朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第20週「1993-1994」
第93回〈3月14日(月)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉
※本文にネタバレを含みます
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錠一郎、トランペットを吹く
桃太郎(青木柚)が小夜子(新川優愛)に失恋したことに端を発するひなた(川栄李奈)との姉弟喧嘩を止めようと錠一郎(オダギリジョー)がトランペットを構える。が、音は調子っぱずれ。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜93回掲載中)
呆然とするひなたと桃太郎。
「ほんまのこと」であることは『妖術七変化』のポスター裏のサインが証明する。30年もの長い間、ポスターの裏に父の秘密が隠してあったことを知らず、なんの気なしにポスターを見続けてきたひなたと桃太郎。大月家の30年はこのポスターのようなものだったのだ。うしろに過去の栄光を隠しながら、一見のんきに、貧しいながらも楽しい家族像を作ってきた。
音楽への情熱など微塵も見せず、ほわんとした父親でい続けた錠一郎。「それでも人生は続いていく。そういうことや」と錠一郎の話には結論はない。
いったんトランペットを諦めてふたりの子どものいいお父ちゃんになろうとしたことはわかったが、何か代わりの仕事をはじめようとしたわけではないことに説得力があるともいえない。子どもたちそれぞれの失恋の痛手をきっかけにトランペットが吹けるようになったわけでもない。桃太郎が窃盗した事実がそこにあるだけだ。
ただ、30年前、絶望して死のうとした錠一郎をるいが止めなかったら、ひなたも桃太郎もこの世にいない。そう思っていま自分たちが生きていることを実感するふたり。だからこそ、桃太郎は「あかにし」に謝罪に行く気持ちになり、吉之丞(徳永ゆうき)に「結婚おめでとうございます」と言えるのだ。
吉右衛門(堀部圭亮)は最初は許さない気配を出している。だが、店に戻って来た吉之丞に言わないということは不問に付した意味なのだろう。まさに桃太郎は魔が差しただけであり、大事(おおごと)にしてこの純粋な少年の人生を棒に振らせたら悲しすぎる。吉右衛門がこらえてくれてよかった。物事の善し悪しは、行った人のこれまでやってきたことと未来とを踏まえたうえでジャッジする必要がある。そう感じさせるエピソードだった。
ところで、夢やぶれて一度は錠一郎とるいが別れた話を聞いたひなたは何を感じただろうか。
「トランペットが僕にさよならを言うてる」
大月家は意外と広く、物置がしっかりある。そこにトランペットはしまってあった。子どもたちのいないところで「あきらめたやなんて嘘やね」「私は信じてる」とるいは錠一郎の気持ちを慮(おもんぱか)る。30年も経ったにもかかわらず彼の哀しみは癒えていない。るいは滂沱(ぼうだ)の涙を流す。溜まった哀しみが溢れてしまったのだろう。京都に来た最初のころ、しょっちゅうトランペットを出していた錠一郎だったが、徐々に出す回数は減っていった。
そうやって忘れかけていたが、やっぱり忘れることができないことがある。閉ざした箱の蓋を開けるような出来事がるいの身にも起こる。クリスマスの日、るいの蓋を開ける人物が回転焼き屋に現れた――。
92回のトランペットに次いで、続きが気になる終わり方だった。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami