
第8話あらすじ
黒川拓(坂口健太郎)はテレビ局ディレクターの有馬聡子(市川実日子)から、「イトエ電機社宅殺人事件」で死刑判決を受けた式根大充(片岡鶴太郎)の冤罪を晴らしてほしいと頼まれる。「イトエ電機社宅殺人事件」は、式根が暮らしていた社宅のクリスマスパーティーでシャンパンに毒物が混入され、6名が亡くなった事件だ。
式根は定期検診で癌が見つかった。余命短い式根が生きている間に助けてほしいと、聡子は拓を頼ったのだ。しかし、再審は「開かずの扉」と呼ばれるほどの難関。ずっと式根を弁護してきた担当弁護士は生前に4度の再審請求をしたが、その全てが棄却されていた。
式根に接見した拓は、本人が再審請求を望んでいないことを知る。
「出られるかもしれない、娘に会いたいといった希望は、かえって心がかきむしられて、今の私にとって毒なんです。もう、そっとしておいてほしい」(式根)
式根の一人娘である松ヶ下玲子(星野真里)もマスコミから追い回され、世間から冷たい扱いを受けてきたことから、もう式根に関わるつもりはないと心を閉ざしていた。
「これ以上、自分の人生を犠牲にしろっていうんですか。私が死刑囚の娘として、どんな暮らしをしてきたと思ってるんですか!?」(玲子)
拓が資料を再検証すると、ある真実が明らかになる。毒物の瓶を捨てたのは式根ではなく、玲子の同級生であり、事件で父親を亡くした榛名由美(酒井美紀)だった。
再審請求審の日、すでに亡くなった母親の代わりに証言台に立った由美が式根の無実を訴える。しかし、「その証言は新たな証拠にはならない」と、再審請求は棄却された。
元ネタありきは救いのない現実を示している
式根の自白が逮捕の決め手だったのに、判決が下れば、新証言が出ても結果は覆されない。「開かずの扉」とはよく言ったものである。
今回のストーリーの下敷きになっているのが「名張毒ぶどう酒事件」であることは明らか。ドラマ内で起こったのはシャンパン毒殺事件だ。暗に匂わせている。目撃証言がドンドン変わっていくことも、死刑囚の家族が差別されたことも酷似している。
このドラマ、今までの事件も元ネタのあるものばかりだった。7話は「紀州のドン・ファン」だったし、3話は「東京女子医大事件」、2話は泉大津で起こったコンビニ窃盗事件だった。
『イノセンス』は救いのない展開が多く、時に観る者を絶望させる。
でも、現実だ。いつも、元ネタになっている事件がある。リアルはドラマよりも救いがない。それを痛烈に訴えかけていると思う。
なぜ再審請求は棄却されたのか
いや、今回は一分の救いがあった。「開かずの扉」は開かなかったが、父と娘は24年ぶりにアクリル越しに再会を果たした。裁判所を動かすことはできなかった。でも、一番信じてほしい人に真実が伝わったことだけは救いだ。拓や聡子の行動は無駄ではなく、かすかな救いを生んでいた。
ところで、なぜ再審請求はなぜ棄却されたのか? 確かに、由美の証言だけだと弱い。彼女は証拠となる毒物の瓶を捨てさせられただけで、しかも当時は子どもだった。
いや、棄却の理由は明らかにそれではない。検察官の指宿林太郎(小市慢太郎)が明かしている。
「24年前に起きたイトエ電機社宅殺人事件。あの事件の当時の担当者は現在、検事正の位置にいる」
証拠云々ではない。これが再審請求棄却の最大の理由だ。父娘がむごい半生を送ることになった原因も、これが理由。「いくら何でも……」と思うなかれ。現実でも起こり得る。
カタルシスと爽快感が全くないドラマ
「冤罪弁護士」というタイトルから、当初は主人公が毎回冤罪を晴らしていくドラマだと思っていた。全然違う。
今回の案件によって、拓は改めて無実を勝ち取る難しさを思い知った。この無念は、10年前の東央大学殺人事件につながっていく。拓からすると、有罪判決後に自殺した幼なじみとガンに冒された死刑囚・式根は重なって見えたはずだ。
今夜放送9話から始まる最終章で、幼馴染の冤罪を晴らすべく拓はきっと立ち上がる。そんな彼の障壁になりそうなのが、拓の最大の理解者であり被害者遺族でもある秋保恭一郎(藤木直人)という悲劇。今回で言えば、秋保は玲子の立場だ。玲子は拓の再検証に嫌悪感を示していた。
誤解を恐れず言うと、爽快感が全くないこのドラマ。
(寺西ジャジューカ)
『イノセンス 冤罪弁護士』
脚本:古家和尚
音楽:UTAMARO Movement
音楽プロデュース:岩代太郎
主題歌:King Gnu「白日」(アリオラジャパン)
参考資料:「冤罪弁護士」今村核(旬報社)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:荻野哲弘、尾上貴洋、本多繁勝(AXON)
演出:南雲聖一、丸谷俊平
制作協力:AXON
製作著作:日本テレビ
※各話、放送後にHuluにて配信中