「もっと人に優しくなろうぜ! もっと自分を大事にしようぜ!」

菅田将暉主演のドラマ「3年A組─今から皆さんは、人質です─」が最終回を迎えた。結論からいえば、ストーリーをひっくり返すような、わかりやすい黒幕なんてものはいなかった。
景山澪奈(上白石萌歌)を自殺に追いやった犯人は、SNSそのものだった。

最終回では、正味45分程度のドラマのうち15分も使って主人公・柊一颯が、カメラへの主観目線でSNS「マインドボイス」越しの不特定多数の人々に“説教”を行うという異例の演出が行われた。
最終回「3年A組」菅田将暉先生の最後の説教相手はお前だ「もっと人に優しくなろうぜ!」
イラスト/Morimori no moRi

明かされる景山澪奈の自殺の真相


「おそらく私は全国民の敵となっていることでしょう」

柊一颯(菅田将暉)は刑事の郡司(椎名桔平)を人質に取って学校の屋上に現れる。柊の胸を狙撃手による銃弾が襲うが、防弾チョッキのおかげで無事だった。警察は柊が誰も殺さないとわかっているはずなのに撃っちゃうの? と思ったけど、あんなマシンガンとか振り回しているのだから無理もないか……。

最終回で一つ演出が変わった部分がある。第1話から繰り返し「マインドボイス」の画面が写し出されていたが、最終回では携帯を見続ける人々の姿と「マインドボイス」に書き込みを続ける人々の姿が繰り返し写し出された。彼らの書き込む言葉も、浮かべる笑みもいずれも醜悪だ。

「真相を明らかにするためには、俺が最終的に全国民の敵になる必要がある」

柊の言葉が繰り返される。「全国民の敵」とは、つまり「マインドボイス」利用者の敵になるということだ。彼は「マインドボイス」と戦うつもりだ。

一方、茅野さくら(永野芽郁)は3年A組のクラスメイトたちに「殺したの。私が澪奈を殺したの」と告白する。
だが、たっぷり柊の説教をくらって「グッ、クルッ、パッ」を身につけた生徒たちは、動物的に茅野を攻撃したりしない。9話で、数年後の茅野がクラスメイトたちに受け入れられているところを見れば、茅野が殺人犯でないことは自明なのだが。

最後の日、茅野は景山澪奈と会っていた。ビルの屋上で澪奈は「みんなが敵に見えて、そんな風に見える自分が嫌で、たまらなく嫌で、だからもう、無理なんだ」と言い、茅野の前で身を投げる。茅野は景山の手を掴むが、その手を離してしまう。

「これで澪奈が楽になるなら、って、その手を離したんです」

茅野は景山を殺してしまったのではないかと自分を責める。それは当然の心情だろう。しかし、なんで茅野はあんな場面でスマホの呼び出しに応えちゃったんだろう……。

決戦、SNS VS 柊一颯


「SNS『マインドボイス』のみなさん、柊一颯です」

3月10日午前8時、柊は学校の屋上に置かれたカメラの前で話し始める。「マインドボイス」の書き込みが一斉に反応する。

「もう真相とかいいから死んでくれよ」
「アンタが景山澪奈を殺したことこそ真実!」
「景山澪奈に死んで詫びろ!」
「さぁさ、楽しませてくれよ」
「徹底的に糾弾してやる!」
「いよいよ、出てきた真犯人!」
「叩く準備はできたぞ!ばっちこーい!」

フェイク動画によって人々は柊が景山を殺した犯人だと思い込んでいた。「ばっちこーい!」と書き込んだ男は本当に嬉しそうだ。

「混乱してるねぇ! なのに、けなすことは忘れない。
これだよ、これ! これが俺が立てこもった最大の理由だよ!」

9話でぼかされていた部分。柊は生徒たちに自分の行動の理由をこう語っていた。

「それは、SNSによる暴力を、世に知らしめることだ」
「フェイク動画を使って状況を二転三転させることで、いかに自分たちが不確かな情報に踊らされているかを自覚させる」

柊の話している内容は、まるでメディアリテラシーの授業だ。2006年、メディアリテラシー特番としてテレビ東京が放送した森達也氏によるフェイクドキュメンタリー「ドキュメンタリーは嘘をつく」と、柊がやろうとしていたことは根本的によく似ている。

「お前たちはこの10日間で、どれだけ自分の意見を変えた? 信憑性のない情報を頼りに、どれだけ心ない言葉をネットで浴びせた? 俺はそんなお前らの、愚かな行動をあぶり出すために、この事件を引き起こしたんだよ!」

「自分の考え押し付けてくんじゃねーよ」
「ウチら関係ねーし」
「マジ何様ww」
「俺の意見はネット民の総意!」

非難の矛先を変え、自分の責任を棚に上げ、相手の足を引っ張り、自分の姿を大勢の中に隠す。SNS越しの攻撃の多彩さと巧みさがよく表れている。

「おい、そこの! まわりに流されて、意見を合わせることしかできない、お前に言ってんだよ!」

「こいつウザイ」
「キモー」
「さっさと死んでくれよ」

「それだよ、それ! そのお前の自覚のない悪意が、景山澪奈を殺したんだよ!」

指をさし、全身全霊を込めて言葉を叩きつける柊。「お前」とは、「マインドボイス」の向こう側にいる人々のことであり、カメラのこちら側にいる我々のことだ。そう思っていないのなら、それこそ「自覚」がない。あなたはこういう汚い書き込みをSNSにしたことが一度もない?

弱った柊の体を覆い隠すように次々と表れる「マインドボイス」の書き込み。反面、あれだけスマホを大事にしていた3年A組の生徒たちが、スマホを放り出して崩れた瓦礫を取り除く作業に没頭している姿は象徴的だ。

このドラマが伝えたかったこと


「景山澪奈を殺した本当の犯人は、SNS『マインドボイス』だ」

柊は生徒たちの前で、景山殺しの真犯人、黒幕をこう明かす。
悪徳教師・武智大和(田辺誠一)の卑劣な悪意は「マインドボイス」の津波のような悪意に姿を変えて、景山の精神を蝕んだのだ。

「お前らネットの、何千何万という悪にまみれたナイフで、何度も何度も刺されて、景山澪奈の心は殺されたんだよ!」

「自由に言えるのがネットの良さでしょ」
「ネットの意見を真に受けた景山が悪い」
「傷つくならネットなんか見なきゃいいのよ」

「お前も! お前も、お前も! 今までさんざん正義感を振りかざしてたくせに、分が悪くなった途端に、子どものように責任転嫁を始める。自分を正当化するのに必死だな。つまんねぇ生き方してんじゃねぇぞ! 見苦しいんだよ! ふざけてんのはお前らだろうが! お前ら一度だって真剣になったことあんのか? あ? 逃げてんじゃねぇぞ!」

「くっさwww 暑苦しいwww」
「マジ殺してぇ!」
「ネット民に対して説教www」

責任転嫁と嘲笑と相対化。「マインドボイス」の書き込みに人の血は通っていないように見える。だが、それでも柊は最後のメッセージを叩きつける。

「だから刻んでほしいんだよ! 右にならって吐いた何気ない一言が、相手を深く傷つけるかもしれない。一人よがりに、偏った正義感が、束になることでいとも簡単に人の命を奪えるかもしれないってことを。そこにいる君に! これを見ているあなたに! 一人ひとりの胸に刻んでほしいんだよ」

「他人に同調するより、他人をけなすより、まずは自分を律して、磨いて作っていくことが大切なんじゃないのか? てか、そっちのほうが楽しいだろ! その目も、口も手も、誰かを傷つけるためにあるわけじゃない! 誰かと喜びを分かち合うために、誰かと幸せを噛みしめるためにあるんじゃないのか? そうだろ!」

「もっと人に優しくなろうぜ! もっと自分を大事にしようぜ!」

「聞いてくれて、ありがとう。Let’s Think」

授業の終わりを宣告し、屋上から飛び降りる柊。第1話と同じだ。そこで柊の手を掴んだのは茅野。
そして3年A組の生徒たちが次々と手を伸ばし、柊を助け上げる。

無事に助けられた柊は茅野に「だからもう、自分を責めるな、いいな」と語りかけるのだが……。あれ? 柊が落ちて死んでいたら、茅野はもっと自分を責めたと思うのだが……。柊は助かる自信があったということ? 

柊は郡司に逮捕され、3年A組の生徒たちがそれを見送って大団円となる。がんに冒された柊だが、3月10日から1年間、生き続けて、翌年の3月9日に亡くなったらしい。

やはり最終回の肝は、柊の“説教”である。6年前から企画を準備し、菅田将暉、脚本の武藤将吾氏、プロデューサーの福井雄太氏は「今何を伝えたいのか」を徹底的に話し合い、練り上げてきたという。彼らが伝えたかったことが凝縮された15分だったと言えるだろう。

この6年の間にツイッターをはじめとするSNSが飛躍的に普及した。アメリカではトランプ大統領が誕生して「フェイクニュース」という言葉が知られるようになった。日本だってヘイトにまみれた書き込みを与党の政治家が煽り立てたりする。どうしようもない状況が続いている。


出演者がカメラのこちら側に語りかける手法は、かつて「お荷物小荷物」というコメディードラマで採られていた。日本的な家父長制度が支配する家にやってきた沖縄出身のお手伝いさんが、最終回にカメラ目線で視聴者に語りかけ、日本人の中に潜む差別心をえぐり出していた。このドラマはソフト化されていないが、放送ライブラリーで視聴することができる。

茅野の言葉によると、柊の説教でも世の中はたいして変わらなかったらしいが、まさかの「ばっちこーい!」野郎が改心し、ひどい書き込みをやめるところで物語は終わる。映画『風の谷のナウシカ』の終わりのような、本当にささやかだが、希望を感じさせるエンディングだった。
(大山くまお)

最終回「3年A組」菅田将暉先生の最後の説教相手はお前だ「もっと人に優しくなろうぜ!」
イラスト/Morimori no moRi

最終回「3年A組」菅田将暉先生の最後の説教相手はお前だ「もっと人に優しくなろうぜ!」
イラスト/Morimori no moRi

最終回「3年A組」菅田将暉先生の最後の説教相手はお前だ「もっと人に優しくなろうぜ!」
イラスト/Morimori no moRi

最終回「3年A組」菅田将暉先生の最後の説教相手はお前だ「もっと人に優しくなろうぜ!」
イラスト/Morimori no moRi

最終回「3年A組」菅田将暉先生の最後の説教相手はお前だ「もっと人に優しくなろうぜ!」
イラスト/Morimori no moRi

最終回「3年A組」菅田将暉先生の最後の説教相手はお前だ「もっと人に優しくなろうぜ!」
イラスト/Morimori no moRi

最終回「3年A組」菅田将暉先生の最後の説教相手はお前だ「もっと人に優しくなろうぜ!」
イラスト/Morimori no moRi

最終回「3年A組」菅田将暉先生の最後の説教相手はお前だ「もっと人に優しくなろうぜ!」
イラスト/Morimori no moRi

最終回「3年A組」菅田将暉先生の最後の説教相手はお前だ「もっと人に優しくなろうぜ!」
イラスト/Morimori no moRi


「3年A組─今から皆さんは、人質です─」
日曜22:30~23:24 日本テレビ系
キャスト:菅田将暉、永野芽郁、上白石萌歌、大友康平、田辺誠一、椎名桔平
脚本:武藤将吾
音楽:松本晃彦
演出:小室直子、鈴木勇馬
主題歌:ザ・クロマニヨンズ「生きる」
プロデューサー:福井雄太、松本明子(AXON)
制作著作:日本テレビ
Huluにて配信中
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