1話から「あー、こんなことやってた!」「こういう共同作業って楽しいよね!」と、なんらか創作活動に携わっていた人、あるいはそういう活動に憧れがあった人たちの琴線をジャンジャカかきならす描写がいっぱい。「創作活動」っていうと大げさだけど、落書きとか空想とかそういうのも全部含むから、すごくたくさんの人に届くアニメだと思う。
主人公は女子高生だけど、ジェンダーレスな感じなので男女どちらでも入り込みやすいのがいい。ちなみに作品の舞台になっているのは2050年代らしい。
できれば、子どもたちに見てもらいたいんだけど、放送時間が遅いんだよなー。日曜の朝とかに再放送希望!

『映像研には手を出すな!』原作(1)ビッグコミックス
人物と背景を重ねた瞬間に生まれるもの
物語は、アニメは「設定が命」の浅草みどり(伊藤沙莉)、金儲けが大好きなプロデューサーの金森さやか(田村睦心)、カリスマ読モでアニメーター志望の水崎ツバメ(松岡美里)という「電撃3人娘」が自分たちのつくりたいアニメを自力でつくりあげていくというもの。
まず、浅草みどりが育ったマンションや彼女たちが通う芝浜高校そのものが魅力的。どちらも増築に増築を重ねた複雑怪奇な構造で、子どもの冒険心を満たすのに十分。トミカのパーキングとか「サンダーバード」の秘密基地とか未来の都市の予想図とか沢田マンションとか高速道路のジャンクションとか夢に出てくる変な街とか、そういうのが大好きな人にはもってこい。
自宅のマンションで好奇心の赴くままスケッチを繰り返してきた浅草みどりに、もう一つの衝撃を与えたのが何気なく見ていたアニメ「残され島のコナン」(宮崎駿監督の「未来少年コナン」)。少年と少女の冒険とアニメーションの動きに魅入られた浅草みどりは、アニメ制作を志すことになる。そして芝浜高校で出会ったのが、金森さやかと水崎ツバメというわけ。
浅草みどりは自分の設定のスケッチと水崎ツバメが描いた人物のスケッチを重ね合わせる。すると、そこに背景の前にすっくと立つ人物が現れる。
「おおっ、私の絵に背景が!」
「案外上手くいくもんですな。他にも合作しようよ」
「うん!」
なんだか、これだけでグッと来る。共同作業の尊さと、人物と背景を重ねることでアニメーションの世界が生まれる瞬間が同時に描かれているのだ。そして、2人(と絵を描かない金森)は合作を続けていくうちに想像の世界に入りこむと、それがそのまま絵になってものすごい勢いで動きはじめる。メカの動きとか風とか水とか、これぞアニメーション(語源は「生命のない動かないものに命を与えて動かすこと」)って感じ。
そして、いろいろあって3人は新しいサークル「映像研」を立ち上げる……ってのが、2話までのあらすじ。
アニメーションの根源的な喜び
監督は「マインド・ゲーム」「夜は短し歩けよ乙女」「夜明け告げるルーのうた」「きみと、波にのれたら」などの映画、「ピンポン THE ANIMATION」などのTVシリーズなどで知られる湯浅政明。彼の手による「ちびまる子ちゃん」や「クレヨンしんちゃん」などのストレンジなアニメーションを目にした人も多いはず。
湯浅政明監督の大ファンだというライムスターの宇多丸氏は、湯浅作品について「アニメの型を取っ払うような実験的なことをやってるんだけど、それがアニメーションの根源的な喜びに触れるようなものでもあって、実際に見て楽しい」と語っている(&M 2019年4月5日)。だとすると、「映像研には手を出すな!」は、まさにザ・湯浅政明作品という感じだ。
「アニメーションの根源的な喜び」といえば、アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏はかつて「アニメーションの本質は、人間の目と脳でしか把握できない自然界の動きを再現する、そこに宿る"芸術性" ということになると思います」と述べているが(CG WORLD.jp 2012年3月24日)、これなんかそのまま2話で浅草みどりと水崎ツバメが風車の動きをアニメーションで再現しようとするシークエンスにあてはまる。
空想の中のハチャメチャな動き、自然の動き、人の小さな動きなど(原作者の大童澄瞳氏は1話で浅草みどりが望遠鏡を見ながら膝を少し上げる動きが大好きらしい)、画面の隅々に至るまでアニメーションの喜びが詰まっている「映像研には手を出すな!」。その根本には浅草みどりと水崎ツバメの強い「好き」がある(金森さやかも)。あ、主題歌のchelmico「Easy Breezy」のPVも最高でクセになるので、ぜひ見てみてください。
(大山くまお)