『エール』第22週「ふるさとに響く歌」 109回〈11月12日(木) 放送 作:嶋田うれ葉、演出:松園武大、丸山文正〉

視聴率20%  朝ドラ『エール』の強烈な求心力はどこにあるのか
イラスト/おうか

1週間で2本の物語

鉄男と家族の話はハッピーエンドで終わって、109回からは嶋田うれ葉による裕一(窪田正孝)の弟・浩二(佐久本宝)のエピソードに。志田未来が登場して華を添える。

【前話レビュー】生き別れた弟と再会した鉄男のモデル野村俊夫が手がけたヒット曲「東京だョおっ母さん」とは

1週間のなかで、前半、後半、別の脚本家による、違うエピソードを描くことは朝ドラでは珍しい。
基本的にひとりの脚本家が半年ないし1年書くのが朝ドラ。まれに複数脚本家のときでも1週間単位で交代するのがこれまでのスタイルだった。

『エール』が1週間でふたりの脚本家という異例なケースになった理由は、メイン脚本家の降板、コロナ禍で放送休止、回数の縮小など、様々なアクシデントに見舞われたためだろう。あくまで想像でしかないが、ただ、その前に、特別編として、1週間で3本立てのエピソードを放送するという朝ドラでは珍しい試みも行われていたこともあり(そのときは吉田照幸が3本とも脚本を書いた)、朝ドラが新たな試みを模索していた時期でもあり、それを生かしたともいえる。

まとめると、『スカーレット』で本編のなかに特別編を入れる試みを行い、『エール』ではそれを3本立ての短編で行うという流れがあった。

そして『エール』福島、ふたりの弟編とでもいえそうな22週。前半、鉄男のターン、108回の視聴率は20%の大台を突破し、107回の鉄男の、生きる希望をくれるあたたかい挨拶や生き別れになった家族の再会、麗しい福島の自然などが好まれる要因だったと考えられる。

浩二編も、福島の林檎園の緑と赤のやさしいコントラストと広大さ、天才子役として名を馳せていまも演技力に定評のある志田未来演じるリンゴ農家のまき子の清らかさは、魅力的だ。

なぜ独身だったか。浩二の半生を振り返る

誕生:子供がなかなかできなかったまさ(菊池桃子)だが、裕一を生んだあと、第二子・浩二にも恵まれる。

幼少期:父・三郎(唐沢寿明)が奮発して購入した浩二の誕生記念は、蓄音機。それがのちに、裕一の音楽愛を目覚めさせる。


生まれたばかりのころ、まさは浩二にばかり目をかけて、裕一に寂しい思いをさせていたが、裕一に音楽の才能が芽生え始めると、父母は裕一ばかりをかまうようになり、浩二のほうが寂しさを感じる。裕一に吃音があったことも父母が目をかける理由だったとも考えられる。浩二は勉強もできて心配いらないと思われていたのではないか。

青年期:古山家の商売がうまくいかなくなり、まさの実家に裕一が養子に出され、店・喜多一を浩二が継ぐ。が、三郎が浩二の提案する新しいことを受け入れず、店は傾くばかり。裕一が音楽を選んで養子の話がなくなったため、ますます状況は悪化。浩二は裕一をなじる。

やがて喜多一が倒産。浩二は役所に務める。地元の農業・養蚕も限界がきていたので林檎栽培を提案。

三郎が死に、家督はすべて浩二が継ぐ。裕一とようやく和解。


戦時中:まさが体調を悪くする。独身を貫き、母の世話をする。

現在:林檎栽培が軌道に乗ってきた。

役所の仕事が忙しいのと、母ひとり子ひとりで、母の世話をしなくてはという責任感と、原節子みたいな人を夢見る理想の高さにより、なかなか結婚できないでいた。お菓子なんかも器用に作れるので、家事にも困らなかったのだろう。

それがついに見合い。相手はなかなか美しいお嬢さん(佐生雪)。でも、なんだか気乗りがしないのはなぜか――。

視聴率20%  朝ドラ『エール』の強烈な求心力はどこにあるのか
写真提供/NHK

密かに、想う人がいた

浩二が最初に林檎栽培をすすめた畠山家。ここの主人(マキタスポーツ)のひとり娘・まき子(志田未来)は林檎のようにぴかぴかのお嬢さん。戦争で亡くなった恋人を忘れられないでいる彼女のことがどうやら気になっていると、福島にやってきた音(二階堂ふみ)は感づく。

ところが、まき子が東京に行くと聞いて、動揺する浩二。東京でいい縁談があればいいと畠山。
「ここいらさ、いい男なんてひとりも残ってねえわ」と隣でからっと言われる浩二の立場は……。

ところで、畠山の妻は亡くなってしまったの? 鉄男の過去といい、『エール』では語られないことが多い。ん? と思うことが視聴者を引きつけることにもなるのである。

裕一が、いい感じに音楽家っぽい

なにをもって音楽家っぽいというか言葉にするのは難しいけれど、高価そうなやわらかそうな素材の開襟シャツから長い首がすっと伸びている姿が、芸術家の神経質そうな雰囲気を醸している。若干、白髪交じりの横分けと、理知的な眉間の皺なども、それっぽい。

所在なさげに背中を丸めていた若き頃から比べて、徐々に徐々に、“作曲家”としての自信がついて、音楽が好きで音楽とともに豊かな生活をしている人物というのが見た目から感じられる。

対して、音。彼女の若さは、生活に苦労なく、好きなことが割合できている余裕を感じる。都会で生きる作曲家の夫と、才能的には夫に及ばないながら、理解する知性や教養や感性があり、いつまでも若く美しい妻という絶妙な組み合わせを、窪田正孝と二階堂ふみが形成している。

裕一がなかなか福島から帰って来ないから、音まで福島にやって来たわけだが、裕一が残ってしている仕事は「高原列車は行く」の作曲の仕事であった。

福島出身の作詞家・丘灯至夫の作詞、作曲はもちろん裕一のモデルの古関裕而で、昭和29年に発表されて大ヒットした曲。猪苗代町の沼尻鉄道がモデルと言われている。110回ではこの歌が歌われるだろうか。
最近の『エール』は、クライマックスで“あの”名曲が歌われるかという楽しみが強烈な求心力になっている。歌(名曲)は強し。
(木俣冬)

【107話レビュー】モデル野村俊夫とまったく異なる村野鉄男の孤独な歴史を振り返る
【106話レビュー】鉄男の心配をするあかね 朝ドラ名物「終盤、いろんな登場人物が結ばれていく」パターンか
【105話レビュー】朝ドラ名物「最終回かと思った」 だがきっとこれは楽しく音楽と向き合えた音にとっての最終回

■窪田正孝(古山裕一役)プロフィール・出演作品・ニュース
■二階堂ふみ(古山音役)プロフィール・出演作品・ニュース
■古川琴音(古山華役)プロフィール・出演作品・ニュース
■中村蒼(村野鉄男役)プロフィール・出演作品・ニュース
■菊池桃子(古山まさ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■佐久本宝(古山浩二役)プロフィール・出演作品・ニュース

■津田健次郎(語り)プロフィール・出演作品・ニュース


※次回110話のレビューを更新しましたら、以下のツイッターでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね。

【エキレビ!】https://twitter.com/Excite_Review
【エキサイトニュース】https://twitter.com/ExciteJapan

視聴率20%  朝ドラ『エール』の強烈な求心力はどこにあるのか
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 

【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
編集部おすすめ