元男の子の動画クリエイター・青木歌音が伝えたいシンプルなメッセージ「自分らしく生きるのは罪じゃない」

男性として生を受け、性別を女性に変えて“元男の子の動画クリエイター”として活躍する青木歌音。プライベートを切り取ったようなバラエティ豊かな動画や、爆弾発言をいとわないトークが評判を呼び、チャンネル登録者数は25万人に達している。

トランスジェンダーの当事者としてのリアルな体験談も数多く投稿する彼女は、旧来的な価値観とダイバーシティ(多様性)がさまざまなレイヤーでせめぎ合う現代を生きながら、なにを思うのだろうか。強豪校でプレーした元高校球児という異色の経歴を持ち、歌手としても唯一無二の“私”を表現する彼女の足跡には、今を粘り強く生き抜くためのヒントが散りばめられていた。

取材・文/曹 宇鉉(HEW) 撮影/稲澤朝博 編集/日野綾(エキサイト)

野球に打ち込み、椿彩菜の自叙伝に導かれた“少年時代”



「幼稚園のころから、『周りの女の子がうらやましいな』という感覚がありました。しばらくはなんとなくやり過ごしていたんですけど、本格的に性別に違和を感じるようになったのは中学2年生のころですね」

“男の子”として過ごした期間のことを、穏やかな表情で懐かしそうに振り返る青木。デリケートな話にも関わらず、彼女は自分自身のルーツについて、ときに冗談を交えながらざっくばらんに話をしてくれた。

「中学生になると、みんな彼氏や彼女を作ったりするじゃないですか。でも男女の恋愛の話になるたびに、いつも私だけ上の空というか、周りとは違うということが浮き彫りになってきたんです。『この感覚は良くないものなのかも』と思って、中学2年生のときに女の子と付き合ってみたこともありました。でも3日しか続かなくて、そのときに『自分は女の子とは付き合えないんだな』と実感しましたね」
元男の子の動画クリエイター・青木歌音が伝えたいシンプルなメッセージ「自分らしく生きるのは罪じゃない」

厳格な父の教えに従い、全力で野球に打ち込んだ少年時代。「女性になりたい」という気持ちを抱えたまま、彼女は地元を離れて高知県の野球の強豪校に進学する。

「父親がとにかく厳しい人で、小学生のころから『お前はプロ野球選手になるんだ!』とスパルタで教育されていました。『野球が嫌い』と言ったら父に怒られると思っていて、『とにかく高校までは野球をやりきる。引退したら、女になっちゃおう!』と決めていたんです。期間限定で坊主頭、みたいな(笑)」

これ以上なく濃密な体育会系の空気の中で、青木は青春のすべてを野球に捧げた。ストレートの球速は142kmまで達し、スカウトからも声がかかるほどだったという。

「野球雑誌の『厳しい高校野球部ランキング』でも上位にランクインするような環境でしたから(笑)。ただ『やるからには一番になりたい』という性格だったので、自分なりに全力で注いでいました。もちろん『野球は嫌いだ』と思った時期もありましたけど、当時は父親に対する反発や、『早く女性になりたい』という感情がごちゃまぜになっていて……。今は純粋に、野球が好きですね。動画でも野球企画をやりますし、試合も見に行きますよ」

「性別の違和を抱えたまま、マッチョな世界で生きることは相当な苦労だったのでは?」……こちらが口にした安直な質問に対して、彼女はあっけらかんと「本当に、そこまでつらくはなかったんですよ」と答えた。
元男の子の動画クリエイター・青木歌音が伝えたいシンプルなメッセージ「自分らしく生きるのは罪じゃない」

「今こうして振り返ると、私は男としての人生も楽しんでいたんだと思います。よくいるスケベな男子みたいな感じで、仲の良い友達とバカなことをしていましたから(笑)。男でいる間は男としての人生を全うしようと考えていたので、性別のことで悩むことはそこまでありませんでした。早いうちから、将来的に女になることを決心していたからかもしれません」

心の支えになったのは、性別適合手術を受けて男性から女性へと戸籍を変更した年長のタレント、椿彩奈(当時の芸名は椿姫彩菜)の著書『わたし、男子校出身です。』だった。本の中で語られていた椿のエピソードは、最大級の共感と勇気、そして希望を青木に与えることになる。

「中学3年生のときに椿彩奈さんの自伝本が出版されて、話題になっていたので読んでみたんです。一節一節が心に染みわたるようで、『私と考えが一致しすぎ!』と感動しましたね。この本を通じて『男の人でも手術をすれば女性になれるんだ』という確信を得られからこそ、とにかく高校までは我慢しようと思えたんでしょうね。椿さんの存在は、私にとってずっと心の拠りどころでした」

LGBTだからといって、同じ考え方である必要はない


青木いわく、“ちょっとエッチな発言をする野球部の坊主男子”として過ごした高校時代。「性別適合手術を受けて女性になる」という決意は、家族や友人の誰にも伝えていなかったという。しかし野球に区切りをつけて女性になるための一歩を踏み出した矢先、思わぬ形でその思いは周囲に知られることになる。
元男の子の動画クリエイター・青木歌音が伝えたいシンプルなメッセージ「自分らしく生きるのは罪じゃない」

「病院で処方してもらった女性ホルモン剤のレシートがたまたま見つかってしまい、状況を説明してカミングアウトする流れになりました。父親からすればプロ野球選手にさせるつもりだった息子なわけですし、顔が腫れ上がるくらいボコボコに殴られましたね。同時に、生まれて初めて父親の涙を見ました」

話を聞いているこちらの胸が痛むような、ショッキングな経験。それでも彼女は「顔を殴られて痛かったけど、気持ちは揺らぎませんでした」と当時を振り返る。ひたむきなまでの前向きさやメンタルの強さの源泉は、意外にも父に叩き込まれた“野球”だった。

「心が折れなかったのは、完全に野球のおかげだと思います。高校はもちろん、中学生のころの硬式野球チームの練習も本当にキツくて。でもそうやって忍耐力を鍛えられたおかげで、『女性になりたい』という意志を貫けたんだと今になって思うんです。極端な話、もし野球をやっていなかったら、自殺していてもおかしくなかったかもしれません」

周囲の反応はポジティブなものばかりではなかったものの、青木は挫けることなく性別適合のための女性ホルモンの投与や手術を重ねていく。そんな彼女は、どういったきっかけで自身のパーソナルな経験を動画クリエイターとして発信することになったのだろうか。

「歌手志望としてライブハウスの対バンに出たときに、チケットノルマがあるのに1枚もさばけなかったんですよ(笑)。とにかく知名度を上げたくて、女性らしい見た目になったタイミングでYouTubeを始めました。最初は性別についての話はしていなかったんですけど、だんだんとトランスジェンダーや性同一性障害について誤解に基づく差別が多いということがわかってきて……。それからは私なりに、リアルな経験談を発信するようになりました」

幅広いジャンルの動画を世に送り出してきた青木だが、すべてに共通している特徴はその明るさと親しみやすさだろう。グルメ系や野球関係の企画はもちろんのこと、性にまつわるデリケートな話題も、決してシリアスになりすぎず、かといって軽薄すぎもしない絶妙なトーンで語られている。動画のサムネイルにおどる赤裸々な惹句の裏側にあるのは、彼女自身の強い意志と“多様性”を大切にする価値観だ。

「性別適合手術を受けた当事者の人にしてみれば、私が動画で話すようなことを掘り返されるのがイヤだと感じるかもしれません。それ以外の部分でも、内容やキャラクター的に好かれるか、嫌われるかの両極端になることは理解しています。ただ、みんなが同じ考え方である必要もないと思っているんですよ。よく“LGBT”と一緒くたにして語られますけど、言うまでもなくひとりひとりがまったく違う人間ですから。
元男の子の動画クリエイター・青木歌音が伝えたいシンプルなメッセージ「自分らしく生きるのは罪じゃない」

最近はありがたいことに多くの人に見てもらえるようになってきたので、これまで以上に発言には気をつけたいです。できることなら、誰も傷つけないようにしたい。同時に個性はつぶしたくないと思っているので、事務所や周りの人に自分の至らないところを指摘してもらっています。私が叩かれるぶんには、『仕方ないな』と割り切れるんですけどね」

彼女自身が椿彩菜を指針にしたように、ひとりの“元男の子”として「似た境遇にある人の通過点になれれば」と願う青木。力みすぎず、同時に脱力しすぎず、等身大の自分らしさを見せることにこだわって動画制作を続けている。

「私がやりたいことをストレートにやることで、動画を見る人に『こんな選択肢もあるんだ』と思ってもらえればいいかな、と。悩んでいる人を救いたいとか、そこまで大げさな話ではなくて、『こういう生き方もあるよ』と示すことができればいいと思っています」

念願の歌手デビューと、歌詞に込めた思い


決して自分の思い通りにはいかない世界で、さまざまな願いを形にしてきた青木の大きな夢のひとつが、歌手になることだった。2019年3月には、“青木歌音 with Reflexion”名義で自身が作詞を手がけた楽曲『かさぶたのワタシ』をリリース。かつてライブハウスに1人の客さえ呼ぶことができなかった彼女にとって、これ以上なく大きな一歩だったに違いない。

「20代後半で歌手としてデビューすることについて、もちろん不安もありました。スカパー!で女子アナウンサーをやっていたときも、よく『25歳を超えたら賞味期限切れ』と言われていましたから。でも、応援してくれる人がいるのなら、どれだけ時間がかかっても自分のやりたいことはやり抜くべきじゃないですか。ファンの方が支えてくれれば、いくつになっても前に進んでいけると思います」

「特別じゃない普通の事」「私が私であるままに」「せめて私でいさせて欲しい」……。『かさぶたのワタシ』の歌詞には、立場や境遇を問わず、かつての彼女自身のように自己肯定感を得られずに悩んでいる人への思いが込められている。

「私が伝えたいのは、シンプルに『自分らしく生きるのは罪じゃない』ということなんです。もちろんLGBTの当事者に関して言えば、『差別やハラスメントがあって怖い』という気持ちがあるのはすごくわかります。ただ私自身はLGBTという盾に守られて縮こまるのではなく、自分で自分をカテゴライズせずに、ひとりの人間としてより開けた場所で活動したい。そうしたスタンスでいることが、結果的に進歩や発展につながる気がするんです」

野球部で培った経験から、「努力を継続していれば、時間はかかっても必ず結果にたどり着く」という強い信念を持つ青木。そんな彼女に、今後の野望を語ってもらった。

「『自分の歌を出す』というひとつの目標は叶ったので、今はチャンネル登録者数30万人と、ファンイベントの開催を目指しています。実現できるかどうかはわかりませんけど、閉館する前に赤坂BLITZを満席にしたいんです! チケット1枚もさばけなかった私が1400人も集客できるようなったら、なかなかのドラマじゃないですか(笑)。そのためにはさらに自分を磨いて、コンテンツの質も高めて、もっと女性層にリーチしていくこと。同性にきちんと支持されることが、動画クリエイターとしての実力の証明だと思っているので」
元男の子の動画クリエイター・青木歌音が伝えたいシンプルなメッセージ「自分らしく生きるのは罪じゃない」

自慢のストレートをキャッチャーミットに投げ込むように力強く目標を明かした青木は、「YouTubeは最強の鎧で、個人が持てる最高のメディアだと思います」ときっぱりと断言した。動画クリエイターとしての活動を通じて多くの気づきや喜びを得た彼女が最後に口にしたのは、高校球児の去り際を思わせるさわやかな感謝のメッセージだった。

「視聴者の方には心から『みなさんの大事な時間を私に使っていただいて、ありがとうございます』と伝えたいです。チャンネルを開設したころから応援してくれているファンの方もたくさんいて、いつも本当に心の支えになっています。私はだれかになにかをしてあげられるほど器用ではないんですけど、ドタバタと世の中に振り回されている感じが見ていて面白いのかもな、とは思っていて(笑)。私の成功も失敗もすべてひっくるめて、『こういう生き方もあるんだな。自分はまだ大丈夫かもな』と感じていただけたら嬉しいです」
元男の子の動画クリエイター・青木歌音が伝えたいシンプルなメッセージ「自分らしく生きるのは罪じゃない」


プレゼント応募要項


エキサイトニュース×UUUMのインタビュー連載を記念して、青木歌音さん直筆サイン入りポラを抽選で3名様にプレゼントいたします。

応募方法は下記の通り。
(1)エキサイトニュース(@ExciteJapan)の公式ツイッターをフォロー
(2)下記ツイートをリツイート
応募受付期間:2019年11月29日(金)~12月13日(金)18:00まで

<注意事項>
※非公開(鍵付き)アカウントに関しては対象外となりますので予めご了承ください。
※当選者様へは、エキサイトニュースアカウント(@ExciteJapan)からダイレクトメッセージをお送りいたします。その際、専用フォームから送付先に関する情報をご入力いただきます。
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(エキサイトニュース編集部)

Profile
青木歌音

男の子として生を受け、女性として生きる元男の子系動画クリエイター。
テレビ番組で元男の子として初の女子アナウンサーに抜擢され、現在は動画クリエイターとして活躍中。ぶっちゃけた性別トークやもぐもぐ食べるシリーズが大人気。新たな挑戦として月1で韓国ロケを敢行したり音楽をリリースしたりと活動の幅を広げている。

関連サイト
@memory_kanonYouTube公式チャンネル