「大勢の人がマスクを手作りして病院やスーパーに寄付する」新型コロナでロックダウンしたチェコでの暮らし
ロックダウン中のプラハ市内の住宅街

ドイツやオーストリアなどの国々と接するチェコ。同国は3月12日に緊急事態宣言を出し、14日に出入国を制限、16日から国民に外出制限を出している。
イタリアやフランス、ドイツなどの様子は日本でも取り上げられることは多いが、他のヨーロッパの国々はどのようになっているのか。

首都プラハで会社員として働き、日本近代史研究の目的で、日本にも留学経験があるヤナ・クライーツォヴァーさんに、チェコの様子を聞いた。

取材・文/Keiko Sumino-Leblanc 加藤亨延


マスク着用は義務、ただしスカーフなどでもOK


「大勢の人がマスクを手作りして病院やスーパーに寄付する」新型コロナでロックダウンしたチェコでの暮らし
外出制限下の健康のため運動するクライーツォヴァーさんの甥、2歳でもマスクは必須

――新型コロナはどのようにして広がりましたか? 感染拡大が深刻化したのはいつ頃でしょうか?

3月1日に3人の感染者が見つかりました。そのうちの2人は観光客で、アメリカ人とその友人、南米の方だったと記憶しています。この2人がイタリアからハンガリーを経由してチェコに入り、入国の時点で体調が悪く検査したところ結果は陽性。そのまま入院しました。

もう1人は、私がいつも仕事で車をお願いしている運転手さんです。
彼はAirbnbをしてもいて、ドイツ人観光客を泊めた後に発症しました。彼らから感染したのかもしれません。一時は深刻な状態にありましたが、今は回復しつつあります。

感染者が見つかる前から、チェコ人たちは新型コロナウイルスが国境を越えてやってくることを予感していました。ドイツやオーストリアなど、周辺国の被害状況が大きく報じられていたからです。

ちょうど2月休みのシーズンでもあり、多くのチェコ人がイタリアやオーストリアの山々を旅していました。
彼らが帰国すれば、ウイルスが持ち込まれるであろうことは予想されていたのです。実際にはそうなったわけですが、特に驚きはありませんでした。その頃チェコ人は新型コロナウイルスのことをインフルエンザ程度にしか考えていなかったこともあり、パニックも起こりませんでした。

ところが、3月12日に非常事態宣言が出ると、イタリアや日本と同じように、米やジャガイモ、トイレットペーパーなどが売り切れに。しかしこれは2、3日で解消され、その後、品切れは全く起こらず通常通り充実しています。

非常事態宣言と同時に、イタリアから帰国した人たちに対して14日間の検疫が始まりました。
先に述べたように、人々はあまり深刻に捉えておらず、人に会ったりしていたようです。しかし16日のロックダウン以降は国境が封鎖され、外出が制限されています。

非常事態宣言が出された3月12日からロックダウンした16日の4日間は、国外にいたチェコ人や、チェコにいた外国人を、すみやかに帰国させるための猶予でした。16日のロックダウン以降は、みんな事の重大さを理解し、決められた行動を守っています。すべての入国者に対する検疫も、徹底的におこなわれています。

――新型コロナが深刻化した際から、どのような生活をしていましたか?

12日の非常事態宣言以降は、在宅勤務が可能な社員は全員、在宅勤務に切り替わりました。
私は緊急の案件があり出勤しましたが、16日からはずっと在宅勤務です。非常事態宣言以前にも、大会社の社員は徐々に在宅勤務に切り替えていたように記憶しています。

――プラハでの状況はどのような感じでしょうか?

外出の頻度や距離に関する厳しい決まりはありませんが、外出の理由は限られています。食料品や生活必需品の買い物は可能、病院へ行くこともできますが、外出する方が危険ですので、できれば電話で診療するよう勧められています。獣医へ行くことも可能です。運動のための散歩も認められています。
屋外でのスポーツはできません。ジョギングと自転車はOKです。

外出は2人まで、ただし家族は例外。安全距離は可能であれば2mとされています。マスク着用も義務になりました。鼻と口を覆えばいいことになっていて、スカーフなどで覆うだけでも良しとされています。
そのためマスクを手作りする人が増えました。

ビールをみんなで買い取ろうという動き広がる


「大勢の人がマスクを手作りして病院やスーパーに寄付する」新型コロナでロックダウンしたチェコでの暮らし
プラハ市内住宅街の駐車場の様子

――ロックダウンが始まる話はいつ頃から聞いていましたか?

12日からいつロックダウンに入ってもおかしくないと思っていました。これはチェコ人みんなに共通していたと思います。周辺諸国の状況から予期できましたので。

――街の雰囲気はどのように変わりましたか?

急に人がいなくなり、渋滞もなくなり、街全体が大変静かです。(注:プラハ旧市街は街そのものがユネスコ世界遺産に登録されており常に観光客で賑わう。例えばカレル橋は人を避けて進むのが難しいほどに混雑している)いつもはスペースがなくて苦労する駐車場も、空きが十分にあります。プラハ市内の駐車場は全て有料なのですが、ロックダウン以降は無料開放されています。

――家ではどう過ごしていますか?

在宅勤務で仕事を続け、必要な買い物以外の外出をしていません。ずっと続けているアフターワークのバレエレッスンも、今は中止されていますから、家の中で個人的にしています。有名なバレエダンサーたちがレッスンをYouTubeで無料配信し始めたので、それを活用しています。

私は一人暮らしなので、両親や弟家族、友人など、誰にも会わない生活は少し寂しいですね。毎日、家族や友達に電話をしています。FacebookなどのSNSを以前はほとんど使いませんでしたが、今では日課です。

――新型コロナに関してお国柄を感じるエピソードがあれば教えてください。

マスクが義務化されたのは特徴的なことだと感じます。先ほどもお伝えしましたが、お店ではずっと売り切れているので、手作りが主流。たくさん作ったマスクを、労働者の施設や病院、スーパーなどへ持参して、寄付する人たちが大勢います。有名人も、このアクションを起こしています。形も柄も、いろいろあって楽しいですよ。

ビールの国チェコらしく醸造所が倒産しないよう助ける動きが起きています。500mlジョッキ130万杯分の生ビールが今、在庫としてあり、飲まなければ悪くなってしまう。これを廃棄処分しないために買い取ろうという動きで、ネットで購入して宅配されるシステムが生まれました。生ビールを捨てるなんて、もったいないですから。

65歳以上の人たちが安心して買い物できるように、朝8時から10時までの2時間は65歳未満の人たちは入店できないことも、チェコならではだと思います。

――買い出しはどのようにしていますか? 買い占め、足りなくなっている物資はありますか?

私は自分で買い物に行っていますが、宅配を利用する人は多いようです。宅配システムはロックダウン以降増えました。買い物に行く時は、できるだけ急いで、必要なものだけを買ってすぐに帰ります。

買い占めで困っているものは今は全くありません。ただし、マスクはずっと売り切れています。最近はウエブカメラや空気洗浄機の売れ行きがよく、品切れの店は多いです。ウェブカメラは子供たちのための在宅授業や、在宅勤務に必要ですから。空気洗浄機はウイルスを除去する性能のあるものが売れています。こういったものは中国製なので、しばらくは欠品するでしょう。

――ロックダウン後の食事は自炊? もしくは宅配か、外に買いに行ったりしますか?

自分で料理しています。普段は大概外食なのですが。フードデリバリーは、私は利用しませんが、利用者は多いと聞いています。

――許される外出の範囲は?

外出の距離に規制はありません。先ほど説明したことに加えて、行政関連の手続きがあって、それを先延ばしできない場合は、市役所に行くことができます。例えば、婚姻に関することなどです。ただし市役所の受付時間は短縮され、毎日は開いていません。

――国からはどのようなサポートがあるのでしょうか?

失業手当や、子供のために仕事を休んでいる親への補償はあります。とはいえ、これらはもともと存在したもので、今回初めて登場したサポートではありません。新しいこととしては、フリーランサーに対し2万5000コルナ(約10万5000円)が支払われるそうです。ホテルや旅行会社など打撃を受けている企業は、今回特別なローンが組めるようです。

日本は先に新型コロナ経験があるためチェコが学ぶ点も多いはず


「大勢の人がマスクを手作りして病院やスーパーに寄付する」新型コロナでロックダウンしたチェコでの暮らし
普段と比べて街中はずっと静かに

――日本の様子はどのように報じられていますか?

最近になって感染者が増え、状況が悪化していると聞いています。少し前までは花見をする人々の様子や、検査の数が少ないことなどがニュースになっていました。チェコ政府が、アビガンの輸入交渉を日本政府に対して行っていることも報道されています(注:取材時の情報で現在は提供が決定した)。

私は個人的に日本の新聞を読んでいるので日本のニュースに詳しいとは思いますが、これらのことはチェコのニュースを通じて知ったことです。

――現地から見て、日本の動きはどのように感じていますか?

日本人はチェコ人とは違って、責任感が強く、他人と距離を取ることで相手と自分を守るという考えができる人たちです。チェコ人には義務化が必要だったマスク着用も、日本人には不要です。もともと、マスク着用の文化がありますから。私から見ると、日本はチェコよりもずっと統制がとれていて、安心感を持てます。

――これらプラハでの生活を通じて気づいたアドバイスがあれば教えてください。

3月1日、事態を深刻に捉えられなかったチェコ人と違って、日本人には現状が正しく理解できていると思うのです。どれほど深刻であるかとか、人に接触することがいかに危険とか。「マスクを付けなければいけない」「手を洗わなければいけない」こういったことは誰から言われずとも日本人には分かっていることですので、アドバイスを受けるのは私の方です。第一、日本の方が私たちよりも先に新型コロナウイルスを経験しています。対策についても、学ぶことが多くあるはずです。