新型コロナに感染、回復傾向にあるNY在住の男性「自宅療養者の多くは公式発表数に含まれない」
新型コロナで亡くなった人々に弔意を示す半旗

新型コロナウイルスの感染者は世界で270万人を突破し、死者は19万人にのぼっている。日本全国でも緊急事態宣言が発令されたが、まだ身近に感染者がいない人々にとっては、闘病者や回復者の生の声を聞くことがない。


現時点(2020年4月23日)で世界で最多の新型コロナ感染者数を記録しているアメリカにて、コロナウイルスに感染、自宅療養ののちに回復傾向にある、ニューヨーク在住の日本人男性会社員に話をうかがった。

取材・文/加藤亨延


対策を講じていても感染してしまう驚異的な感染力


新型コロナに感染、回復傾向にあるNY在住の男性「自宅療養者の多くは公式発表数に含まれない」
ニューヨークでは外出時のマスク着用が義務付けられている

――新型コロナに感染した時期を教えてください。

自分が新型コロナかもしれないと思い始めたのは、3週間前に突然咳が出始めてからです。鼻水などといった典型的な風邪の症状は出ず、なぜか空咳だけ。そこで自分の過去の行動を振り返ってみました。ニューヨークでは3月12日に既に非常事態宣言が出ており、それまでも外出は極力控えていましたが、それ以降は完全に外出自粛をしていました。外に出たのはたった一度、スーパーマーケットへ食料品を買いに行った時のみです。


――手洗いなどの対策はしていましたか?

手洗いだけでなく持ち物の消毒もしており、できる限りの新型コロナ対策をしていました。私は健康で持病のない30代です。しかし、それでもかかる。これは普通の風邪やインフルエンザとは違う、想像以上の感染力だと思いました。

――新型コロナ「かもしれない」が確信に変わったのはいつ頃ですか? 新型コロナだと思われる症状が出始めてから医療機関にかかったり検査は受けられましたか?

日本も同様だと聞いていますが、アメリカでは新型コロナの検査はなかなか受けられませんでした。そのため私も検査を受けたわけではありません。
私の場合、症状が進行したため、かかりつけの診療所に連絡を取った結果、新型コロナだろうという判断をされました。

――新型コロナだろうというかかりつけ医の診断後、どのように過ごすように指示されましたか?

外出して検査を受けることで、さらに他人に感染が広がったり、外出により患者本人の体調が悪化するリスクを避け、急激に体調が悪化しない限りは自宅にて療養、隔離するようにガイダンスされました。米国では、多くの人が私同様に「恐らく新型コロナだ」という状態で自宅療養しています。こうした人々は検査を受けていないので公式に発表されている感染数に含まれていません。

――公表されている数字より実際の感染者数は多そうですね。

私の周りは、新型コロナの疑いがあっても検査を受けた人はおらず、何人もの友人が私同様に自宅で闘病し、回復を待っています。
アメリカの病院では重病患者以外を受け入れるキャパシティがなくなっており、また投薬による治療方法が確立されていないため、重病患者以外にはこのような体制(自宅療養)が敷かれています。

咳、高熱、頻呼吸、肺の圧迫感、味覚と嗅覚の喪失が次々と


新型コロナに感染、回復傾向にあるNY在住の男性「自宅療養者の多くは公式発表数に含まれない」

――自宅療養中、どのような症状が出ましたか?

療養中の自分の体調の記録です。人によって症状は異なりますが、一例として参考にしてもらえればと思います。

初日:乾いた咳が始まる。

2日目:咳が悪化。食欲が落ちる。微熱。
それ以外の風邪のような症状はない。

3〜5日目:未明から高熱が出る。昼間は少し熱が下がるがまた夜になると高熱。咳は続く。突然お腹を下す。

6、7日目:食事の味がしない。
食感はあるのに香りと味を感じない。舌の先から何も感じない、とても不思議な感覚。咳と夜の発熱は続く。今までは、もしかしたら新型コロナではないかもしれないと自分に言い聞かせていたが、噂に聞いていた味覚と嗅覚の喪失を経験し、やはり新型コロナかと腹をくくる。麻婆豆腐を食べてみたら山椒の香りが全くしなかった。

8日目:1週間経過。
当初は自分の年齢なども考え1週間程度で回復するのではと思っていたが、回復している様子はない。味覚、嗅覚は回復したが咳が更に悪化。今までは過去に経験したことがある咳のレベルだったが、段階が上がり、かつて経験しなかった容体に。肺が強く圧迫される感覚になり呼吸が苦しくなる。呼吸がとても浅い。いつもと息の仕方が違う。最初の1週間も十分に体調が悪かったが、2週間目の方が肺に来ていると感じる。

9日目以降:頻呼吸と咳が続く。夜中に息が苦しくなり目が覚める。時々日中に体調が安定することがあり、小康状態かと思うがまた悪化を繰り返す。

現在、咳が出始めてから3週間が経ちましたが、体調は以前より安定してきたものの咳は残り、いまだに外出を控えています。日々体調が変わり、悪化している箇所も頻繁に変わるので自分が完治したと思うことができません。

――自宅隔離で数週間という非日常的な状況かと思いますが、療養中はどのようなことを考えますか。

自分の体調に関しては、毎晩頻呼吸になるので、今晩救急車を呼ぶことになったら……と就寝前に不安になります。自宅療養中の患者が呼吸困難になり救急車を呼んだものの容体が急変し、命を落としたという話もよく聞きます。私の住んでいるニューヨーク市マンハッタン区では、この1、2カ月で救急車のサイレンの音が以前より頻繁に聞こえるようになりました。

――自宅療養だとご家族の方への感染も心配されますが。

そうですね。同居している妻と生まれたばかりの子供に関しても不安になります。一般的な家庭では、誰かが感染して自宅療養する場合、残りの家族の隔離はほぼ不可能です。教科書的に言われる完全隔離はもちろんできません。自分がいつまで他人に感染させる可能性があるのか、いつになったら安全になるのかも分かりません。

――もし新型コロナが奥さんにも感染して、両親共に寝込むとなると、お子さんの世話なども心配ですね。

両親が共に寝込んだ場合もそうですが、両親が共に重症化して入院した場合は子供が一人残されることを想像すると恐ろしいです。子供が感染して重症化した場合、子供は一人で入院することになりますが、感染病ゆえに親であっても付き添い、見舞いができません。普段はあまり考えない状況がこの環境下では現実味を帯びてきます。

離れて暮らす自分の両親に関しても不安になります。健康で若い自分でも感染したことを思うと、高齢な両親はもっとリスクが高いだろうと胸が痛くなります。

――他にも周囲で感染した人はいますか?

知人が亡くなりました。持病もない健康な、仲間思いのいい人でした。彼の場合は最初に親が新型コロナにかかり命を落とし、感染病で隔離されていたため親の死に目に会えず、さらに彼もその後、感染して後を追う形となってしまったと聞いています。彼には奥さんと子供がいたので、彼の残された家族のことを思うと辛いです。

まだ感染していない人たちが今できること


新型コロナに感染、回復傾向にあるNY在住の男性「自宅療養者の多くは公式発表数に含まれない」
クオモ・ニューヨーク州知事の会見の様子(州政府のYouTubeより)

――検査を受けていない人が多いとのことでしたが、ニューヨークで暮らして肌で感じる感染者の数、実態はどのようなイメージですか?

自分の友人で、症状が出て自宅療養している人は何人もいます。日本人の感覚なら、普通は入院するだろうというレベルの症状でも自宅療養になります。家庭内で一人かかるとかなりの確率で同居家族にも感染しています。これらは検査を受けていないケースが多く、公式に報告される感染者に含まれていない場合がほとんどです。

――「まだこれだけの人数だから」というのではなく、さらに個人の新型コロナに対する意識を高く持つことは必要ですね。

新型コロナの感染者、死亡者がここまで悪い意味で身近になるとは思いもしませんでした。そう考えると、新型コロナの状況は世界で最悪と言われているニューヨークですが(4月23日時点で感染者数約26万人)、実際はこの数倍の人数が感染しているかもしれません。

――日本国内でも感染者数は足元で急増しています。新型コロナに備えるために何かアドバイスできることはありますか?

最初は非現実的に聞こえるかもしれない「医療崩壊」はすぐそこまで迫っています。実際にイタリアなどは医療崩壊し、従来ならば救える命を救えない状況になりました。通常の病院のキャパシティを超える患者それぞれの命を救うべく、医療従事者は全力で対応していますが、医療従事者の命を守るための個人防護具も不足しており、皆自分の感染のリスクを知りながら同じマスクや防護服を使い続けて奮闘しています。

それでも残念ながら医療従事者の感染者は一人ひとりと増え、少なくなった残りのスタッフで休みなく回している状況です。医療の現場で戦う友人たちのSNSの投稿などを見ていると状況は凄惨です。医療崩壊を防ぐためにも、彼らを守るためにも、我々一人ひとりが感染者を増やさないように行動する必要があると思います。

新型コロナの感染力は想像以上で、いくらマスクをして清潔にしていても、人間が移動している限りウイルスは運ばれて誰かに感染するリスクがあります。それは自分かもしれないし他の誰かかもしれない。外出しないことは不便を伴いますが、命を守るためにもう少しの間、皆が辛抱できればと思います。