今回の脚本はコントユニット・テニスコートの神谷圭介。これでテニスコートの3人が全員、今作の脚本を手がけたことになる。神谷が担当した第8話はもう、全体的に悪ふざけに満ちている。
兄・淳之介(矢本悠馬)の元にすごいテンションの羽衣が飛び込んでくるところから物語は始まる。押入れから失踪した母のものらしき1000ピースパズルが見つかったというのだ。「お母さん、普通にラッセンが好きだったじゃない?」と、誰もが永野のネタを思い浮かべずにはいられないフレーズを真剣に放つ羽衣。しかも「心から普通に好きだった」「特に印象に残らないくらい普通に好きだった」と「普通」を6バリエーション・7回も繰り返し、それを受けた兄も「そんなに普通にラッセンが好きだったっけ?」と羽衣を見送る……。何なの、この時間!? こうして振り返ってみると、「最後にチューしたのいつだったっけ」とひとりごちる、謎にカッコつけた感じのはじまり方さえばかばかしく思えてくる。
最初からトバしているこの回、悪ふざけはなおも続く。最初の依頼人・田貫純子(河原幸子)の風貌、見るからにあの社長っぽいな〜、と見ていると案の定「タヌキパーキング・通称ヌパ」のヌパ社長だし、その依頼は自宅の「池の水全部抜」かれて困っている、というものだし。

兄妹の絆が見える淳之介回
連続ドラマって、半分過ぎたあたりで変化球の回が入ることがある。このドラマの場合、それは紛れもなくこの第8話だろう。ふざけっぷりもさることながら、今回、主人公の羽衣が全く事件解決に手を貸さないのだ。
実のところ、この兄妹は仲がいい。羽衣はなんだかんだいって兄のために水をかぶり続ける。兄も妹に頼りっぱなしだけれど、就活の行方を心配したりもする。印象深いのは第3話だ。目の前で能力を見せたうえで、びしょ濡れで面接に向かう羽衣。「あのまま面接に?」と驚く相手に向かって、「はい」と誇らしげに言う淳之介。ここで淳之介がドヤ顏をするのはちょっとずれているかもしれないけれど、でもやっぱり兄妹の絆を感じる。
毎回のばかばかしい依頼、そしてつくづくしょうもない淳之介と父(大堀こういち)。けれどこうして回数を重ねて見ているうちに、実は互いの信頼関係だとか、羽衣の信念だとか、淳之介の思いだとか、そういうものをなんとなく感じさせるドラマなのだ。
タヌキパーキングの町名に込められた意味
ちなみに今回もう一人の依頼者はかねてから淳之介が密かに思いを寄せていたご近所の人妻・真奈美(葉加瀬マイ)。
途中、ヌパ社長のCMが流れるシーンがある。その中でニューオープンのタヌキパーキングが羅列されていく。「銀座中央街」「銀座東町」「新宿庭園前」とありそうな地名ではじまり、「余熱(ほとぼり)町」「余熱(ほとぼり)商店街」を経て、「神田小出橋」「吉田神谷町」「新宿傾奇町」と締めくくられる。小出、吉田、神谷はテニスコート3人の苗字。そして「ほとぼり町」は、「ほとぼり」が実体のあるものとして登場し、それを冷まそうとするというテニスコートのコントからきているのだろう。
さて、羽衣はジグソーパズルを無事完成させる(そこで母が「普通に好き」なアーティストが別だったことが判明するのだが、その固有名詞がいかにもすぎて最高。Paraviが見られる方はぜひ、第8話のテレ東版をご確認あれ。ちなみにゴッホではない)。そこでいつもとは違って「よくやったわ羽衣、よくやったわ」とだけ言う。
「びしょ濡れ探偵 水野羽衣」
出演:大原櫻子、矢本悠馬、大堀こういち、ヤオアイニン
企画:ブルー&スカイ、加藤伸崇
脚本:ブルー&スカイ、村上大樹、テニスコート、金井純一
監督:草野翔吾、金井純一、長野晋也
チーフ・プロデューサー:山鹿達也
オープニング曲:マカロニえんぴつ「surpernova」
エンディング曲:大原櫻子「I am I」