
昨今、ミュージカル映画が盛り上がっている。2016年の「ラ・ラ・ランド」を皮切りに、2017年の「グレイテスト・ショーマン」、そして先月公開された「アラジン」など、ミュージカル映画が興収ランキングのトップに食い込むことも増えてきた。
ミュージカル映画の特徴といえば、よく言われるのが「いきなり歌い出す」というものだ。喜んでいるときから泣いているとき、さらには陽気に歩いているシーンから別れの悲しいシーンまで、ミュージカルはとにかく要所要所で歌っている。
そういうジャンルの映画なので当たり前といえばそれまでだが、あまり慣れていない人のなかには、こういう「いきなり歌い出す」ところが苦手だという人もいるかもしれない。
それなら、先に「ミュージカルはこういうところでほぼ確実に歌い出す」というのがわかっていればどうだろうか。
そもそも「いきなり歌い出す」というのは、映画を観ているときに不意打ちを食らうために感じてしまうことであって「いまか? ここで歌い出すのか……?」と待ちかまえることができれば、心の準備を整えた万全の状態で歌を楽しめるはずである。
というわけで今回のテーマは「いきなり歌い出すミュージカル、実際はどういう時に歌い出すのか」を調べていきたい。
調査対象は「アラジン」「レ・ミゼラブル」など22作品

今回、調査対象としたミュージカル作品は以下22作品である。
アクロス・ザ・ユニバース
アニー(2014)
アラジン
ウエスト・サイド物語
オペラ座の怪人
キンキーブーツ
グレイテスト・ショーマン
サウンド・オブ・ミュージック
シカゴ
スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師
ダンサー・イン・ザ・ダーク
ドリーム・ガールズ
バーレスク
ヘアスプレー
マイ・フェア・レディ
マンマ・ミーア!
メリーポピンズ
ラ・ラ・ランド
レ・ミゼラブル
レント
雨に唄えば
美女と野獣
ここに挙げた以外にもミュージカル映画は膨大にあるが、今回は興行収入とレビュー評価の高さをもとに、比較的著名な作品のみを対象としたい。「歌い出す」の基準は登場人物がセリフを歌に載せた時とし、映画内で同じ曲を何度も使っている場合は最初の1回のみをカウントした。
ミュージカル映画、どういう時に歌い出すことが多いのか
では、結果を観てみよう。今回対象とした22作品、約300曲以上を分類してみたのが以下である。

1位 ステージに立った・楽器を持った時 57回
2位 2人がいい感じになった時 25回
3位 教える・説教する時 19回
4位 映画開始時・オープニング 18回
5位 どちらか一方が恋に落ちた時/パーティー・ダンスの時/闘う・ケンカする時 15回
6位 落ち込む・嘆く時 14回
7位 夢を語り出す時 11回
8位 誰かと別れる時・亡くなる時 9回
9位 過去や将来に思いをはせる時 8回
10位 怒った時/成功して喜ぶ時/何か頼みごとをするとき 7回
最も多かったのは「ステージに立った・楽器を持った時」の57回。今回調査した22作品のほぼすべてに登場する、いわゆるミュージカル映画の”フラグ”である。
特にステージ上で歌が始まることが多かったのは「ラ・ラ・ランド」「雨に唄えば」といった、ハリウッドの裏側やショービジネスの世界を舞台とした作品で、なかでも歌手・ビヨンセが出演したことでも話題となった「ドリームガールズ」は、ほぼすべての曲がステージ上で歌われている。
2番目に多かったのは「2人がいい感じになった時」の25回。この場合の「2人」というのはケースバイケースになるため、恋人の場合もあればそうでないこともあるが、ひとつ言えることは「2人組でロマンスの雰囲気を出している場合は、ほぼ確実にその後2人で歌い出す」ということだ。今後ミュージカルを鑑賞する際はこれを念頭に観ていただければと思う。
次いで多かったのは「教える時・説教する時」の19回。前述の2つに比べると、こちらはいくつかパターンがあり、興奮している主人公を見た脇役が「やめた方がいいわ」「落ち着きなさい」などと言いながら隣でいきなり歌い出すパターン、大人が子どもに「これはね……」と歌いながら教えるパターンなどが存在した。
いずれにせよ共通しているのは、歌詞が物語のなかでそれなりに重要なケースが多いということで、話のターニングポイントとなっていたり、状況の説明を兼ねている場合があるので、いきなり感に惑わされることなく、注意深く歌を聴いてほしいところである。
3位以下で特にいきなり感が強いのは、5位の「闘う・ケンカする時」だろう。一般的に他人と対峙するときに歌い出す人はかなり少ないのでないかと思うが、ミュージカルの世界ではかなり見慣れた光景のひとつのようだ。
具体的には「レ・ミゼラブル」や「美女と野獣」のクライマックスように「戦いに出る際に皆で合唱する」という比較的現実に近いシーンのほか、「怒った主人公が相手にケンカをふっかけながら歌い出し、また相手もそれに合わせて歌い出す」というミュージカルならではの歌合戦パターンもあり、心の準備をして挑んでもらえればと思う。
喜怒哀楽で分けた場合、いつ歌い出すことが多いのか
いつ歌い出すのかがわかったところで、どういう感情の時に歌い出すのかも見てみよう。ざっくりと喜怒哀楽の4種に分類してみたのが以下である。

喜:20.0%(恋人どうしが結ばれる、誰かを歓迎する時など)
怒:10.5%(怒った時、誰かと闘う時など)
哀:14.3%(悩んだ時、嘆く時など)
楽:13.3%(友人と意気投合した時、踊る時など)
どれでもない:41.9%(オープニング、自己紹介する時など)
多いのは「喜」の20.0%。「2人がいい感じになった時」「恋人どうしが結ばれたとき」など、恋愛にまつわるシーンは特に歌い出すことが多いため、ほかに比べてやや多い結果となったようだ。
次いで多かったのは意外にも「哀」。割合としては、落ち込んだ時や嘆いた時に一人で歌い出すことが多く、「怒」と「楽」に差をつけたと言えるだろう。
最も多いのは特にどの感情にも分類されないもので、オープニングのほか、自己紹介として歌い出すものや、前述したステージ上で歌い出すケースが多かった。
「どれでもない」に分類したなかでも特に珍しいものとしては「歌いながら金額の交渉を始める」「人からモノを盗みながら歌い出す」「敵から全力疾走で逃げながら歌い出す」といったケースが見受けられた。こういった希少種ものはほとんど前フリがないまま歌に突入することが多いようで、心の準備がしづらいものの、数としても多くはないので見かけたときはぜひ存分に楽しんでほしいと思う。
というわけで、今回の調査はここまでである。いきなり歌い出すと言われることの多いミュージカルだが、決していきなり歌っているわけではなく、ある程度の傾向があることが伝われば幸いである。
■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。
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