
※本文にはネタバレがあります
まさかの黒魔術『先生を消す方程式。』5話
「面白くなってきたぞー」(朝日)【前話レビュー】義経が「矢・弓・薙・剣」4つの力を借りた頼朝に討伐されるトンデモ展開
『先生を消す方程式。
4話で主人公・義経(田中圭)が朝日と刀矢(高橋文哉)、弓(久保田紗友)、薙(森田想)、力(高橋侃)によって消されて(殺されて埋められて)しまったことによって不在に。
主人公不在。これは田中圭が働き過ぎで、一回、お休みにすることで乗り切ることにしたのではないか……なんて穿った見方をしてしまった。
コロナ禍で延期になったとはいえ、途中までは撮影していた“らせんの迷宮~DNA科学捜査~』(テレビ東京)にはじまり、主役ではないが重要な役を担った4月期『アンサング・シンデレラ』(フジテレビ)、山田涼介とタッグを組んだ7月期『キワドい2人』(TBS)、そして「せんけす」と立て続けにドラマに出ているから。
真相はわからないが、朝日が大活躍。義経を消してしまった朝日は、埋めた場所に無数(年齢の数!?)のろうそくを立て、「ハッピー・DEATH・デイ」と歌う。
(無様 × 認める)継続=格好いい
翌日、義経が生徒からの虐めを苦にして行方不明になったことにして、副担任の朝日が3年D組の担任に就任。きれいなラベンダー色(?)のネクタイをしてやる気満々の朝日は床に頭をガンガン打ち付けるパフォーマンスをして(床の別色の部分ではなかった)、担任をやるしかない状況に自らもっていき、「頼朝って呼んでくださ〜い」と大はしゃぎ。「気持ちいいからうずかなーい」とうっきうき。スピンオフ『頼田朝日の方程式。-最凶の授業-』でひとり授業のトレーニング(?)していただけはある。気持ちよくなった朝日は気持ち悪い行為をしまくる。静(松本まりか)の病室を訪ね、母親(赤間麻里子)が病室を出て行った間に、意識のない静の手を握ったり、ときめいたり。
そこで高校時代を回想し、朝日がなぜ静を寝たきり状態にしてしまったか、顛末が明かされた。
学校でいじめられていた朝日は静にかばわれて、すっかり好きになってしまう。そのせいでさらにいじめられ、そそのかされて静を階段から突き落とした。階段を転がった時の「ボキッ」という骨の折れる音が生々しかった。
ストーカーした挙げ句の逆恨みかと思ったらそうではなかったことにあっけにとられて見ていると、添い寝して、ひひひと笑って「きれいだなあ」「大好きだったんだ」とキスまでしてしまう。またこの時のかすかな音が生々しい。
静は事故に遭う当日、義経に「行ってきますのチュー」をせがむが、義経がしないで出かけてしまって、それが義経の心残りだったわけで、その大事なキスを朝日にされちゃってもう散々である。
このまま山田裕貴劇場が続くのか……山田裕貴は巧いし面白いし嫌いじゃないけれど……と思っていたら、CM明け、義経がようやく登場。
ただし回想。
弓のお母さん・華(青山倫子)に会いに来た義経。
5話の方程式は、
(無様 × 認める)継続=格好いい
義経は薙の父にも会いに行っていた。つまり先生は家庭訪問して、少年少女の心を蝕んだ家庭問題を解決していたのである。
「義経先生はいい先生だったんだよ」と先生派になりかかる弓、薙、力にキレまくる刀矢。朝日は、裏切りそうな3人を思い知らすため、弓を消せと仄めかし、その気になる刀矢。勉強はできるけど、とことん頭の悪い人の典型が刀矢だ。
「面白くなってきたぞー」と朝日は自分の時代がやってきたと思って増長していく。

朝日と命、いじめられっ子をふたり描いていることにも注目
そこへ、まさかの黒魔術。伊吹命(秋谷郁甫)は朝日に「君のせいで(義経が死んだ)」とちくちく言われ、公言したら「君の家族もここに埋まるよ」と脅されたため、誰にも真相を話せないでいたが、例の死体蘇生術の本を参照して、義経を蘇らせようと思いつく。雷鳴の轟く中、地面から手が出て、義経が立ち上がった場面には眠気が吹っ飛んだ。
次回から「闇の義経、襲来編」がはじまるらしい。5話の幕間感は、やっぱり働き過ぎの田中圭にお休みをあげたのでは説。
さて。「せんけす」というお話は、徹頭徹尾、戯画化されているとはいえ、現実にも朝日のようなすこし歪んだ愛着行為を他者に向ける人は存在していて、猟奇的事件の報道を目にすることはよくある。凄惨な虐めも実際後をたたない。絶対ありえなそうなおかしな話ながら、行方不明の届け出は一年間で8万人を超えるといるというリアリティーを入れてくるものだから、妙に生々しくて、気持ち悪さが増幅する。
さらに、キスを朝日に奪われるという決定的な瞬間も描くことで、主人公不在ながら、主人公の圧倒的な敗北(現時点)を強調し、それを経て、最後に彼の復活をもってくるというカタルシスを作る構成に、ハンパない場数を踏み、数多くのヒット作を出してきた鈴木おさむのプロの腕力を感じる。
さらにいえば、いじめられっ子を、朝日と命とふたり描いていることにも注目したい。朝日に寄り添ったのが静で、命と寄り添ったのが義経。どちらも教師として、迷える少年を救おうと心を砕いているが、朝日は闇落ちして、命は光のほうへと向かっている。ここもプロットはしっかりしているのだ。ただ、いじめられっ子のビジュアルが類型的過ぎる気もするが、そこは仕方ないとする。
茶番は茶番として描き、茶番に感動させるような誤魔化しは決してしない。
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木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami
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番組情報
テレビ朝日系『先生を消す方程式。』毎週土曜よる11:00〜
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/houteishiki/