香帆は悪くはない。拒絶した理由を伝えられなかった自分が悪かった。香帆と本当の友達になりたかった、と。しかし、香帆はそんな澪奈の心を踏みにじった。力なく泣き崩れる香帆。
「それが痛みだ。その痛みを一生忘れんなよ!」
こうして柊の説教タイムが終わる。今週、生徒の犠牲者は出なかった。しかし、香帆が使ったフェイク動画を作ったのは誰なのかという疑問が残っていた。まだ他にも澪奈の自殺の原因をつくった生徒がいるようだ。
叫び、暴れ、涙と鼻水を垂らしながら泣き崩れる川栄李奈の爆演に圧倒された第2話だった(それを受け止めた永野芽郁、菅田将暉もすごい)。見ながら思ったのは、このドラマの人気は、若手俳優たちが喜怒哀楽(without喜)を思いっきり表現しているからなんじゃないだろうか、ということだ。エンディング映像で表現されているように、若者は空気を読みつつ、自分の感情を隠し、平穏無事に暮らしている。本音や攻撃性をむき出しにできるのはSNSの鍵アカぐらいである。
おじさんたちは『半沢直樹』に代表される一連の池井戸潤原作のドラマで本音を絶叫するカタルシスをたっぷり味わったが、若者たちがそうやって演技するドラマや映画はほとんどなかったように思う。現代の若者が感情を解放するには、このドラマのように特殊な設定が必要なのかもしれない。
中尾は本当に死んでいるのか問題
一方、男子生徒たちの関心は別のところにあった。
里見海斗(「花のち晴れ~花男 Next Season~」の鈴木仁)と真壁翔(『監獄のお姫さま』の神尾楓珠)は美術準備室に食べかけのパンが二人分あったことと死臭がしなかったと証言する。誰も殺さない、殺せないのなら怖くない。暴力的な甲斐隼人(片寄涼太)は仲間を引き連れて何度も柊を襲撃するが、そのたびに返り討ちに遭う。
柊は甲斐たちの前に切断されて手首を放り投げて脅すが、これはフェイク。「なーんちゃって」と言いつつ、特撮ヒーローもので使われていた小道具だということが映像で示される。
中尾が本当に殺されたのか、つまり柊は殺人を犯したのか、という疑問への回答は先送りにされた。柊は香帆に「お前を正しい道に導く義務がある」と言っていたが、殺すのであれば正しい道もへったくれもない。明らかに矛盾している。柊は中尾を殺したように見せかけて生徒たちに説教しているのか? それとも支離滅裂な行動をしているのか? 第1話の冒頭で柊が“最後の授業”を終えた柊が飛び降り自殺を図っていたのもヒントだろう。
ほかにも、柊の動機、彼の恋人で教師だった文香(土村芳)との関係なども大きな謎として残されている。第3話では大きな展開がありそう。今夜10時30分より。
(大山くまお)
「3年A組─今から皆さんは、人質です─」
日曜22:30~23:24 日本テレビ系
キャスト:菅田将暉、永野芽郁、上白石萌歌、大友康平、田辺誠一、椎名桔平
脚本:武藤将吾
音楽:松本晃彦
演出:小室直子、鈴木勇馬
主題歌:ザ・クロマニヨンズ「生きる」
プロデューサー:福井雄太、松本明子(AXON)
制作著作:日本テレビ