撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
2019年12月28日(土)、L'Arc~en~CielやMUCC、シドらが所属するMAVERICK DC GROUP の年末恒例イベントが、国立代々木競技場第一体育館にて開催された。毎年趣向を変えて行われる本イベントだが、今回はMUCCの逹瑯(Vo)がオーガナイザーを務め『Trigger In The Box』と銘打って実施。
約1年前から逹瑯が熱心に交渉して出演が叶ったバンドに加え、ゆうや(シド)のお笑いユニットおかゆも初参加。出演アーティスト総出でのスペシャルセッションを含め、バラエティーに富んだ豪華大忘年会となった。
13時00分に開場すると、「Ken-Ambient before the Trigger-」と名付けられたギターインストゥルメンタル・セッションがスタート。観客入場時のBGMとして、Ken(G/L'Arc~en~Ciel)と、Kenの誘いで急遽参加が決定した圭(G/BAROQUE)がギター即興演奏を披露するという贅沢な試みである。最小限の照明だけが灯された仄暗いステージの、向かって右にKen、左に圭が立ち、どちらかがリズムを刻むこともなく自由にプレイ。深いリヴァーヴの施された2人のギターは、互いに音で対話するように、立ち込める霧のようなアンビエントなサウンドを響かせていく。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
しゃがみ込んでエフェクターボードを鍵盤楽器のように操作したり、互いに近付いてギターのつまみに触れたり、といったまるでピアノ連弾のような印象のコラボレーションで、切れ目のない長い一続きのアンビエント・セッションは、2人で一枚の風景画を音で描いていく共同作業といった趣き。時にはノイジーな音色も鳴らしたり、エモーショナルな昂りを宿したりしながら、実験を楽しむような空気感の中からメロディーが生成されていく。そんな過程を目の当たりできる、貴重な光景だった。セッションを終え、Kenと圭は固く握手。残響音を留めたままステージを去った。約50分間のセッションは、このイベント全体の“プレリュード”のようだった。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
ライヴアクトのトップバッターを務めるのは、本イベントの首謀者MUCC。定刻の14時を迎えると、ジングルと共に左右の大スクリーンにアーティスト写真が映し出され、大歓声が沸き起こった。暗闇の中、サポートメンバーの吉田トオル(Key)のピアノの音色が聞こえ始め、手拍子が起きる。メンバーは一人一人姿を現し、胸の前に手を当てるなど恭しく挨拶。最後、逹瑯が踊るような身のこなしで登場、大きく両手を広げて挨拶するとピアノが鳴り止み、ミヤ(G)が空気を切り裂くようなギターリフをプレイ。特効が弾け、ダークなロックオペラ調ナンバー「サイコ」を放った。メンバーのコーラスに合わせオーディエンスも拳を突き上げてシャウト。逹瑯はスクリームし、メロディアスなパートは艶っぽく歌唱。序盤から会場の熱気もすさまじく、それを受けてか、演奏にも攻め立てていくようなパワーが宿っていた。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
ダンサブルな「G.G」は、ファンと声を合わせるパートで一体感が更に高まる一方で、挑発的なヴォーカリゼイションを聴かせる逹瑯。重厚なリフに、ピアノの流麗なフレーズが絡まることで生まれる狂気。間髪入れず「トリガー」のギターリフが鳴ると、腹に響いてくるSATOち(Dr)のキック音。
ダークゴシックと歌謡曲とが融合したようなメロディーを、ラウドなアンサンブルが下支えする。
「ヴァンパイア」は、廃墟のような古城で繰り広げられる幽霊たちの舞踏会映像も幻想的で、MUCCの暗黒世界の奥深くへと引き込まれていった。「自己嫌悪」ではグッと現実に引き寄せ、フォークソングを思わせる直情的な歌詞と叫びそのもののようなメロディーを響かせた。ブルー系の涼し気なライティングの下披露されたミディアム・ナンバー「COBALT」ではまた空気を入れ替え、逹瑯は中低音の効いた優しい声色で歌唱。長音も美しく歌の表情が豊か。かつ演奏の呼吸がピッタリと合っているのも心地良い。ギターソロでは時折ミヤが髪を振り乱し感情をむき出しにしていた。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
「ハイデ」がスタートすると、ブルー系の光に加え、左右のスクリーンには緑や空、海など自然のモチーフが映し出される。童謡のようなノスタルジーと重厚なバンドサウンド、清らかなコーラスとファンの声による合唱は、広大な風景を心に浮かび上がらせた。
ここからはラストスパートがかかり、8月に配信リリースされたシングル「My WORLD」は激しくパンキッシュに。YUKKE(B)とミヤは動き回って立ち位置を入れ替わったり背中合わせになってプレイしたり、とダイナミックにパフォーマンス。ファンも拳を突き上げて燃えていた。
一聴きすればたちまちパワーを与えてくれるようなメッセージを宿す明るく力強いサビへ突入し、最後は怒涛のシャウトへ。すると瞬時に「蘭鋳」のリフへとミヤは繋げ、逹瑯は「Are you fucking ready?」と呼び掛け。MUCCのライヴには欠かせないこのラウドナンバーに、髪を振り乱し熱狂するオーディエンス。逹瑯は地獄の底から上げる唸りのような声とメロディアスなパートとを巧みに歌い分け、そのカリスマ性で、観客に座るよう指令。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
「MUUCです。今日はめちゃめちゃかっこいいバンドが続くんで、最後までよろしく!」と短い挨拶も盛り込みながら、3、2、1の号令で一斉にジャンプさせると、会場に風が起きるようなヘッドバンギングの嵐が起きた。地鳴りのような逹瑯の咆哮を耳に残し、大きな拍手と歓声を沸き起こしてMUCCはアクトを終えた。
イベントと同時進行で、NoGoDの団長(Vo)の進行による特別プログラムを生配信。転換中には会場のスクリーンにもその様子が映し出され、アーティストをゲストに迎えたトークを楽しむことができた。MUCCはライヴ終了のほんの2分後にゲスト出演、「ホントに直後なんだね、これね」と驚きを隠せない様子のYUKKE。オーガナイザーとしての想いを尋ねられた逹瑯は、「準備は楽しかったよ」と語りながら、味ぽんを注いで団長に渡すといういたずらも。待ち時間を楽しく過ごせるような工夫はもう一つ仕掛けられており、「マジで(事務所の)ヒストリーV(TR)がいいんだって!」と逹瑯は力説、後半への期待を煽った。
続いて登場したのはDEZERT。気合いが漲る爆音を轟かせ、「バケモノ」でスタート。音圧が凄まじく、マイクスタンドを斜めに持った千秋(Vo)は片足を台に乗せた勇ましい姿勢で、「ヘイ、調子はどうだい?」と曲間で観客に呼び掛け。キャッチーなメロディーと妖しく歪んだMiyako(G)のフレーズの組み合わせがユニークで心を掴む。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
「生きてる奴、手上げろ! 初めまして、DEZERTです。今日は僕たち、音楽しに来てません。ロックなんて、パンクなんてしようと思ってません。あんたらと恋をしようと思ってますから」(千秋)と語り掛けると、「ピクトグラムさん。」へと雪崩れ込む。真っ直ぐな歌、激しく打ち鳴らされるSORA(Dr)のドラム、パンキッシュなサビ……過剰なまでの音の洪水に溺れそうになりながら、疾走感に気圧された。
「あんたらの今日を、少し分けてくれ!」「ヘイ、東京! この景色を観るとさ……相変わらず世界はクソだけど、あんたたちは一度だってクソだった時はなかった。僕たちも信じた道を歩く。音楽の道に助けられて一緒に探しましょう」などと曲間で語り掛けていく、千秋の言葉の一つ一つが不思議なほど誠実に響く。
「サンキュー! ……短けぇよ、逹瑯!」(千秋)と出番が20分だけであることをぼやきつつ、音楽に込める真摯な覚悟は明言。「“アイツら丸くなったな”とかよく言われるけど、実は全然変わってないということを証明したい」と意気込み、「ステージに立ってるのは、あんたらの恐れや不安や、あんたらの持つ人の闇、それをちょっとでも軽減させてやることだと思ってます。綺麗ごとって言われてもいい。“今日は俺にとって最高。生きてて良かったな”と思いたい」と熱く語り、「TODAY」へと繋げた。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
クリアなギターアルペジオに乗せて静かに歌い出したが、演奏は「溢れる想いを留めておけない」とでも言うような怒涛の展開に。歌詞の言葉が真っ直ぐに届いてくるのは、千秋の歌だけでなく、寄り添うSORA、Sacchan、Miyakoの演奏にも熱がこもっているからだ。「先人たちがつくってくれたこの歴史、これからは俺たちが背負っていきます」(千秋)と決意表明すると、ラストは赤い照明が激しく明滅する中「殺意」を披露。毒をぶちまけるような言葉と音の塊を投げつけて、「サンキュー」と短く告げてスッと去っていった千秋。20分と短いながら、強力な風のような印象を残すステージだった。
黒スーツで登場した二人組おかゆは、シドのゆうやと、お笑いトリオ・かたつむりニュー岡部によるお笑いユニット。転換中にステージで漫才を披露した。
「僕、転校生やったことない」とゆうやが言えば、「今がそれに近い」と、緊張感とアウェイ感をニュー岡部が表現。「俺がいつ転校生になるか分からないから、練習しておきたい」と語るゆうやが生徒役、ニュー岡部が先生役を務めて漫才がスタートした。
「名前を最後に言って印象付ける」との転校生テクニックを活用し、「僕の趣味はガンダムです」と自己紹介を始めたはずが、名乗る段階になって「中野正敏です。あ! 凛として時雨のピエール中野だった」など、別人を紹介していた、というオチで笑わせた。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
「ミニ四駆好き」が誰かと思えば「逹瑯です」(ゆうや)。「僕の趣味はYouTubeです。自分でチャンネルを持って配信してます。ラーメンも好きで、地元のラーメンが濃くて好きです。梅干しも好きです。和歌山県の紀州南高梅をよろしくお願いします」(ゆうや)、「名前言うの忘れてるぞ?」(ニュー岡部)「HYDEです」(ゆうや)というくだりには大きな歓声と笑いが。HYDEとゆうやの趣味がほとんど一緒、という発見もありつつ、HYDEに謝りに行くためステージを去ろうする場面でネタは終了。「もういいよ! どうもありがとうございます」という漫才の定型のエンディングも踏襲、思わぬ才能を見せたゆうやだった。
そのまま団長の配信番組にもおかゆは出演。出番を振り返ってトークを繰り広げた後、ステージではOLDCODEXが出番を迎えた。サウンドチェック中にもメンバーコールが響く熱心なオーディエンス。ステージではYORKE.(Painter)がボードに「OLDCODEX」と赤くペイント、「Parasite」が始まるとTa_2(Vo)がスクリームした。
赤、青のライトが点滅を繰り返し、疾駆していくラウド・ミクスチャーサウンド。Ta_2はリズムに乗せて身体を前後に揺らしながら力強く歌唱する。凄まじい勢いの音楽だが、挨拶では打って変わって礼儀正しく、Ta_2は「どうも初めましてOLDCODEXです! 初の舞台なので、まずは自己紹介。我々はアートとロックを掛け合わせて、この舞台に立たせていただいています」と謙虚。「一期一会なので」と語り、もし曲を知らなくても動いてもらえたら、と呼び掛けた。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
「Take On Fever」はエモーショナルなラウドロックで、音楽で描き出す感情をペインティングアートで表現していくYORKE.。「声上げてくれ!」と呼び掛け、間奏部分では咆哮するようにスクリームするTa_2。「reel」はサビでムードが一変してポップになる心躍る曲で、ファンは手をウェーヴさせノッている。YORKE.も途中で加わり、2人で呼応するように歌うパートも。「Heading to Over」も同様にダークに始まりサビは明るく、YORKE.もところどころ合の手を入れるようにシャウト、Ta_2は絶唱。ギターソロ間にはYORKE.が絵を描き足し、黄色く色を塗っていく。メロウなロックバラード「Sight Over The Battle」は哀切を帯びたサビが印象深く、胸元に手を当てて切々と歌うTa_2の姿に胸打たれた。
しゃがみこんで熱唱する箇所では、YORKE.が、描いた絵を赤いペンキで上から一気に塗りつぶしていく様に絶句。OLDCODEXならではのダイナミックな見せ場に目を奪われた。「最後までアートとロックで楽しんでいってください」(Ta_2)と挨拶して始まったのは「Follow the Graph」。塗りつぶした赤色の上に曲名を白字でスプレーし、更に絵を重ねていく。YORKE.が描き上げた翼のような絵と、Ta_2の渾身の歌声とが合わさった、言葉にならない感情の塊を表現。ユニークで刺激的なステージだった。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
団長の配信番組には、DEZERTのSORA、Miyakoが登場。「20分でやれることはやった」とステージを振り返ったSORAは「瞬きしているうちに終わった」と述べ、「来年も元気に活動します!」と宣言。ステージへ行ってみたい、と姿を消した団長に進行を押し付けられたメンバーが困惑していると、「団長、早く帰って来いよ、コラ!」とSacchanが飛び入り。和やかなムードも湛えながらイベントは進展していった。
ピアノSEが流れ、次に登場したのはシド。色が切り替わりながら旋回する洗練された照明の中メンバーが順に登場。最後にマオ(Vo)が姿を現しセンターに到着、耳に手を当ててマオコールを求めた後、最新アルバムの表題曲「承認欲求」をスタート。落ち着いたトーンで、ファルセットも織り交ぜながら優しく語り掛けるように歌い届けていくマオ。決め所はしっかりと合わせつつ、個々人の呼吸で奏でられる心地よい大人のグルーヴ感に浸っていると、マオは大きく広げた両手で拍手を受け止めるようにして、「V.I.P」へ突入。疾走感のある楽曲に乗せ、オーディエンスは拳を突き上げた。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
「シドです! 皆、イベント楽しんでる?」(マオ)と問い掛けて、「アニメ『七つの大罪』、オープニングテーマが決定しています、新曲です。「delete」」とタイトルコール。オルタネイト・ピッキングで繰り出される力強い明希(B)のベースラインが牽引するこの曲は、ダークに疾駆した末に視界が開けるような、ダイナミックなサビを持つ名曲。終盤にはゆうや(Dr)のドラムも昂りを見せていく。
シャウトを繰り返した後「Dear Tokyo」とコールして、心が湧き立つようなシンプルなロックンロールを鳴り響かせると、ファンはジャンプしたり拳を振り上げたりと、全身で喜びを表していく。レゲエ調のリズムに切り替わる部分ではファンの歌声を求め、「もっと大きい声ちょうだい。Shinji大好きだよ」とマオが呟くと会場は割れんばかりの大歓声。「Tokyo! まだまだ行けんのか?」と繰り返し煽った後、「次はお前らのいやらしい声、聴かせてちょうだい。「眩暈」」とコールすると悲鳴のような歓喜の声が響き、ファイアボールが絶え間なく噴出。メンバーは緻密にプレイしつつ雄々しくコーラス。重いビート感の妖艶な曲を、やや苦しげに声を掠れさせながら、それをも魅力に変え、力のこもった歌声でマオは歌い届けていた。ラスト、シャウトのタイミングと合わせ、横一列に並んで炎が噴き出した瞬間は、会場の後方まで熱風を感じさせるほどだった。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
「イベントだとすぐ終わっちゃうから、寂しいね。明日、大宮でライヴやってるから。ここからたぶん歩いて7時間、8時間ぐらいで来られると思うんで、もしよかった観に来てくれ」とツアー振替公演に言及し、最後に届けたのは「涙雨」。ドラムとベースの三連のリズムと、和の情緒を湛えたギターリフ。ピアノの音色にマオの歌声が映えるゆったりとした切ない曲である。水を思わせる青い光に照らされながら詩的な歌詞を情感豊かに歌い届け、マオのバラードシンガーとしての才を改めて実感させた。最後はピアノの音色だけを残し、静寂の中「どうもありがとう」(マオ)とだけ告げステージを後にした。自身のツアー渦中だからこその勢いと熱を感じさせるライヴだった。
直後、団長の配信番組にシドも登場。「先輩ばっかりなんでシャキッとします」(ゆうや)などとトークし、やがて逹瑯も合流。事務所主催イベントならではの賑やかなムードに和みつつも、ステージで次に控えるのは凛として時雨のアクトである。ノイズが遠くから響いてくるような不穏なSE。楽器の置かれているゾーンだけが白く照らされた暗闇の中、メンバーが姿を現し、ピエール中野(Dr)のドラムが打ち鳴らされる。幕開けは「Telecastic fake show」。TK(Vo&G)がギターを掻き鳴らし、345(Vo&B)と歌い繋ぐハイトーンヴォイスは切迫感に満ちている。めまぐるしく切り替わるライティングと、互いに音が絡み合い織り成されていくグルーヴ。拍子の感覚が分からなくなるような、インプロビゼーションの匂いのある演奏に打ちのめされた。
サスティーンの効いた音色を響かせる時は青一色、海の底のような深い色合いのライティング。345のゴリッとしたベース音が爪弾かれたのに続き、TKのリヴァーヴィーな奏法で幕開けたのは「DISCO FLIGHT」。ステージから放射される眩い光に射抜かれたかと思えば、真っ暗闇に切り替わる大胆な照明演出。TKは、まるで金切り声をあげるようなハイトーンを操り、ギターソロも超絶的。深紅の光に照らされながらそれを支える中野のドラムも怒涛のプレイである。スリリングな呼吸と間に手に汗を握り、ラストは音のカオスとなってプツリと終わる幕切れ。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
歓声を上げる観客に、TKは「ありがとうございます」と感謝を述べて、「初めまして、凛として時雨です。よろしくお願いします」と挨拶すると拍手が起きた。「DIE meets HARD」はテンポはミディアムだが、ヴォーカルが激しく高低を行き来する狂おしい曲。やはり心地よい緊張があり、披露し終えると大きな深い拍手に会場は包まれたのだった。
「abnormalize」はドラムンベース風リズムに、這うような太いベースラインが絡まり、超ハイトーンでのハーモニーを響かせる2人のヴォーカル。静と動を行き来して激しく心を揺さぶって、最後はふっと音を途絶えさせる。オーディエンスは手を挙げるなどして確かに乗っているのだが、ただ盛り上がるというのとも違う揺さぶられ方をしたような、どよめきに似た反応を巻き起こしていく。
一弦ずつ開放弦を鳴らしていきながら、TKは「Trigger In The Box、本当に誘っていただいてありがとうございました」(TK)と改めて感謝を述べると「傍観」へ。TKは深いディレイの掛かったギターアルペジオで音の世界観を構築し、345は長音を響かせ、中野は小節の頭で強いキックを踏み鳴らす。赤いライトに沈むようにして、メンバーの姿は定かには見えない。<僕は汚い 僕は消えたい 僕は見えない>と歌うままの心象風景がそこに広がっていてハッとする。やがて、ハイトーンでエネルギーを炸裂される歌声は、カタルシスをもたらした。泣き叫ぶようなギターソロを掻き鳴らすTKは、獣のように繰り返し咆哮。3人はステージを後にした。真っ赤な光の中で繰り広げられた圧倒的な表現に、観客は立ち尽くし大きな拍手を送った。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
会場内には配信映像に代わってDANGER CRUE の歴史を辿るVTRが映し出された。「このバンドからすべてが始まった」と紹介されたのは、44MAGNUMの貴重なライヴ映像。REACTION、続いて紹介されたバンドD'ERLANGERがステージでの出番を迎えた。SEに乗せブルーの照明が灯される中、旋回するサーチライト。遠くの稲光のように時折白いライトが瞬く。インダストリアルな金属音と荘厳なシンセサウンドが鳴り響き、ステージが妖艶なパープルに染められると、メンバーが悠々と登場。「BABY」の軽やかなギターコードをCIPHER(G)が掻き鳴らし、ロマンティックにスタートした。
乾いた破裂音が心地よいTetsu(Dr)のドラム、SEELA(Ba)の揺蕩うようなベースライン、そして色気の権化のようなkyo(Vo)の歌声。ラララだけでも妖艶さや力強さを伝え分ける表情の豊かさに聴き惚れた。「Hey東京、行くぜ」と誘い掛けるようなkyoの呼びかけで、「SEX」へ。歌いながらステージを動き回り、身を揺らしながら、繰り返されるリズムに乗せた起伏の少ないメロディーを妖しく歌唱する。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
「Harlem Queen Complex」へ突入すると、D'ERLANGERの大きな魅力である、スリリングな殺気に満ちた間合いの呼吸感を堪能。低いベルベット・ヴォイスから高いシャウトまで、まるで何かに憑依されたかのように刻々と声色を変えながら歌うkyo。「代々木! 大きい声出せるか? さあもっと腰振ろうか」とエロティックに呼び掛けると、「Harlem Queen Romance」へ雪崩れ込む。長いキャリアを経てこそ醸し出される絶妙の間、色気が横溢する演奏は圧巻。オーディエンスは手を高く掲げて盛り上がっていた。
しばしの静寂の後、Tetsuがドラムを打ち鳴らすと、「Trigger In The Box、楽しんでますか? ふふ……短い時間ですけれど、お嬢ちゃんたち、しっかりとおじ様にもて遊ばれて帰っていってください」とkyoが語り掛けるとオーディエンスは沸き立った。代表曲「LULLABY」を投下すると、粘り気を増したグルーヴ感と失われることのない煌めき、起爆力のあるメロディーを届け、衰えることのない名曲ぶりを示した。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
「代々木! 後ろ! 上! スタンド! もう一つ派手に行こうぜ! TOKIO!」と叫んで最後に届けたのは、これもまた代表曲の一つである「SADISTIC EMOTION」。何もかもをなぎ倒していくような圧倒的な歌と演奏。後に続く数々のアーティストたちに影響を与えた永遠の不良の佇まいは損なわれることなくそこにあった。「代々木! まだまだ。一緒にデカい声出せるか? 行くぜ!」(kyo)と終盤でも煽り続け、会場全体を巻き込んで大サビへ。威厳に満ち、かつフレッシュで熱いままのライヴを繰り広げ、大いに沸き立たせていた。
転換中に上映されたヒストリーVTRの第二弾は、DIE IN CRIES、BODY、そしてL'Arc~en~Ciel、BUGの映像。歴史に想いを馳せながら迎えたのは、44MAGNUM -Trigger In The Box SPECIAL VERSIONのステージである。メンバーが登場し、地鳴りのように打ち鳴らされる宮脇“JOE”知史(Dr)のドラムで「YOUR HEART」がスタート。日本におけるヘヴィメタルの始祖にして伝説的なヴォーカリスト、若年性パーキンソン病と闘う梅原“PAUL”達也(Vo)とその子息であるSTEVIE(Vo)がツインヴォーカルで歌唱する。
「THE WILD BEAST」へと突入すると、踏み鳴らされるバスドラムに乗せて刻まれるメタル王道のビート。広瀬“JIMMY”さとし(Gt)のギターが泣きのフレーズを響かせる。歌のメロディーは哀愁を帯びているが、音は力強く迷いがない。吉川“BAN”裕規に代わって、この日ベースを務めたのはBLAZEのJACK。44MAGNUMの出演を熱望したオーガナイザー逹瑯のリクエストに応じる形でこの日ステージに立つこととなり、安定感抜群のプレイでバンドを支えた。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
3曲目の「I JUST CAN'T TAKE ANYMORE」は明るいメロディーが印象的な開放的なナンバーで、PAULとSTEVIEのハーモニーに多幸感がこみ上げる。「今日はいらっしゃいませ。本当に久しぶりのステージに立ってさ。MUCC、呼んでくれてどうもありがとう!」とのPAULの挨拶に大きな拍手が沸き起こった。ヘヴィメタル感全開のアグレッシヴな曲「I'M ON FIRE」、続けて「STREET ROCK'N ROLLER」をラストに届け、全員で濃密なグルーヴを織り成した。
ベースソロ、ギターソロとリレーするように弾き繋ぐ際、煽るように照明が明滅を繰り返していたが、音だけでも迸るエネルギーを感じ取ることができるほど、熱く充実した歌と演奏だった。最後はPAULもSTEIVIEもシャウトし、全員で音を揃えて鳴らしフィニッシュ。「グッドナイト!」とPAULは挨拶。レジェンドは強烈な印象を残してステージを去った。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
場内映像ではVTRの第三弾が流れ、MUCC、シドからDEZERTに至るまでのアーティストの歩みが映し出された。「デンジャークルーはこの先もロックの殿堂として新しいアーティストを輩出していくだろう」と結ばれた、これらVTRのナレーションを務めたのはガラ(メリー)だというからこれもまた豪華である。
暗転し、カウントダウンの果てに「error」表示がスクリーンに映し出されると、HYDEが登場。「今日は全員おかしくなってもらうよ? やれんのか? タイムリミットは45分。君たちの人生で最も濃厚な45分にしてやろう。やれるか代々木! Are you fucking ready?」と呼び掛けて、「AFTER LIGHT」がスタート。12月8日にファイナルを迎えたソロツアーとはまた違い、身を揺らしながら歌うその姿から感じたのは、その場を支配しようとする毅然とした意識。顔の右半分を黒いマスクで覆い、赤い口紅を大きくはみ出して描いたHYDEは、攻めの意識でこのステージに立っているように見えた。
妖しく揺らめくギターの音色に続いて「SICK」が始まると、HYDEは頭を左右に強く振り乱し、かと思えばサビではゆったりとしたテンポ感で歌唱。観客から放たれる大声のコーラスを力にしながら、終盤にはスクリームも轟かせた。「あーっはっはー!」と不敵なダークヒーローを思わせる笑い声を上げ、「熱くなってきた? 代々木ちゃん。楽しもうぜ!」とファンに語り掛け、ブラックライトの中、目を妖しく光らせて、「自分たちの本気のすごいとこ、見せてくれよ! DEVIL SIDE見せてくれよ!」とシャウト。その言葉から「DEVIL SIDE」へと突入すると、マスクは外され、唇に指を縦に滑らせ十字を切るような仕草を見せる。荒々しい野性味を剥き出しにした歌声だったが、サビでは美しく澄み渡った声色を響かせた。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
「代々木! カモン!」と煽る時のドスの効いた声は悪魔的。大きな歩幅でふわふわと跳ね回るようなステップで、両手を動かしながら動き回って最後の盛り上がりへ。もっともっと!と会場の熱を求め、自らもすべてをさらけ出そうとする熱いステージだった。
ギターアルペジオに合わせて「GLAMOROUS SKY」を歌い始めると、会場にはどよめきが。パンクヴァージョンで披露されたこの大ヒット曲を、ファルセットは優しく、甘く歌ったが、ところどころ挑発的な歌唱に切り替えて起伏を付けた。何度も観客にシンガロングを求め、カメラに向かっていたずらっぽい表情を幾度となく見せて、HYDEは会場との一体感を積極的に高めていく。不穏なSEが流れステージは暗くなり、始まったのは「SET IN STONE」。軍警帽を目深にかぶりフラッグを結んだスタンドを背負い、心ここにあらずの境地を妖し気に歌うHYDE。
ラストは、マイクを銃のように持ち口に入れ、銃声と共に後ろに倒れ込むというショッキングな幕切れ。「死んだかと思ったかーい(笑)?」と笑わせつつ、「お招きいただきありがとうございます。もう1年ぐらい前から逹瑯に言われてたもんね。かわいい後輩にお願いされたら断るわけにいかないね。毎回は無理だけど、今回は本当に、彼はすごく頑張ってたと思うんでね。感謝してます」と感謝を述べると、開場時のKenの出番について述べ、「皆、最初にここでKenちゃんがギター弾いてたの知ってた? ちょっと贅沢すぎるんじゃないですか?
昼イチからKenちゃん。ゆっくり紅茶でも飲みたい気分でしたよ」とコメント。「俺、楽屋でずっと踊ってるからね。本当にうれしい! なかなか先輩に会えないからね。青春時代の曲とかたまんねーな! 君たちより楽しんでるんじゃないかな?」とこのイベントを満喫している様子。
続いて、「自分の芸術を追求したい。カオスが観たい」と本気モードのライヴのテンションにすぐ切り替わり、「MAD QUALIA」へ突入。スモークが噴出し、仰向けに寝そべったまま歌唱。更なる盛り上がりを要求し、ステージから降りると、「こんなところに脚立がある」と自らは脚立に登ってパフォーマンス。座席のある会場のためダイヴやモッシュを求めることはできないが、「その場で何ができるか?って考えようぜ」と語り掛けたHYDEは、首を回したり両手を交互に上げたりという動きを自らレクチャー。「それもしたくない奴は、精一杯ジャンプしろよ! おれが100%出してなかったら、無視していい。ただ、俺が本気でやってると思ったら返してくれよ!」と対等な熱の交歓をリクエスト。「ANOTHER MOMENT」を全力を迸らせた歌と動きでパフォーマンスしたものの、脚立から落ちるというアクシデントも。3、2、1の合図でジャンプしよう、とアナウンスし、エアダンサーがステージ上に出現し揺らめく中、叫び続け腹の底からの声を聴かせていく。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
「あと2曲! クライマックスですよ?」と呼び掛け「AHEAD」へ。HYDEは大きく脚を開いて立ちギターを掻き鳴らしながら歌い、ステージを動き回った。ラストは、L'Arc~en~Cielの「HONEY」を披露。事前に観客にレクチャーしたオリジナルなコーラスを交えたアレンジで、新鮮な響きを持っていた。HYDEはどこかやんちゃな、はっちゃけた歌い方で、歌詞もスクリーンに出して観客のシンガロングも求めつつ、ラストは端正に歌唱。全身の力を振り絞るように前屈みになりつつ、ステージを左右行き来して歌い、最後は台からのジャンプダウンで音を止めた。「Thank you so much! ありがとう!」とキスした手をカメラに押し付けるようにして去っていくHYDE。力漲る45分間のパフォーマンスだった。
ライヴを終えた直後のHYDEが団長の番組に出演し、「お尻が痛い」と言いつつも、全員の心の声を代表して「ケガをしたのでは?」と質問する団長に、「してないよ、そんなもん」と返答。テーブルの上に寝そべって団長とトークを繰り広げる、というシュールな画に笑いが起きる。楽屋ではライヴ映像を観ながら「めっちゃ踊ってた」と語り、D'ERLANGERの「SADISTIC EMOTION」は共に歌っていたと明かした。続くセッションコーナーへの話題も盛り上がり、会場の期待は高まるばかりだった。
Trigger In The Box Super All Starsと名付けられたセッションタイムでは、L’Arc~en~Cielの「fate」「Voice」「READY STEADY GO」「Vivid Colors」「Shout at the Devil」をカヴァー。全曲のドラムにShinya(DIR EN GREY)を迎え、ベースにYUKKE(MUCC)、明希(シド)、Sacchan(DEZERT)、ギターにミヤ(MUCC)、Shinji(シド)、Miyako(DEZERT)、そしてKenが参加。ヴォーカリスト陣は、千秋(DEZERT)、逹瑯(MUCC)、Ta_2(OLDCODEX)、マオ(シド)、そしてHYDEが務めた。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
逹瑯は「めちゃめちゃ楽し~~!」と歌い終えてデスボイスで叫ぶほど感極まっていた様子。マオは、かつて「HYDEさんの髪型を真似て伸ばしてました」と告白。基本的にはオリジナルに忠実なアレンジで、随所にそれぞれの持ち味を反映させた、リスペクトを感じさせるカヴァーばかり。それぞれの想いを胸に、歌い、奏でている様子が伺えた。
ラスト、Trigger In The Boxのフラッグを持って登場したHYDEは、「オーラス! 代々木!」とシャウトし、「Shout at the Devil!」とコール。絶え間なく噴き上げるファイアボールに焼き尽くされんばかりのステージで、後輩らと絡み合いながら荒々しいシャウトを繰り返す。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
「代々木、まだ行けんじゃねぇの? オーラスってどういう意味かな? ラストスパート、余ってるもの全部出していかないと」とまだまだ飽き足りない様子のHYDEは、「こんなんで年越せんのか? 忘年会だからいいのか…いや、違う。忘年会でも焼き尽くしたいんだ、俺は! ロックってこんなもんじゃねーだろ? ぶっ壊せ! ぶっ壊せ代々木!」と絶叫。鬼気迫る歌と本気のパフォーマンスを見せ、お祭り騒ぎには留まらない凄みで圧倒。「Thank you so much、逹瑯!」と最後はオーガナイザーを労って、特別な時間はいよいよ幕を閉じようとしていた。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
逹瑯は「ありがとうございます! めちゃめちゃカッコよかった! HYDEさんに“セッションお願いしたいんですけど”って言ったら、“何でもいいよ”って。『Shout~』一択でした、すいません。私チケット代払ってないのに一番楽しんでると思います!」と感慨深そうに述べ、エンディングへ。順に呼び込まれた出演者たちを観客は拍手で讃えた。全員で集まって客席をバックに記念撮影。「また来年以降、誰かが何かやると思いますんで、また遊びに来てください! では最後にTrigger In The Box、Thank you!」(逹瑯)の声を合図に銀テープが噴出。ステージに向けて観客は名残惜しそうに手を振り続け、大歓声の中終演した。
早速各バンドのハイライト映像がプレイバックされ、MUCCの告知映像(今春ニューアルバム発売、6月21日ぴあアリーナMM公演開催)で締め括られたのは21時22分。8時間以上に及ぶイベントは幕を閉じた。
撮影/今元秀明、西槇太一、上原俊
現在のシーンの礎を築いた先輩アーティストへの愛とリスペクトに貫かれながら、参加者を楽しませようとするエンターテインメント精神にも満ちていたこのイベント。オーガナイザーである逹瑯の熱意と努力に敬意を表しつつ、次回はどのような形で開催されるのか、期待が高まる年末の一夜だった。
(取材・文/大前多恵)
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