オトナの土ドラ『絶対正義』(フジテレビ系・土曜23時40分〜)がスタートした。

「オトナの土ドラ」は、フジテレビの昼ドラの終了にともなって新設された枠だけに、昼ドラゆずりの極端&こってりとした演出多めなのだが、『絶対正義』は冒頭から特濃でグッと引き込まれてしまった。


「規則は破っちゃいけない」
「中途半端な正義は意味がない」

厳しく「正義」を追求していた母親の言いつけを守らず、門限破りをしてしまった高規範子(白石聖)。しかしそのせいで母親を交通事故死させてしまい、

「正義よりも大切なものはないのね」

と考える正義マシーンと化す。

泣き叫ぶ制服少女と、血を流しながらピクピクしている山口紗弥加(ここでは範子の母親役)。東海テレビドラマの真骨頂だ!

そんな範子が、群馬県の高校に転校してくるところから物語ははじまる。
名作の予感「絶対正義」高校生の妊娠は法律違反じゃないからオッケー。ピュアネス正義マシーン誕生1話
イラストと文/北村ヂン

とにかく「明文化されたルールに従う」正義マシーン


ドラマの本編は、山口紗弥加が高規範子を演じる「現代編」なのだが、初回は「高校時代編」。

しかしこの高校時代描写が、すさまじくよかった!

田舎風景の中、友情以上の絆で結ばれた制服少女たちがキャッキャウフフと日常を送っているだけで、おじさんはカンタンに心をつかまれてしまう。

地味でボンヤリした子、男(ハーフ)好き、勝ち気な子、姫扱いされている美少女。……こんな組み合わせもベタといえばベタだが、ここに正義マシーン・範子を配置することによって物語はグルーヴする。

バス内で痴漢をされながら、声を上げられなかった西山由美子(桜田ひより)を助け、痴漢を捕まえる。

スカートの長さがたった2cm校則違反しているだけで、友達になったばかりの今村和樹(小向なる)を告発。

泥棒扱いされた三波理穂(小野莉奈)の無実を晴らすため、聞き込み調査をして真犯人をつきとめる。

たばこを隠れて吸っていた生徒たちを、説教した上で見逃してやるという、話の分かる教師や警察官も範子にかかれば、

「自分の職務上の立場をいいことに法律を無視した」

ということに。情報をマスコミにリークして、教師と警察官は懲戒解雇となってしまった。


面白いのは、範子の行動規範となっている「正義」は、道徳的な「正義」というわけではなく、法律や校則など「明文化されたルールに従う」ということで一貫しているところ。

石森麗香(飯田祐真)が妊娠した際には、相手が高校生で未婚だということを確認した上で、

「何も間違ったことはしていない」

と慰め、アッサリ中絶手術を勧めるのだ。

友達があやまちを犯しても全肯定してあげるメチャクチャ友情に篤い子……とも見えるが、「高校生が妊娠すること」「中絶手術をすること」は法律で禁止されていないから、というだけ。

相手が既婚者だったら、全力で断罪されていたことだろう。

高校時代をいつまでも見ていたかったよ!


高校で巻き起こった事件の数々は、1話の中に詰め込んでしまうのはもったいない、見応えのあるエピソードばかり。

「各エピソード1話分で見たいよ!」と思ってしまうが、そこをあえてサクサク進めて一気に卒業式に。

田舎風景の中で涙する制服少女たちの姿に、さっき見はじめたばっかりのドラマなのに、1クール丸々見終えた時のような謎の感動が……。いやあ、この子たちをずっと見ていたかった。

第1話の最後では現代に舞台を移し、大人となった範子(山口紗弥加)と西山由美子(美村里江)が再会する。

『ブラック・スキャンダル』『IQ246』など、最近はサイコパス気味な役が増えている山口紗弥加だけに、範子の正義サイコパス面はバッチリ演じてくれそうだが、高校時代を演じていた白石聖が良すぎたので……。

普段は理想的な優等生の顔をしているのに、「正義」に反する人間を見つけた途端、まばたきをしなくなり「ピュアネスの中からはみだしてくる狂気」を見せつける。

この辺の演技、ヘタにやるとただ単にヒステリックなおばさんになってしまうので、山口紗弥加がこのいい(イヤな)雰囲気をどこまで引き継ぐことができるのか注目したい。

高校時代編の中でも、現代の様子がチョコチョコ挟み込まれており、大人になった石森麗香(田中みな実)が明らかに不倫をしていたりと、現代の5人がどうなっているのかも気になるところなんだけど、高校生役の子たちに完全に心をつかまれてしまったので……この子たちだけのスピンオフも作ってもらいたい!(公式Twitterによると、今後もちょいちょい出てくるようなので期待!)

正しさと正義を求める時代


本作は、2016年に発表された秋吉理香子の小説が原作だが、2019年になり、ますますテーマが時代とマッチしてきているように感じる。


第1話の終盤、

「平成最後の年、正しさと正義を求める時代」

というナレーションが流れていたが、ホントにみんなが正義マシーンになっている時代だ。

最近も芸人のたむらけんじについて、一緒に撮った写真とともに「カメラなかったらおもろ無い奴」なんてツイートしたラーメン店のアカウントが炎上していた。

ラーメン店側が悪いのは明らかなんだけど、そのラーメン店にガンガン無言電話がかかってきているなんて話を聞くと、「正義マシーン、いっぱいいるなぁー」と思ってしまう。

「自分は正しい」というのは最強の武器。「正義」が暴力と化している時代だ。

そんな時代性も反映して、今後どんな展開を見せてくれるのか。名作ドラマになる予感ビンビンなのだ。


【配信サイト】
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TVer

『絶対正義』(フジテレビ)
原作: 秋吉理香子『絶対正義』『この女に賭けろ』(幻冬舎文庫刊)
脚本:仁志光祐、谷岡由紀、政池洋佑
演出:西浦正記、浅見真史
主題歌:嘘とカメレオン「ルイユの螺旋」(キングレコード)
音楽:木村秀彬、佐藤浩一
企画:横田誠(東海テレビ)
チーフプロデューサー:市野直親(東海テレビ)
プロデューサー:浅野澄美、郷田悠(FCC)
制作著作:フジクリエイティブコーポレーション
制作:東海テレビ放送
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