
俳優・大森南朋率いるロックバンド、月に吠える。のワンマンライブ『歌舞伎町インシデント 月に吠える。
客電が落ちると、ステージ上のスクリーンには結成5周年を総括すべくバンドのドキュメンタリー映像からスタート。オープニングSEへと続きスクリーンが上がると、壇上に大森南朋(Vo,Gt)塚本史朗(Gt)、長野典二(Ba)、山崎潤(Dr)の姿が現れ、1曲目「ワンダートレイン」を披露、意表を突いたメロウ・チューンからの幕開けは、彼らがこれまでの道程と今この瞬間を噛みしめるかのように、少し感傷的なロードムービーを観ている感覚だ。ところが曲が終わるや否や、大森が「ようこそいらっしゃいました! 1曲目はちょっと気取ってみました!」とおどけてみせる。
「空蝉」はブルージーかつダウナーなロックで落とし込み、大森は気怠けなアティチュードの中にも、間奏では思わず満面の笑みがこぼし、“ロックの聖地”での念願のステージが心底楽しそうだ。もはやおなじみのきわどい発言が飛び出すMCの後は「世田谷NERVOUS BREAKDOWN」、キャッチーで軽快なポップ・ロックは、サビのオーディエンスとのキメもバッチリにヒートアップし、「月に吠える。」はサイケデリックなモードが場内を染め、変拍子のリズムが聴衆の身体を揺らさずにはいられない。メンバーのソロ・パートの見せ場も冴えわたる。


打って変わって「ブルースにとりつかれたまま」「ただただ…」とストレートでメロディアスなレパートリーを繰り広げ、緩急自在に勢い任せで突っ走らないのが、“ミドルエイジのロックバンド”の余裕といったところか。かと思えば、「恋にバカで」は月に吠える。流のファンクネスでグルーヴィーにフロアを煽り、「ネクストマン」はドラマー山崎がボーカルを務める。とびきりポップでアップテンポのノリの良さはまるでフレッシュなビートバンドを彷彿とさせ、なかなか予測不能な展開が実に小気味よい。
MCをはさみ、大森がアコースティック・ギターを手にして「西のインディアン」を披露。ラフでポップにハネるリズムで和やかなムードが漂うも、曲中でボーカルのタイミングをトチってしまうアクシデントにいたく反省する大森。気持ちを切り替え、次曲は「だってこんな好きなんだからしょうがない」。サビでは大森が楽曲タイトルのフレーズを熱くリフレインし、感情を武骨にむき出しにさらけ出す様には心を揺さぶられ、思わず息を呑む。
「平成最後のヒットソングで、超大ヒットドラマのエンディング・テーマ(笑)」との前置きからの「夜の雲」、ほぼアンプラグドな編成で奏でるミディアム・バラードは大森のぬくもり溢れる声とあいまって、束の間の心温まる澄み切った空気感を生みフロアを包み込んでいく。


続いてゲスト・コーナーへ。大森が高まる興奮を抑えつつ「俺たちの青春。俺はこの人の歌を総武線に乗ってカセットテープのウォークマンで聴いて三鷹まで通っていました」と語り、JUN SKY WALKER(S)の宮田和弥が登場。大森は終始、謙虚過ぎるほどリスペクトの姿勢を貫きながらも、「ブルースごっこ」はあくまで宮田と対等に濃密なリアル・ブルースを繰り広げる。なんと美しきミュージシャン・シップだろうか。
「すてきな夜空」、ジュンスカの名曲のコラボレートではすっかりロックキッズに舞い戻っている大森、ミラーボールが煌めく中、宮田と共にサビをユニゾンで歌い息の合ったパフォーマンスを展開し、二人で今日イチのハイジャンプを決めて夢の共演を締めくくった。
「いやぁ、ハシャいだ……」と放心状態の大森、気を取り直して後半戦へ突入。


一転、ここからが疾風怒涛のロックンロール連投開始だ。「I wanna be your rock'n roll star」「ロマンチックブギー」「狼、走る」「ズリぃな」と、息もつかせぬ攻めのパフォーマンスで一気に畳みかけ、月に吠える。の本領発揮と言わんばかりの疾走感に会場のボルテージは最高潮に。一気呵成の爆走の後、「みんなに内緒にしてたけど、今のが最後の曲でした!」と大森が叫び聴衆が面食らう中、本編終了となった。
「ただいま!」の一言と共にメンバーが再登場し、アンコールへ。大森が軽妙なボックス・ステップと共にスライド・ホイッスルを茶目っ気を交えて披露しながら「夢の中」。痛快なスカ・ナンバーが再びフロアを縦ノリに揺らす。
そしてメンバー各々よりこのライブへの感謝を述べるMCの後、「オヤジの小言みたいな曲です」とオーラスを飾るのは「オールドでヤングなロックンロール」。このバンドを象徴するにふさわしいタイトルを冠したフォーキー・ロックは、彼らが着実に積み重ねてきた年月と、今なお転がり続ける彼らの音楽への熱い想いが塊となって聴衆の心に全身全霊で投げ掛けていく。最後に大森が歌詞にちなんで「皆さんのおかげで“生きた心地”ができました!」の言葉を観客に向け、大団円で幕を閉じた。



以前の彼らから溢れ出ていた“ロックの初期衝動”から、新たなフェーズへの一歩を感じさせた5周年ライブ。
(取材・文/上田優子、撮影/三浦憲治)
セットリスト
1. ワンダートレイン
2. 空蝉
3. 世田谷NERVOUS BREAKDOWN
4. 月に吠える。
5. ブルースにとりつかれたまま
6. ただただ…
7. 恋にバカで
8. ネクストマン
9. 西のインディアン
10. だってこんな好きなんだからしょうがない
11. 夜の雲
12. ブルースごっこ(w/宮田和弥)
13. すてきな夜空(w/宮田和弥)
14. 気まぐれジョニー
15. I wanna be your rock'n roll star
16. ロマンチックブギー
17. 狼、走る
18. ズリぃな
<ENCORE>
1. 夢の中
2. オールドでヤングなロックンロール
ライブ情報
2019年10月25日(金)代官山UNIT
■月に吠える。 オフィシャルサイト