「異言語脱出ゲームonTV」耳が聴こえない人と聴こえる人が協力して謎を解く様子をご報告
「井上マサキのテレビっ子からご報告があります」第14回。ライターでテレビっ子の井上マサキでございます。この連載は日々テレビを見ていて気になった細かいこと、今のアレってアレなんじゃないのと思ったことを、週報代わりにご報告できればと思っております。どうぞよろしくお願いします。

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紙もペンもない状態で、耳が聴こえない相手に「『カメ』の手話を教えてほしい」とお願いするには、どうしたらいいか?

10月9日放送のEテレ『ハートネットTV 異言語脱出ゲームonTV 前編』(見逃し配信:TVer)が面白かった。「リアル脱出ゲーム」に代表される体験型謎解きゲームなのだが、参加者は耳が聴こえない“ろう者”たちと、耳が聴こえる“聴者”たち。
手話と音声、お互いの「言語」を駆使して通じ合えないと、謎が解けないようになっているのだ。
「異言語脱出ゲームonTV」耳が聴こえない人と聴こえる人が協力して謎を解く様子をご報告
「異言語脱出ゲームonTV」六角形の館を上から見たところ。赤がろう者、青が聴者の部屋。赤と青を隔てる壁には窓がある。各部屋と黄色いゾーンを隔てる壁には20cmほどの穴が開いており、他の部屋をのぞくことも可能。

音が聴こえない相手に振り返ってもらうには


異言語脱出ゲームに挑む聴者4名は、奥野壮、森七菜、井上咲楽、高野洸といった10代20代の若手タレントたち。ろう者4名は大道芸人や会社員など属性はバラバラである

ろう者2名、聴者2名の計4人1チームとなり、「六角形の館」からの脱出を目指す。館の内部は扉や壁で仕切られており、1人ずつバラバラの部屋に閉じ込められた状態からスタート。脱出までの制限時間は60分だ。

手元には「招待状」がある。館の見取り図らしきものが描かれ、現在地に「YOU」とダイヤル錠の絵が、隣の部屋に動物が書いてある。部屋を見渡すと、ダイヤル錠でロックされたブラインドがあり、壁には3桁の数字が添えられた動物の絵。ははぁーん、隣の部屋にも動物が描いてあって、そこにダイヤル錠を開ける数字があるってことか、ってのはなんとなくわかる。

ということは、隣の部屋にコンタクトを取らないといけない。さらに部屋を見渡すと、壁に直径20cmほどの穴があいており、のぞいてみると他の3部屋に通じている。この穴にみんなが気がつけば、お互い招待状を見せ合って数字を教えあえる!

……なのだが、ひとりのろう者が穴に背を向け、全く気がつく様子がない。聴者たちが穴から呼びかけるが、もちろん音は聴こえない。
壁をトントン叩いても、穴から手を出してブンブン振ってもダメ。どうしたら振り返ってもらえる?

と、ここで、もうひとりのろう者がポケットからハンカチを取り出した。そのまま穴から手を出し、部屋のなかに投げ入れる。背を向けていたところにハンカチが飛んできて、やっと振り返ってくれた!

まだ最初の謎、しかも謎解きと別のところで、さっそく「音声以外のコミュニケーション」が試されている。耳が聴こえるメンバーたちは、ろう者と触れあうのはほぼはじめて。謎を解くだけでなく、それをどう相手に伝えるかまで考えないと、このゲームはクリアできない……!

謎解きがコミュニケーションを作る


ダイヤル錠を解除してブラインドを開けると、隣の部屋との間に窓がある。ここから、ろう者と聴者のペアで謎を解くことになる。

2番目の謎を解くには、聴者がろう者から「カメ」の手話を教えてもらう必要があるのだが、そもそも「カメ」が伝わらない。窓を挟んでいるので、なおさらもどかしい。口の形から「カメ」を読み取ったり、空中に指で「カメ」を書いたりして、なんとか通じ合うメンバーたち。

窓を挟んだ状態で3番目の謎に続く。ろう者はタブレットに流れる猿の映像を相手に伝え、聴者は部屋にあるパネルからそれに当てはまるものを探す。
パネルの絵を直接見せたり、ジェスチャーをしたり、徐々に声に頼らないやりとりに慣れてくる聴者たち。

謎が解けると2人を挟む壁が取り去れ、ようやくご対面。もう一方のペアが解けるのを待つ間、手話で自己紹介を教えたり、「手話の動きでうっかりメガネを飛ばしちゃうことがある」とジェスチャーで通じ合ったりしちゃう。いつの間にか「心の壁」まで取り去られている。

ちなみにここまで、部屋には紙やペンが存在しない。文字でのコミュニケーションは、手のひらや空中に指で書くだけ。聴者は頭をフル回転させ、自らの身体でコミュニケーションを探る。謎解きを通じて「音声以外の伝え方に気づくか」「音で出されたヒントがろう者に届いていないことを想像できるか」と、ろう者と聴者が段階を踏んで通じ合えるよう設計されているのだ。

耳が聴こえる身からすると、ゲーム内のコミュニケーションに「自分だったらどうするか」と考えてしまう。音声と視覚という「異言語」をコンバートするには、想像力が欠かせない。相手を思う力が必要だ。

謎を製作したのは「異言語脱出ゲーム」の企画・運営を手がけるIGENGO lab.のメンバー。
NHKとタッグを組み、半年以上かけて練り上げたそう。18日放送予定の「後編」では、さらに謎が解かれ4人全員が合流して脱出に挑むようだ。彼らが着るTシャツの背中にも、なにやら謎が書いてるし、この先いったいどうなるのか気になります……!

取り急ぎ報告したいことは以上です。

Eテレ『ハートネットTV 異言語脱出ゲームonTV 前編』(見逃し配信:TVer
(井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)
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