ハイローが、ハイローが帰ってきましたよ! シリーズ最新作、『HiGH&LOW THE WORST』は、原点回帰的な作品であると同時に新世代の活躍も見せつつ、ハイローらしい雑多な味わいもちゃんとあるという、どうやってこんなことが可能になったのか、首をひねってしまうようなリブート的快作である。
新たな傑作「HiGH&LOW THE WORST」大いなるリブートだし「ケンカといい男」への原点回帰

最悪の不良高校をメインに据えたハイロー最新作『THE WORST』


改めて説明するまでもないとは思うが、『HiGH&LOW』シリーズとはEXILEなどを擁するLDHが手がける、圧倒的物量とテクニックでいい男たちの喧嘩やそれ以外を見せてくれる「バトルアクションシリーズ(公式表記)」である。バトルアクションシリーズ。
いい響きだと思う。

これまでに基本となるドラマシリーズが20話、正伝である映画が3本、番外編的な性格の映画が2本、さらにミニコントみたいなショートフィルムも多数存在しており、正直現時点では「面白いんだけど、どうやって未見の人に勧めていいのかよくわかんないな……」という物量になっている。で、そのラインナップの中に今回、『HiGH&LOW THE WORST』が加わったわけである。

タイトルの通り、本作は高橋ヒロシによる不良コミック『クローズ』『WORST』とのクロスオーバータイトルである。そもそもハイローは色合いが異なる5つの勢力が群雄割拠するSWORD地区(5つの勢力の頭文字からそう呼ばれている)でのバトルを描いたものなのだが、今回フィーチャーされたのは「O」の鬼邪高校(「おやこうこう」と読む)。全日制と定時制に分かれた不良高校で、卒業後の進路はほぼ全員カタギではない。定時制にいたっては、ヤクザからのスカウトを待つため高校なのに平均年齢が20代。在校生の不良からの100発の拳に耐え抜けば番長になれるという、誰でも成り上がれるという校風が売りの不良集団である。

ケンカに脚立に焼き鳥ビル、要素山盛りのスピンオフ


現在の鬼邪高の頭は定時制の村山良樹。しかし村山は定時と全日を完全分離し、学校外のトラブルに対しては定時が積極的に対処して全日を巻き込まない方針を貫いていた。一方全日は実力トップの轟洋介が全体を掌握できず、轟一派以外に二年と一年の実力者が合流した中・中一派、バーサーカーチンピラである泰志と清史が率いる泰・清一派、孤高の立場を貫いていた高城司がトップを張る司一派と、複数の派閥が割拠する戦国時代へと突入していた。

そんな鬼邪高校にある日、花岡楓士雄と名乗る転校生がやってくる。この花岡楓士雄、その治安の悪さで鬼邪高に生徒を供給しまくっている絶望団地(元は希望ヶ丘団地という名前だったが、治安が悪すぎてこう呼ばれるようになった)出身である。
小柄で天真爛漫ながら、抜群の腕っ節とケンカのセンスを持つ楓士雄の登場により、鬼邪高校全日制の内紛は新たな局面を迎える。

一方、鬼邪高が位置する鬼邪地区から、やや離れた位置に建つ鳳仙学園。内部分裂を起こしている鬼邪高とは裏腹に、鳳仙はトップの上田佐智雄以下鉄の規律を誇る一枚岩の組織だ。しかし、かつてSWORD地区に蔓延した麻薬「レッドラム」に端を発するトラブルから、鬼邪高と鳳仙は一触即発の事態に巻き込まれていく。

という感じで、あらすじだけでも結構な情報量になる『THE WORST』。鬼邪高メインのスピンオフ的位置付けの作品ながら、その中に盛り込まれているネタは猛烈に多い。今回初めて詳細が語られる絶望団地(なんぼなんでも絶望的すぎる外見が観客の度肝を抜く)や、ハイローのオタクなら「また!?」と叫んでしまうであろうレッドラムの再登場、さらに此の期に及んで登場する新たな勢力と要素盛りだくさん、一旦停止必至の情報量である。

しかも、「ケンカしてこそハイロー」と改めて主張してくるように、今回はバトル要素も山盛り。異常な手数で強者同士の死闘であることを表現する村山VS轟戦、集団対集団の大規模バトルが血圧を上げる鬼邪高VS鳳仙、さらに今回新登場となるオロチ兄弟(「誰?」ってなると思うけど、見たら納得できるから心配しないでほしい)の剛腕ぶりや、明らかに一線を超えて強いことを的確に表現される鳳仙学園の幹部たち、「轟がメガネなんだから鳳仙にもメガネの奴が必要だろ」という高橋ヒロシ先生の配慮に泣く鳳仙の小田島と轟のメガネバトルなどなど、ケンカだけでも腹一杯。若者たちがガンガン殴り合う姿は、眩しくて直視できないほどである。

更に言えば、どこまで本気でやってるのかわからない、ギャグなのかマジなのか不明なハイローらしい要素もしっかり爪痕を残す。短時間だけ登場するのに強烈な印象を残す塚本高史演じるパルコと「焼き鳥ビル」という概念、「小沢仁志」ネタへの執拗なこだわりとマジで登場する小沢仁志のハマり具合、あまりにも高橋ヒロシの漫画顔なサバカン(人名)、攻城兵器と化した脚立、「轟洋介は石などを投げるのが上手い」という新事実などなどなど。
ふざけてるのかマジなのか、どこまで脚本にあったネタなのか、虚実が融解してドロドロになった濃厚なスープのような面白さをたらふく味わえる。

リブートとして、覚悟と計算を持って作られた作品


ちょっとびっくりしたのが、本作が過去のハイローのストーリーの語り直しになっているところである。というのも、絶望団地まわりの話がドラマ版『THE STORY OF S.W.O.R.D』から『THE MOVIE』あたりまでの山王連合会に関するストーリーとほぼ同じなのだ。ガラが悪い地元で育った、悪さもするけど根はいい奴な不良たち。その中に一人だけ混じっている、大学に進学できるくらい頭のいいやつ。バイクに乗っためちゃくちゃ強い兄弟。どれもなんだか、どっかで聞いたような要素である。

おそらくこれは、この先ハイローをもう一度仕切り直し、新世代の物語に刷新しつつ新たなファンを取り込んでいこうというサインである。思えば、ハイローは『FINAL MISSION』でひとつ物語に区切りがついた。『FINARL MISSION』まで物語を引っ張ってきたSWORD地区と九龍グループとの抗争は一段落しており、そして『THE WORST』はその後の物語となる。次世代のキャラクターたちを登場させよう、ということになった時、卒業というシステムを抱えた「学校」である、鬼邪高校を舞台とした物語を描くのは半ば必然ではなかったか。

今までこの原稿を書いていて思ったが、ハイローとは何かを説明する上で、書くべきことはかなり多い。
もちろんそれらは面白い要素なのでこれから見る人にも漏らしてほしくないわけだが、しかし「全部見ろ」とはなかなか言いづらい。ユニバースもののコンテンツがどうしても構造的に抱えてしまう問題である。だからこそ、長く続いているコンテンツはリブートをかけて状況を刷新しようとするわけだ。

おそらく『THE WORST』は、ハイローが初めてシリーズにかけるリブートである。だからこそ「学校」が舞台に選ばれ、今までも語られてきたような「地元の不良たち」の物語が語り直され、「ケンカといい男」というシリーズの屋台骨となる要素がてんこ盛りにされている。もちろん、村山や轟、古屋や関ちゃんや辻や芝マンが今まで積み上げてきた鬼邪高の物語を知っていた上で『THE WORST』を見た方が面白いのは間違いない。しかし、『THE WORST』はハイローのリブートとして、覚悟と計算を持って作られている作品である。だからこそ、ハイローらしさを一本だけでしっかり楽しめる作りになっているのだと思う。

そういう作品であればこそ、敢えてここでおれは強く「『THE WORST』から見ても大丈夫ですよ!」と主張したい。本音では「面白いからシリーズ全部見たほうがいい」と言いたいのである。しかし多分、これ一本だけ見ても「なんかすっげえもん見たな……」という気分にはなれるし、もし気が向いたなら、ここから過去作を掘り返してもいい。今後ハイローがどうなっていくのか相変わらずさっぱりわからないけれど、少なくとも『THE WORST』は、「2019年における『THE MOVIE』」と言えるだけのパワーを備えた映画である。
「今これに乗らないのはもったいないですよ!」とだけは、どうしても言っておきたいのだ。
(しげる)

【作品データ】
「HiGH&LOW THE WORST」公式サイト
監督 久保茂昭
出演 川村壱馬 志尊淳 前田公輝 山田裕貴 吉野北人 鈴木貴之 一ノ瀬ワタル ほか
10月4日より全国ロードショー

STORY
村山の指示により、全日と定時が分断された鬼邪高校。その結果全日は群雄割拠の状況に。しかし校内での違法麻薬「レッドラム」の蔓延をきっかけに、鬼邪高の生徒たちは鳳仙学園との一触即発の抗争へと巻き込まれていく
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