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テレビ朝日で放送中の『しくじり先生』が、完全オリジナルの「リアル脱出ゲーム」を作ってしまった。その名も『しくじり学園からの脱出』。
「リアル脱出ゲーム」とは、プレイヤーが実際に謎を解きながら、さまざまな場所から「脱出」する体感型ゲームイベント。その面白さはあくまで「自分で解く」ことにある。では「誰かが解いている様子」をテレビで面白く見せるには、どうすればいいのか?
その答えが『しくじり学園からの脱出』にある。作り手と出演者の力で、「解く」と「見せる」を両立させているのだ。

ちゃんと設定から説明しておこう。『しくじり先生』には地上波の本放送とは別に、『しくじり学園お笑い研究部』というAbemaTV限定コンテンツがある。本放送では、過去に“しくじった”芸能人を先生として迎えるが、「お笑い研究部」では番組レギュラーのオードリー若林、平成ノブシコブシ吉村、ハライチ澤部、準レギュラーのアルコ&ピースが先生役。若手芸人にバラエティ番組の立ち振る舞い(「箱の中身はなんだろな」のお手本など)や、キャラの活かし方などを教えている。
『しくじり学園からの脱出』は、お笑い研究部の「チームワークを考える」というテーマ内で行われたもの。生徒役はお笑いコンビの納言と、欅坂46の武元唯衣。芸能界たるもの、ひな壇などのチームワークが大事である。
挑戦するリアル脱出ゲームは、番組オリジナルの完全新作。リアル脱出ゲームを手がけるSCRAPが全面協力し、制作期間6ヶ月をかけたという。視聴者も参加できるよう、公式HPから謎解き用の教科書がダウンロードできる。熱の入れ方がすごい。
制限時間は40分。時間切れになると時限装置が作動し、教室が木っ端微塵になる。装置を止めるためには、教室にしかけられた謎を解かねばならない。
見せかたで「世界観」を守るには
『しくじり学園からの脱出』に感じるのは、番組制作側が「世界観」「没入感」を大事にしていること。リアル脱出ゲームは、ゲーム内の設定に入り込んで初めて成立する。テレビ的な演出などで、世界観を壊さないよう細心の注意を払っているようにみえた。
『しくじり学園からの脱出』は、本放送の『しくじり先生』を収録する教室セット内で行われている。掲示物や小道具はほぼそのままで、謎解きに使うのは『しくじり先生』でもお馴染みの「教科書」。
また「リアルタイム性」にも気を配られている。通常の「お笑い研究部」は放送時間が15分〜20分程度なのだが、『しくじり学園からの脱出』は44分あり、そのうち約32分を挑戦パートに使っている。謎解きの制限時間40分をほぼリアルタイムで再現し、ナレーションを入れて謎を解説したり、視聴者にヒントを出したりもしない。配信番組なのでCMも入らない。
ダウンロードした教科書を手元に置けば、画面の中の出演者とほぼ同時に謎解きが楽しめるようになっているのだ。教室内のものを謎解きに使う場合は、カメラがさりげなく画に収めていたりするので油断ならない。先に手がかりを見つけると「あれだよ!」と念を送ってしまう。往年の「志村!後ろ後ろ!」状態である。
ただ、いくらリアルタイム性を大事にしたいとはいえ、黙々と謎を解いたり、無言で悩む時間を延々と見せられたりするのはツラい。
改めて知る中堅芸人の「チームワーク」
『しくじり学園からの脱出』に挑戦するのは、オードリー若林、ノブコブ吉村、ハライチ澤部、納言(薄幸、安部紀克)、武元唯衣(欅坂46)の6人。
番組冒頭には教室にアルコ&ピースもいるのだが、ゲーム開始前に「人質」として連れ去られてしまう。裏で彼らに与えられた役割は「実況解説」。SCRAPの青木竜也氏と共に、いまどんな状況にいるか解説し、おかしな言動には外側からツッコミを入れる。視聴者に向けた、最小限のガイド役として。
挑戦する6人のうち、リアル脱出ゲーム経験者はノブコブ吉村のみ。途中からチームを仕切りはじめ、ずっと大きな声を出し、実況席から「やったっぽい感じ出してるだけ」とイジられている。だが、吉村は思考の過程をずっと口に出しているので、視聴者には何を考え、何に悩んでいるか伝わる。「ただ黙々と手がかりを探す」という画にならない。
オードリー若林もその辺りを心得ており、状況が膠着すると「爆発するんだぞ!」とキレるなど、実況席のアルピー平子曰く「ひとつまみの笑い」を忘れない。さらに、バラエティ収録に不慣れな納言の2人を気遣って「カメラにお尻を向けちゃダメよ」と優しく注意したりもする。そう言われてみると、探索以外の場面で若林・吉村・澤部の3人はカメラにお尻を極力向けないようにしていることに気づく。
中堅芸人の3人は常に「カメラにどう撮られるか」「番組として成立するか」を意識している。自分だけ閃いても、なるべくきちんと過程を説明する。若手にも見せ場を作り、なかなか謎解きに加われない欅坂46武元に毎回宝箱を開けさせる。適度にボケを入れ、過度に引っ張らない。
作り手が世界観を守り、中継芸人3人がスタジオを回す。両者の「チームワーク」が揃ってはじめて、視聴者は『しくじり学園からの脱出』を手に汗を握って楽しむことができるのだった。
『しくじり学園からの脱出』「出題編」は27日までAbemaTVで配信中。出演者たちが無事脱出できたのか、それとも無残に爆発してしまったかは、ぜひ自分の目でご確認を。最終問題、最初はさっぱりわからないけど、気づくと納得の素晴らしい展開なので、教科書のダウンロードを忘れずに……!
(井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)