朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第13週「1964-1965」
第58回〈1月24日(月)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉
※本文にネタバレを含みます
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「何が私の幸せか勝手にきめんといて!」
「何が私の幸せか勝手にきめんといて!」が第58回のすべてであろう。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜58回掲載中)
鳴り物入りで東京に行ったジョー(オダギリジョー)がひっそり大阪に戻って来ていた。るい(深津絵里)を想うあまり理由を言わないからかえってこじれるパターンだが、道頓堀は狭く、たちまちジョーの真相はるいの耳に入る。
道頓堀の狭さ――朝、豆腐を買いに出たるいがジョーとばったり。ジョーが旅館「月浜」に行くところをトミー(早乙女太一)が見かけて後をつける。トミーが奈々(佐々木希)とジョーについて話しているところに平助(村田雄浩)がクリーニングの配達に来て聞いてしまう。すぐさまそれをるいに報告。るいは「月浜」へジョーに会いに走る。
ピンボールのように球がぶつかって話が早く転がっていく。ご都合主義の極地ではあるが、ここで重要なのは、るいが彼女のために別れようとするジョーに「何が私の幸せか勝手に決めんといて!」と言うことである。
「一緒に泣きたかった。一緒に苦しみたかった。私にできること、なんでもしたかった」
これは少女時代、るいが母・安子(上白石萌音)に対して思っていたことであろう。安子はるいのことだけを考えてるいを雉真家に預けたわけだが、それこそ「何が私の幸せか勝手に決めんといて!」「言うてほしかった。一緒に泣きたかった。
るいはジョーを通して、あのとき、言えなかった本音を吐き出している。そう思うと、るいの感情は本当に愛なのか、依存じゃないのかとも疑ってしまうけれど、こういう愛もあるのだろう。
大事なのは自分が幸せになることであって、「一緒に泣きたかった。一緒に苦しみたかった。私にできること、なんでもしたかった」と思う相手(ジョー)が現れたから、絶対手放してはいけない。
ジョーに強引に部屋の外に出されてもるいは諦めない。心配するベリー(市川実日子)に「私は大丈夫です。あきらめへんって決めたんです。ジョーさんと幸せになることを」と強い決意を語る。愛を知ると人は強くなるのか。
それにしても、ジョーの突然の不調はなんなのか。精神的なものなのか身体的なものなのか。
「それが私の仕事なの」
るいがジョーのためにできることをなんでもしたい、それが幸福と思うことに対して、奈々はどうやら仕事が幸福のように見える。登場時はジョーに横恋慕するキャラかと思ったら、意外とビジネスライク。僕のことはいいからと言うジョーに、奈々はジョーの拔けた穴を埋める人材を探すために大阪に来たとあっさり言う。「それが私の仕事なの」と、奈々のほうはビジネスライクで、ジョーのほうが勝手に自分にかまってもらっていると思い込んでいるふうなズレがおかしくもある。奈々は、準優勝だったトミーに目をつけていた。普通に考えて繰り上げが当然であろう。トミーはジョーのことがあって荒れた調子でトランペットを演奏していて、その陰りが逆に魅力を増して見える。でも奈々がジョーの代わりに東京デビューを持ちかけると断固拒否。ジョーは必ず治るからスケジュールも小屋も空けて待っていろと言うのだ。なんて友達想いなのであろうか。
育ちの良いトミーはお金も地位も名声にも飢えていない。
ちゃっちゃとジョーを諦め、るいと友人関係になったベリーも上品だし、竹村夫妻も陽気な大阪の人って感じでもあるが内面は繊細。ご都合展開をわちゃわちゃしないでしっとりまとめあげる安達もじり演出も上品。平助がトミーと奈々が話しているのを目撃して家に帰って話して、るいが驚いて駆け出していくスケッチ(短い場面)がとても良くできていた。
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami