TBSにて8月26日(火)深夜放送のドラマ 『スカム』(MBS/TBS系)最終話。父親の医療費と学費のための学生ローンの支払いのため、振り込め詐欺をはじめた誠実(まこと/杉野遥亮)。

怒涛の最終話。誰が悪くて、誰がかわいそうなのか?
「怒涛の」という言葉が似合い過ぎる最終話だった。
神部「ここにしがみつけば、もう生きていることの不安とか、報われない思いとか、悔しい思いなんかすることもねえ。お前らは、選ばれし5人なんだ」
そう言って誠実たちを振り込め詐欺のプレイヤーに育てた神部(大谷亮平)。神部がホワイトボードに書いた「老人は日本のガンだ」という言葉を、誠実は不安にさいなまれ、悔し涙を流しながら雑巾で消していった。仲間の清宮(前野朋哉)や恩人である神部、毒川(和田正人)との輝かしい青春のような成功の記憶が、ボロ布に拭い去られていく。
神部は、毒川に振り込め詐欺を辞めると伝えた。
毒川「いまさら、違う生き方なんてできるんすかね」
神部「やってみるわ……」
次の瞬間、操作をミスした老人の車が、ものすごい勢いで神部たちに突っ込んだ。車に乗っていたのは、ついさっき神部が落とし物を拾って「気を付けて」と優しく声をかけたばかりの、お金に困っていなさそうな老夫婦だった。
ヨロヨロの足で車の操作をし人をはねてしまう老人と、「老害、ぶっ潰す!」と気合いを入れながら振り込め詐欺を何年も主導してきた青年。
金を分配せず溜め込んで下の代を育ててこなかった老人と、何十年も貧困の中で生きることが約束された若者たち。
誰が悪くて、誰がかわいそうで、誰が酷い目に遭えば「ざまあみろ」なのか。『スカム』は、ずっとずっとそれを見る者に問いかけ続けてきた。
振り込め詐欺がなくならない理由
最初に誠実を詐欺の「出し子」として拾った山田(山中崇)が、誠実を脅しに現れる。1話では恐ろしかった山田にも、修羅場を踏んできた誠実はもうひるまない。ゴミを投げつけて撒き、家まで追ってきた山田にブチ切れて、ベッドの下に隠していた札束の山をくれてやるとばかりに放り投げてやる。
誠実が警察に連行されたのは「正義と悪の戦いの結末」ではなかった。
箱(振り込め詐欺の店舗)を片づけた誠実が家に帰ると、母・幸子(西田尚美)がケーキを作っている。退院して帰ってくる予定の父親のために。「いつも通り」の家のはずなのに、その幸子の撮り方はまるでホラーかサスペンスだ。
顔に張り付いたような笑顔で、小麦粉がこぼれているのを気にもせずふるい続ける幸子。
幸子が、なぜか不穏にズームアップされる。
果物や卵がボウルに落ちるときのスローモーション。
思い詰めた表情で、一点を見つめながら牛乳を注ぐ誠実。
やや青白く、ケーキや果物が美味しそうに見えない映像。
そして、流れ続けるレクイエムのようなパイプオルガン風の音楽。
すべての調和が崩れていく「不協和音」が、映像で表現されていた。
誠実と幸子が「いつも通り」にしようとしていた家庭に、山田が来て窓を叩く。警察が踏み込んでくる。
刑事「草野誠実、お前を逮捕する。お前が被害者から奪ったのは金だけじゃない。尊厳だあ! 尊厳を踏みにじったんだあ!」
誠実「うるせえー!」
警察は誠実をなじるが、先に尊厳を踏みにじられ、そしていままさに踏みつぶされようとしているのが誠実たち若者だったはずだ。
美咲(山本舞香)の協力で最後に保釈された誠実に、警察は「待ってろ、次は絶対逃がさんぞ」と言う。しかし、原案本の『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書/筑摩書房)にも書かれているが、誠実たちプレイヤーや末端の出し子、受け子を捕まえたところで、番頭や金主が生きていれば詐欺やそれに準ずる犯罪は残り続ける。誠実たちの代わりはいくらでもいるのだ。
芯に迫らず、末端を捕まえては正義ぶるあの刑事(石橋保)の態度が、日本から「振り込め詐欺」がなくならない理由を雄弁に語っていた。
エモーションの裏に静かな怒り。『スカム』が名作である理由
ラストシーンは、小林勇貴監督の意地の悪さがキレていた。
誠実「世の中厳しいって? 誰も助けちゃくれないって? ふざけんなよ」
保釈され警察署を出た誠実のモノローグのあと、顔を上げるとそこには美咲が立っていた。誠実に気付いた美咲は、一呼吸おいて微笑む。そのまま終われば、「世の中厳しい」「誰も助けてくれない」なんてことはない、一番近くに助けてくれる人はいる、という「自助」のメッセージになっていただろう。
自己責任、自助努力に感動したり、賛美したりする世の中を蹴散らして、そこに誠実のもう一人の“友だち”・祥太郎(戸塚純貴)が割って入る。「おう、誠実。久しぶりやな!」と笑って。
自己責任、自助努力じゃどうにもならねーんだよ! ばーか! と、嘲笑と恨みと諦念がないまぜになったような結末。そのすべてを、説明ではなく映像、演技、演出で見せる力と技。このドラマにかけるメッセージと技術と熱量が、『スカム』を名作に押し上げていった。
『スカム』は、MBS・TBSとネット配信サービス・Netflixとの同時展開で制作されたドラマだ。
テレビドラマとネット配信や大手芸能事務所が手を組むことで予算が拡大し、ロケーションや俳優、プロモーションにこれまでの深夜ドラマ以上の費用をかけることができる。過去には、過去には、例えばテレビ朝日とネット配信サービス・Huluがタッグを組んだ「HiGH&LOW」シリーズなどもその事例に含まれるかもしれない。
そうして費用をかけて制作するドラマが、Netflix関連でいえば実話に基づいたものばかりだというのは興味深い。実際の人間の狂気や苦悩を、創作は超えられないのだろうか。
とはいえ、『スカム』が良質な作品となったのは、狂気の表現とともに、どの弱者に対しても細やかな理解を示しているのが伝わっていたからだ。狂気や苦悩というエモーショナルな側面と、社会制度や生きづらさの理由を整理する冷静な側面を常に併せ持っていた。
人は、事実を並べ立てられたときではなく、エモーションに響くものに触れたときにはじめて「考えさせられる」ことが多いという。スピード感とアドレナリンに満ちたドラマの裏に、静かな怒りのような訴えたいメッセージが流れていた『スカム』。この世の中に問いを投げかけることに成功した、秀逸な怒りのピカレスクロマンだった。
(むらたえりか)
過去放送分配信「Netflix」:https://www.netflix.com/jp/title/81153751
ドラマイズム『スカム』
MBS:毎週日曜深夜0:50〜
TBS:毎週火曜深夜1:28〜
出演:杉野遥亮、前野朋哉、山本舞香、戸塚純貴、福山翔大、水間ロン、若林拓也、華村あすか、柳俊太郎、山中崇、和田正人、西田尚美、杉本哲太、大谷亮平、ほか
監督:小林勇貴
脚本:継田淳
原案:鈴木大介『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書/筑摩書房)
制作プロダクション:ROBOT
製作:「スカム」製作委員会・MBS
MBS番組HP https://www.mbs.jp/drama-scams/
公式ツイッター https://twitter.com/scam_0630