
■草なぎ剛『草なぎ剛のはっぴょう会』
2019.11.28(THU)at 昭和女子大学人見記念講堂
7年前にギターを弾きはじめたという草なぎ剛が、自身初となるワンマンライブ『草なぎ剛のはっぴょう会』を2日間にわたって開催。初日は和田唱と奥田民生、2日目は田島貴男と斉藤和義をスペシャルゲストに迎えて行われたそのライブより、2日目の模様をレポートする。
緞帳が下りたステージ前方中央にアコースティックギターがひっそりと置かれ、主役の登場を待っていた。ステージ袖からスタジャンとデニム姿の草なぎが実にさりげなく歩み出てくると、会場に詰め掛けた観客から温かな歓声と拍手が贈られた。
ギターを抱え、「起立、礼、直れ」のコードを鳴らしながらお辞儀をし、「はっぴょう会、開幕です」と宣言。礼儀正しい草なぎらしい始まりだ。
「はっぴょうかいのテーマ」からライブはスタート。今回の“はっぴょう会”の出発点は、ギターコードを4つしか知らない自分が、曲を作り、コンサートを開けるかどうかの挑戦でもあったと聞く。実際に、このテーマ曲は4つのコードで構成されているという。
飾り気のない歌声が響き渡ったその瞬間、緞帳が落ち、ステージは一気にアメリカンなムードに早変わり。のちに草なぎ自らも語っていたが、セットで使ったものはほとんど私物だったという。数百万円もするヴィンテージのデニムやジャケット、さらには大型バイクのハーレーダビッドソンが何台も並ぶさまは壮観。自ら搬入し、ステージに乗り切らなかったものもあったというから驚く。自宅に居るような温かさと親密さでファンをもてなしたいという、草なぎの真心が伝わってくるではないか。

「すべてはこの曲から始まりました」と紹介した「いま・新しい地図」で、力強いストロークでアコースティックギターをパワフルに鳴らしたかと思えば、「僕のギターで」では熱いギター愛を歌に乗せた。この日、草なぎが弾いていたギターの1つはギブソン社製のJ45、1953年のヴィンテージだとか。「ギターからしてみたら、後から出てくださるゲストじゃなくて、なんで俺に……って思ってるだろうな(笑)。でも、ギターが大好きなんです」と、ピュアな思いを口にしていた。
ここでちょっとしたハプニングが。セットリストを1つ飛び越してしまったようだ。だがそこは、百戦錬磨の“新人シンガーソングライター”。瞬く間に、持ち前の機転とトーク力で、観客を笑顔にしてしまった。怒りを歌というエネルギーに替えたという粗削りなロックナンバー「カメレオン」に続き、「ギターで初めて弾き語りした思い出の曲」と井上陽水「夢の中へ」を軽快にカバーした。草なぎがギターをはじめたきっかけは、共演が多かった俳優の大杉連の影響が大きいという。在りし日の連氏と、一緒にこの歌を弾き語ったのだろうか。
ノスタルジックなナンバーに続いては、渋谷の街を通り過ぎたときに感じたことを歌にしたというメロウな「渋谷バラッド」。続いては、「とにかく楽しいって曲です」と紹介した「twist shake」をノリノリで歌い弾いた。「I Love Pure」は、前日にweb上で公開されたばかりの新曲。コール&レスポンスを期待していたそうだが、初日はうまくいかなかったと苦笑い。この日は、念願のコール&レスポンスができて満足そうな笑みを浮かべた。
後半はスペシャルゲストが登壇。「今日、すごいですよ。ヤバいですよ」と興奮気味の草なぎ。まずは田島貴男を招き入れると、2人はがっちりと肩を抱き合った。溢れる感謝と嬉しさの証なのだろう、「どうしてこの仕事を受けてくれたんですか?」「ギターを弾き始めてから、ギターを弾く田島さんの『接吻』が半端なくて。週2回はYouTubeを観てます」「リハーサルでの“リズムは一生かけて掴むもの”という言葉がすごく響きました」など、やや一方通行のトークが止まらないという一幕も(笑)。

田島がテクニカルなギタープレイとパッション溢れる歌を披露する間、草なぎはステージ後方に陣取り、じっくり名演奏と歌にと聴き入っていた。ともにセッションする前になっても、「足元にはタンバリンとドラムがあって、それを踏んで鳴らしながらギターも弾いて、歌も歌ってる。どうなってるんですか?」と、興奮冷めやらぬ様子。照れ笑いしながらも、「そうやって説明してくれると嬉しい」と田島も満足げだった。2人で披露した「月の裏で会いましょう」は、草なぎにとっては途中で転調するやや難易度の高い楽曲だったかもしれない。だが懸命に食らいつき、歌い切った後は拍手喝さいを浴びていた。

最後のスペシャルゲストは、草なぎにとって超が付くほど特別な存在、斉藤和義だ。初めて弾き語りを生で見たのが斉藤のライブだったという。香取慎吾とともに放送しているラジオ『ShinTsuyo POWER SPLASH』でも、頻繁に斉藤の曲をかけていると告白すると、会場の観客や斉藤自身からも笑いが起きたほど。
しばし斉藤のギブソンJ-160シグネチャーモデルの話に花を咲かせたあと、それをまねて黒いアコギを買ったと嬉しそうに話す草なぎ。前日のゲスト2人にサインを描いてもらったと誇らしそうに見せると、気心知れたミュージシャン同志である斉藤からは「(せっかくのギターが)台無しじゃないか」と突っ込みが入り、爆笑が沸き起こった。
肩ひじ張らないトークとは裏腹に、いったん弾き語りに入るとぐっと世界を創り上げる斉藤。リヴァーヴを利かせたイントロから大ヒット曲「やさしくなりたい」へと入ったときには、誰もがその歌に聴き入っていた。「月光」「歌うたいのバラッド」など、しみじみと染み入るようなナンバーで観客を酔わせた。
聞き惚れていた草なぎは、「最高です! 一番良い席で聴かせてもらいました。自分の部屋にいるのかなと思いました(笑)」と、感激しきり。2人でセッションした「ウサギとカメ」については、「和義さんの歌詞は不意打ちされたみたいに、深く入ってくるんです」と語った草なぎ。歌い終え、「こんな贅沢な場所でギターを弾けるなんて、僕は日本で一番の環境でギターを弾けています。ギターも続けていればいつか板につく。これからも続けていきたいです」と、溢れる思いを口にした。

本編の締めもまた「はっぴょうかいのテーマ」だったが、“Fが弾けた”と歌詞を変えて嬉しそうに歌う姿は、まるでギターを弾き始めたばかりのギター少年のように輝いていた。
アンコールの声に応え、今度は斉藤と田島と一緒にステージへ。右に田島、左に斉藤が立っていたのだが、「この2人に挟まれている状況、最高です!」と満面の笑みを浮かべた。3人が横一列に並んでギターをかき鳴らしながら歌ったのは、斉藤の名曲「歩いて帰ろう」。3人のギターと歌声が重なり合い、会場を温かく包んだ。
最後の最後に歌ったのは、愛犬に捧げた「クルミちゃんの唄」。間奏には口笛も披露した。それはやや少しかすれていたが、かえっていい味になっていたようだ。
ライブ後に行われた囲み取材で、「今までも音楽を届けていましたが、新しい感覚、新しい音楽に触れたと感じました」と振り返った草なぎ。これからも歌を作り、届けたいと真摯な思いを口にしていたのが印象的だった。飾り気のないまっすぐな言葉と、音楽、ギターへの愛がある限り、この先もきっと草なぎ剛は新たな感動を届けてくれることだろう。
(取材・文/橘川有子、撮影/新保勇樹)
※「なぎ」の字は弓へんに「剪」
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セットリスト
■草なぎ剛
1. はっぴょうかいのテーマ
2. いま・新しい地図
3. 僕のギターで
4. カメレオン
5. 夢の中へ(井上陽水カバー)
6. 渋谷バラッド
7. twist shake
8. I Love Pure
■田島貴男
1. フィエスタ
2. 接吻
3. 朝日のあたる道
4. フリーライド
5. 月の裏で会いましょう(ORIGINAL LOVE)with 草なぎ剛
■斉藤和義
1. いつもの風景
2. 月光
3. 歌うたい
4. ウサギとカメ with 草なぎ剛
■草なぎ剛
1. はっぴょうかいのテーマ
<ENCORE>
1. 歩いて帰ろう(斉藤和義/田島貴男/草なぎ剛)
2. クルミちゃんの唄
関連サイト
■ユーチューバー 草なぎチャンネル
■新しい地図 オフィシャルサイト