『アメリカン・アニマルズ』は2004年に起こった強盗事件を題材としている。ケンタッキー州のトランシルヴァニア大学の図書館に大学生4人が侵入し、所蔵された時価1200万ドルの画集であるジョン・ジェームズ・オーデュボンの『アメリカの鳥類』を盗もうとしたのだ。
白昼堂々と図書館に踏み入った犯人たちだったが、計画は失敗。彼はのちに当局に逮捕されている。
「アメリカン・アニマルズ」男子大学生の集団とは、この世で最もバカな人間集団のひとつである

バカ大学生4人組、死ぬほど適当な強盗計画で一攫千金を狙う


後に犯人グループの一人となるスペンサーは、大学で美術を学ぶ青年だった。マッチョだらけの学校にそれほど馴染めなかった彼は、友人の不良ウォーレンと一緒にスーパーに忍び込み、廃棄予定の食料を盗み出すようなショボい犯罪で鬱憤を晴らす。

ある日スペンサーは、大学の図書館の見学に参加する。そこで発見したのは、世界で最も高額で取引されているヴィンテージ本のうちのひとつ、『アメリカの鳥類』だった。1200万ドルの書籍が自分たちの身近に存在するというスペンサーの話を聞いたウォーレンは、この本を強奪すれば自分たちの人生を大きく変えられるはずだと強盗計画を持ちかける。

盗んだ後に『アメリカの鳥類』を買ってくれる故買屋を探しつつ、犯行計画を練るスペンサーとウォーレン。自分たち2人だけでは人手が足りないと判断した彼らは、同じ大学に通いFBIへの就職を目指す頭脳明晰なエリック、すでに起業家として仕事をしているマッチョなチャズという2人を誘い、着々と準備を進めていく。

「俺の人生はこんなもんじゃないはずだ」「平凡な暮らしはウンザリだ」「もっとデカいことがしたい」というようなことは、多分誰もが若い頃に一度は考えると思う。実のところ、『アメリカン・アニマルズ』の犯人たちの胸にあったのはこの焦燥感だけだ。というのも、犯人の4人は全然生活が苦しくなさそうなのである。スペンサーは子供思いの両親を持つ普通の大学生だし、不良っぽいウォーレンにしてもやってることは万引きレベルである。
チャズに至っては学生なのに起業までしている。「あの本を盗まないと死んじまう」というような切迫感はない。「何かデカいことを成し遂げてみたい」という、スリルと冒険と悪事への憧れが動機である。

おまけに彼らは男子大学生の集団だ。男子大学生の集団というのは、この世で最もバカな人間集団のひとつである。「危ないからやめよう」「もう十分だ」と言えば仲間たちから「逃げるのか?」と言われるし、そもそも強盗計画の発端が遊びのようなアイデアだから、マジレスは無粋である。「これ、絶対うまくいくわけねえよな」「まあでも、遊びだし」「どっかでブレーキかかるでしょ」という感じで、計画はエスカレートしていく。

『アメリカン・アニマルズ』が秀逸なのは、このバカな男子大学生たちを徹底して「バカ」として突き放して描くところである。彼らがクールな犯行シーンを妄想するところはまるで『オーシャンズ11』のように描かれ、犯行計画を練る際には無意味に凝った人形やジオラマを用意し、お互いを「Mr.ブラック」「Mr.ピンク」と『レザボア・ドッグス』の真似で呼び合う。バカである。しかし、この程度の若さとバカさならば、誰だって身に覚えはあるだろう。

実際のところ、『アメリカン・アニマルズ』は犯罪映画であると同時に青春映画としても作られている。
故買屋の情報を求めてニューヨークへ行ったり、仲間で集まってワイワイ犯行計画を作ったりするシーンは文句なくキラキラしている。途中でブレーキをかけていれば、彼らはありがちな青春時代を過ごしてそれで終わりだったはずなのだ。

ドキュメンタリー要素が絡んだ、底抜けの意地悪さ具合


なぜ彼らが自分たちで自分たちの犯罪にブレーキをかけることができなかったのかという部分について、『アメリカン・アニマルズ』は相当変わったアプローチを仕掛ける。実際に強盗に加わった4人やその近親者、被害者たちが映画に登場して、当時のことを自分で話すのである。『アメリカン・アニマルズ』は、ドキュメンタリーとフィクションとがくちゃくちゃに絡まり合った構造の映画なのだ。そこで犯人たちは当然、「あの事件の時に自分は何をしていたのか」「なんで自分たちはあんな犯罪を犯したのか」という点について言及する。

彼らの証言は細かく食い違う。合流することができた故買屋の服装や、初めて犯行計画について話した場所など、人によってまったく言うことが違うのである。当然、「なんであんな犯罪を犯したのか」という部分についても、4人はてんでバラバラなことを言う。

この食い違いは、おれも身に覚えがある。例えば学生時代の友人と集まって、大学生の時にあった笑える出来事について話した時に、その場にいた人間が誰だったかを思い出せず「〇〇先輩ってあの時いたんだっけ?」「いや、あの人は確か5分くらい遅れてきたんだよ」みたいな感じで、曖昧な話をしてしまったことはおれにもある。それと同じような感じで、『アメリカン・アニマルズ』は実録映画にも関わらず非常に曖昧でぼんやりした余白を意図的に残しているのだ。


これは相当に意地が悪い構造である。くっきりしたストーリーときっちりしたオチが存在せず、当事者たちの曖昧な記憶をそのまま映像にしているのだ(証言が食い違う場面はわざわざ別バージョンでやり直したりする)。そのため見ている方も座りが悪い。が、映画の冒頭でわざわざ「この映画は真実に基づく物語ではない。この映画は真実の物語である」と字幕が出ることからわかるように、この座りの悪さは意図的なものだ。『アメリカン・アニマルズ』は、「世の中にわかりやすい話なんてあるわけねえよ、バーカ」と客に向かって舌を出しているのである。

若さとバカさの暴走によって引き起こされた犯罪を扱った実録映画でありながら、実録という体裁で客に向かってフィクションを放り出すことの危うさを指摘して、『アメリカン・アニマルズ』は終わる。なんて底意地の悪い映画だろうか。ゾクゾクするような意地悪具合は唯一無二、逆説的な言い方だが、実録映画だからこそ可能になった味わいだろう。必見である。
(しげる)

【作品データ】
「アメリカン・アニマルズ」公式サイト
監督 バート・レイトン
出演 エヴァン・ピーターズ バリー・コーガン ブレイク・ジェンナー ジャレッド・アブラハムソン ほか
5月17日よりロードショー

STORY
2004年に発生した、『アメリカの鳥類』の盗難事件。実行犯となった大学生たちはどのような経緯で事件を起こしたのか、ドキュメンタリーの手法も取り入れて描く
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