同じ地元で育った同じような人間同士でも、人種が違うだけで互いに対して「盲点」を抱えることになる……。黒人だけではなく、白人のつらさにもフォーカスした『ブラインドスポッティング』は、なかなか複雑な一本だ。

白人だってつらい「ブラインドスポッティング」人種の違いに起因する盲点をえぐる

あと3日で自由の身になれるのに! 黒人青年コリンの運命やいかに


映画の主人公コリンは、カリフォルニア州オークランドに住む黒人の青年である。とある事件で逮捕され、現在1年間の保護観察期間中のコリンは、銃など違法な物品の取引の現場にいてもいけないし、門限は11時だし、現住所のある郡から出ることもできない。規則正しく品行方正に生活する必要がある。しかし、長かった保護観察も残り三日で終わる。この三日間を無事に乗り切ることさえできれば……。

コリンの幼馴染で親友のマイルズは白人だが、コリンを上回る問題児だ。保護観察期間中のコリンの目の前で違法な銃の売買をしてからかったりとタチは悪いが、基本的に気のいい不良である。コリンとマイルズは同じ引越し屋で肉体労働に汗を流して日銭を稼ぐ。しかしある日、帰宅途中だったコリンは白人の警官が走って逃げる黒人を射殺する現場を目撃。現場から急いで帰宅したコリンだったが、その光景に強い衝撃を受ける。

翌日からも一見変わらず、引越し屋での仕事に精を出す2人。しかし急速に住人が入れ替わり、街の様子が変化する中で、コリンとマイルズそれぞれに鬱屈が溜まっていく。残り三日の保護観察期間を無事に過ごし、コリンは自由を手にすることができるのか。


オークランドというのは、全米の中でも特に白人以外の人種、わけても黒人が多い街らしい。公民権運動が激しかったころにはブラックパンサー党の中心地となったり、アメリカの中でもちょっと独特の風土がある土地である。加えて、近年は「多様な人種がひとまとまりになって住んでいる」という点から高級化が進み、いわゆるヒップスター的な人たちが移住してくることも多いそうだ。

そんな、イキったよそ者がゴロゴロと引っ越してくる街の引越し屋で働く、黒人と白人の地元ブルーカラー2人組。「なんだあいつら」「気に入らねえ」という点では意見が一致しているものの、実のところ見えているものが結構違い、それゆえにすれ違いが生まれる……というのが映画の主題だ。『ブラインドスポッティング』というタイトルは、この主題を端的に表している。「ブラインドスポット」とは盲点の意味である。2人それぞれに見えていないポイントとはどこなのか、というのがこの映画のキモだ。

といっても、『ブラインドスポッティング』はさほど深刻な映画ではない。不良2人組がブツクサ言いながら引越し業者で働いて、そのついでにちょっとした悪巧みで小銭を稼ぐ様をテンポよく見せてくれる。地元のワルガキ2人組がラップの真似事をしながらじゃれ合う姿は、見ていてなかなか微笑ましい。であるがゆえに、互いの盲点が浮き彫りになる映画の後半戦はなかなか痛ましいものがある。


白人の不良だってつらいよ! 映画の出した結論とは


『ブラインドスポッティング』でちょっと新鮮だったのは、「黒人が多い街に生まれた時から住んでいる白人の不良」という立場の難しさにもフォーカスしている点だ。よくよく考えれば、コリンというキャラクターはけっこうわかりやすいところがある。髪型こそブレイズだけど、銃も持っていなければ薬や酒に溺れてもいない。タトゥーも入っていないしギャングでもないし、平穏に保護観察期間を過ごそうという意欲もある。見た目よりは真面目な黒人のあんちゃんである。

「真面目で普通に過ごしているのに、黒人というだけで色眼鏡で見られる」という辛さは、色々な映画で描かれている。例えばN.W.Aの伝記映画である『ストレイト・アウタ・コンプトン』では、真面目な学生であるアイス・キューブが、特に何もしていないのに警官にいちゃもんをつけられてひどい目にあわされたりしていた。人種だけが理由で悪人扱いされるというのは、悔しく腹立たしいことだと思う。

それに加える形で『ブラインドスポッティング』では、白人の不良であるマイルズの屈託にも焦点が当てられる。マイルズはコリンよりもずっとわかりやすい不良だ。見た目の面でも、全身タトゥーだらけで口にはグリルがはまっている。悪態はつくわヴィーガン向けのハンバーガーにケチはつけるわ違法な拳銃をホイホイ買うわ、行動としても不良度の高さは申し分ない。
どこに出しても恥ずかしくない、立派なチンピラである。

だが、マイルズは白人である。だから、黒人ばかりのオークランドではどうしても完全な不良扱いはされない。劇中のセリフにもあるが、黒人のコリンとマイルズが並んでいたら、警官に撃たれるのはコリンの方なのである。同じ地元で生まれ育ったのに完全な不良にもなれず、かといって今更白人エリートのルートにも乗れず。加えて、自分が生まれてこのかた住んできた愛着のある街には、自分のようにタトゥーを入れてイキった白人が引っ越してくる。あろうことか自分はそいつらの手伝いをするのが仕事だ。マイルズの抱えている鬱屈は、なかなか複雑なのである。

もちろん、適当にその辺を歩いているだけで悪人扱いされるコリンの生活の方が厳しいのは当たり前だ。妻も子もいるのに、半端に不良なんかやってるマイルズの方がダメだろうというのもわかる。しかし、そんなマイルズの話を、まともに聞いてくれた人はいたのだろうか。オークランドに生まれた貧乏白人にも苦労はあるのでは? それこそ映画のタイトル通り「盲点」だったのではないか?

そんな盲点だらけの世の中で、なんとか折り合いをつけてやっていくにはどうしたらいいのか。
ほんのりと答えのようなものを示して、映画は終わる。単純な結論を拒否し、ややこしさを抱えたまま生活するとはどういうことなのか、説教くさくなく教えてくれる映画である。
(しげる)

【作品データ】
「ブラインドスポッティング」公式サイト
監督 カルロス・ロペス・エストラーダ
出演 ダヴィード・ディグス ラファエル・カザル ジャニナ・カヴァンカー ほか
8月30日よりロードショー

STORY
オークランドで暮らすコリンは、残り三日で保護観察期間を終える予定だ。しかし地元の親友であるマイルズは、そうと知りつつトラブルを起こす。さらにコリンは、仕事帰りに白人の警官が黒人の青年を射殺する現場を目撃してしまうことに
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