9月7日(土)放送のNHK土曜ドラマ『サギデカ』第2話。

キャスティングが語る、被害者老人の人生
刑事の今宮(木村文乃)と戸山(清水尋也)が、1,000万円もの詐欺被害に遭った老人に状況を聞いていた。その聞き込みが終わるのを待たずに、今度は600万円の被害報告の電話が入ってくる。いまや詐欺は当たり前に起こっていて、1件1件の被害はニュースにもならない。
しかし、被害に遭っているのは「名もなき老人」ではないと、本作はキャスティングで示す。
第1話では、振りこめ詐欺の被害に遭い自分を責めながら亡くなった老人・三島を泉ピン子が演じていた。今回は、不動産詐欺の被害者を伊東四朗が演じている。本作では、詐欺の被害者となる老人たちに、一目見て誰もがわかる俳優をキャスティングしている。
姿や名前を見れば「ああ、あの人」と何らかの記憶が呼び出される人。自分の身内ではなかったとしても、被害に遭っているのは誰かにとってそういう存在である。泉ピン子や伊東四朗の存在と登場は、説明をせずともそうした感覚を与えてくる。
また、泉ピン子は『マッサン』(NHK総合)で嫁いびりが話題になった。伊東四朗は『黒革の手帖』(テレビ朝日系)で日本経済界のフィクサーとして若い主人公たちの運命を握っていた。
「与えたい」という思いすら利用する詐欺師
〈だが、ただひとついえることは「奪われる前に与えていれば、こんなことにはならなかった」ということだ。〉
(鈴木大介『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』ちくま新書/筑摩書房 p.237)
『サギデカ』には取材協力、ドラマ『スカム』(MBS/TBS系)には原案で参加している鈴木大介は、著書『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』のあとがきで、こう述べていた。社会が若者に対して金や文化などを出し渋ることなく与えていれば、詐欺の規模はここまで大きくならなかったのではないかと。書籍を読んだときにはこの言説に説得力を感じ、納得もしていた。
しかし、本作の詐欺師はこの著者の仮説さえ踏みにじってくる。
「原田」という教え子だと嘘をついて北村に近づいてきた広瀬藍子(筒井真理子)は、最初に北村をお茶に誘い出した。連れて行かれた喫茶店では、老紳士(津嘉山正種)が詐欺とは知らずに投資詐欺の説明をしていた。
老紳士「未来ある若者たちを応援してやる。それが、私たちに残された、最後の使命だと思いませんか」
北村を不動産詐欺でおとしいれた詐欺師たちのひとり、松澤亮治(山内圭哉)が、老紳士の語る投資詐欺の首謀者だった。不動産詐欺で逮捕された松澤は言う。
松澤「ふふ、バグった(=認知症の)老人は使えますから。
金に限らず「若者に何かを与えたい」と思う老人たちの思いさえも、詐欺師は利用してしまう。おそらく認知症なのであろう老紳士は、詐欺に加担していると知らずに同じ台詞を繰り返し繰り返し語る。
最初に広瀬が演じていた原田と会ったとき、北村は卒業アルバムを引っ張り出して原田を見つけ「女は変わるなあ」と呟いていた。終盤、認知症が進んだ北村は「(原田は)全然変わってなかった」と言う。
北村「でもね、原田は言ったよ。先生のおかげで助かったって。ありがとうって。ええ、嬉しいね。この歳になってもまだ生徒の役に立てる。
広瀬は証拠がなく無罪となる一方で、詐欺に巻き込まれた北村は判断能力ありとみなされ犯罪者になってしまう。自分の状況を知ってか知らずか「俺は幸せだ」と言う北村を見て、今宮は涙を我慢できない。
悔し泣きをする今宮に、上司の手塚は「なあ、この世界から詐欺がなくならない理由は、何だと思う」とたずねた。利己的な人間がいるからだと答える今宮に対して、手塚の答えはこうだ。
手塚「俺たち人間は、信じたいものだけを信じて生きてる。だから、騙される」
今宮「……チョロいですね」
2話の序盤では、手塚は「この世界から詐欺をなくすのは無理だ」とも言っていた。絶対になくならない詐欺。信じたいものだけ信じる人間。騙されても「幸せだ」と言った北村。不毛であるとわかりながら、今宮たちは何のために、どこに向かって詐欺の防犯と捜査を続けていくのだろうか。
今宮の過去が明かされ、「何のために」の答えに近づきそうな第3話は、今夜9時から放送予定だ。
(むらたえりか)
■作品情報■
土曜ドラマ『サギデカ』
総合:2019年8月31日(土)スタート 毎週土曜 よる9時から9時49分<連続5回>
BS4K:2019年8月28日(水)スタート 毎週水曜 よる7時50分から8時39分<連続5回>
再放送:総合 毎週木曜 午前0時55分から1時44分(水曜深夜)
配信:NHKオンデマンド https://www.nhk-ondemand.jp/program/P201700161900000/
出演:木村文乃、高杉真宙、眞島秀和、清水尋也、足立梨花、玉置玲央、長塚圭史、鶴見辰吾、香川京子、青木崇高、遠藤憲一、ほか
脚本:安達奈緒子
音楽:谷口尚久
制作統括:須崎岳(NHKエンタープライズ)、高橋練(NHK)
演出:西谷真一、村橋直樹(ともにNHKエンタープライズ)
制作:NHKエンタープライズ