朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第20週「1993-1994」
第94回〈3月15日(火)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉
※本文にネタバレを含みます
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サンタ、踊る
ひなた(川栄李奈)が帰宅するサンタに扮した錠一郎(オダギリジョー)が店番していて、奥の居間には算太(濱田岳)がいた。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜94回掲載中)
10年前、「大月」の店の前まで来たにもかかわらず黙って去って、それっきり撮影所にも現れなくなった算太が大叔父だったと知ってひなたは驚く。
折しもクリスマス。
ひなたはわりとなんでも「なんでなんで?」と空気を読まずに突っ込んでいく性格として描かれている。この第94回でも算太が明らかに老いて弱っているのに「踊って踊って」と無邪気にせがみ、桃太郎(青木柚)にたしなめられている。それが算太の少年時代、パンでダンスをしてみせたことの再現につながるのだが。
ひなたの性格は妙に辛抱強いところとあけすけなところといまいちキャラに一貫性がない。終盤に近づくにつれてストーリーに一貫性をもたせようとするあまり登場人物に一貫性がなくなってきて苦戦していることを感じるが、それでも懸命にいい物語を紡ごうと作り手たちはまるで嵐のなかをいく船人たちのように見えてくる。深津絵里は算太に対する気まずいリアクションが実に見事である。
作り手の奮闘が透けて見えてくることは物語としてはいささか弱いということである。
失敗しても再起できる、許しの物語
その晩、泊まった算太は早朝、なつかしいあんこのおまじないを聞く。るいは毎朝、これを唱えながら小豆を炊き、あんこを作っていた。前の晩に食べた回転焼き、あんこのおまじない、一宿一飯の恩義で商店街の福引の手伝いをしたことによって、「あかにし」と吉右衛門(堀部圭亮)に気づく。記憶の断片が合わさって、岡山での記憶とがっちり結びついたとき、商店街は算太の花道と化す。幼い頃の安子が現れ、若返ったように踊りだす算太。そこはステージという名のひなたの道である。曲も「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」。皆の拍手を受けてフィニッシュを迎えた算太は太陽を仰ぐ。そのときの濱田岳の表情は苦味があっていい。
算太のダンスの感動には、さらなる感動が付いてくる。算太の踊りを見た錠一郎は思わずおもちゃのピアノを弾き出すのだ。算太の踊りが錠一郎を再生させたように感じる。
彼の前には福引で当てたおもちゃのトランペットを吹く少年がいる。まるで、あの進駐軍のクリスマスパーティーのとき、定一(世良公則)が歌ったのを聞いて錠一郎が酒瓶をトランペット代わりにして吹いたように。この少年もこれをきっかけにいつかプロのミュージシャンになるのかもしれない。こうして過去が繋がっていく。過去は美しく、今も未来も皆、美しい。
少年時代にラジオを窃盗、大人になって店の開店資金を持ち逃げし、なんとか生きてダンサーの夢を叶えた算太、CDプレーヤーを窃盗したものの野球部にレギュラー復活した大甥の桃太郎。
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami