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芸歴20年でも、どうにもならないことがあるのだと震撼した事件だった。8月15日に放送された『テレビ千鳥』スペシャル(テレビ朝日系)、「ノブがLemonを歌いたいんじゃ!」でのことだ。
ノブは1ヶ月間のボイストレーニングを経て米津玄師「Lemon」を特訓し、スタジオで生歌を披露する企画に挑んだ。生歌披露は番組的にもクライマックス。衣装に身を包み、マイクを握るノブだったが……歌は上達しておらず、歌ってもボケてもウケず、スベり倒してしまう。冠番組の冠企画で……!
そんな「夢ならばどれほどよかったでしょう」と言いたくなる事件を放置する『テレビ千鳥』ではない。8月26日放送のレギュラー回は「ノブのLemon大反省会」(TVer見逃し配信)と銘打ち、ノブが何を間違えたのかゼロから検証した。結果、全ての選択肢を誤っていたことがわかった。
反省会に狩野英孝が呼ばれた意味
反省会は「編集前のVTRを確認」する形で行われた。ゲストに呼ばれたのは狩野英孝。「狩野じゃないのよ!」とツッコむノブだったが、実は狩野英孝はこれ以上ないキャスティングである。理由はあとで説明するのでちょっと待ってほしい。
スタジオ収録の二日前、ノブは歌が全く上達していないことに気がついていたという。しかしスタッフが「ノブさん下手でも面白いですよ」と乗せるので、素直なノブは「そっか!」と企画を「お笑い」に振ることにした。下手な歌を聞かせるくらいなら、笑わせる方向で行こう。
しかし大悟と狩野の見解は「上手くなくても真剣に臨むべきだった」。練習の様子をVTRで見た観客は、ノブの歌が上手くなることを期待している。「ちょっとの成長でも見えれば」(狩野)と思っている。そこにウケようと思って米津玄師のコスプレで登場したらどうなるか。映像を確認すると「音、切ってる?」というくらい客席は静まりかえっていた。
予想を裏切るところに笑いが生まれる。だが、期待を裏切ってはいけないのだった。

ここに狩野英孝がキャスティングされた意味がある。狩野英孝はかつて『ロンドンハーツ』をきっかけに、「50TA」名義でアーティスト活動をした経歴を持つ。本気で作詞作曲し、本気で衣装を作り、本気でステージで歌い、それが大爆笑につながった。「本気で歌うことがお笑いになった」人なのだ。
1回目の「Lemon」で、ノブは大悟にツッコんでもらおうと、歌い出しで盛大に音を外す。本気で歌おうとしない。そのVTRを見て狩野英孝は言い放つ。「練習より笑いを取ろうとしている声」「オレ天然だからイジってくださいよ、って言ってる寒い芸人と一緒」と。ノブは椅子から崩れ落ちて倒れた。
歌の「外側」にオチを見いだす麒麟川島
スベったところを何度も見せられるノブは「このVTRは危ない」「死ぬよ」と右手で自分の心臓を叩きながら嘆く。しかしまだ地獄は続く。
1回目の「Lemon」をリプレイ。歌い出しで大悟に止めてもらえなかったノブは、スベりながら歌い続けるしかなくなっていた。「大スベりに入っていく男」の顔に笑い転げる大悟と狩野。Bメロでようやく大悟に止めてもらい、命拾いしたのに「止めるなよ!」とリアクションするVTRの中のノブ。
続いて、オンエアでは全カットされた「2回目の挑戦」のVTRを確認。ここまでの間違いに気がついたノブは真面目に歌い出す。
1回目でボケてスベり、2回目もボケてスベった。こうなると、3回目でボケてもウケないだろうし、真面目に歌いきっても「ふーん」で終わってしまう。どうすればこの企画がちゃんとオチるのか……? 混乱した現場を救ったのは、スタジオゲストの麒麟・川島だった。
「あれかな、格好が暑いのかな? なんか風通しの良い服みたいなのがあれば……」
この企画のひとつ前は、大悟が自腹で夏服を買うロケだった。最終的に購入したのは、配管を組み合わせた謎の服。上半身裸になってそれを装着し、「配管マン」となってスタジオに登場した大悟は多いにウケた。
「風通しの良い服」というフレーズから、全員の頭に「配管」が浮かぶ。あれで歌えばオチる……! もうノブの歌に突破口はない。ならば歌の「外側」にオチを作るしかない。
最後の大間違い
3回目となる「Lemon」を確認する。
大悟の曲紹介で、流れだすイントロ。ノブは舞台袖に控えている。「配管マン」で歌いながら出てくればオチる……のだが、ノブが歌い出しても誰も出てこない。「あれ?」という空気になるスタジオ。
VTRを止め「ここが大間違い」と説明するノブ。着替えは終わっている。サビで満を持して登場するつもりだったのだ。
しかし「Lemon」はAメロを2回繰り返し、Bメロを経て、やっとサビになる。長いのだ。センターに誰もいないまま、流れ続けるノブの「Lemon」。
笑い声は、ない。
心が折れながら「配管マン」の姿で歌いきり、一拍おいて「ウケんのよ!」と嘆いたノブだったが、その一言さえもウケない。VTRを止め、「ウケんのよがウケん!」と千鳥は声を揃える。
ここまで一部始終を見せられると、あまりのウケなさに笑うしかない。あの千鳥のノブでさえも判断を誤り続けると、ここまで空気が冷えるものなのか。これはもはや、この夏の「本当にあった怖い話」だ。「ほん怖」である。
「ノブのLemon大反省会」は、再び「配管マン」となったノブが、カメラの向こうの米津玄師とボイストレーナーに謝罪して終わった。謝罪後の「ウケんのよ!」がスタッフにちょっとウケていて安心した。スタジオで死んだ魂を「大反省会」として供養した、番組の優しさに感謝したい。
取り急ぎご報告したいことは以上です。
『テレビ千鳥』「ノブのLemon大反省会」(TVer見逃し配信)
(文と作図/井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)