『おちょやん』第10週「役者辞めたらあかん!」
第49回〈2月11日 (木) 放送 作:八津弘幸、演出:中泉慧〉

山村千鳥、再登場
「悔しかったら、わしより笑いとってみいや」と挑発する千之助(星田英利)に「やったろやないけ」と受けて立つ千代(杉咲花)。【前話レビュー】はみ出し者集う鶴亀家庭劇 座長は千之助になってしまうのか
千代の芝居が客に受けたら、千之助は勝手な芝居をやめる。反対に千之助のほうが受けたら、座長交代。
がっかりする千代に、いざとなったら座員みんなで口をそろえて千代が面白いと言い張ればいいと励ます一平(成田凌)。それに同意する須賀廼家天晴(渋谷天笑)、須賀廼家徳利(大塚宣幸)、漆原要二郎(大川良太郎)。だが、千之助はそんな彼らの考えすら先回りして、観客に誰がいちばん面白かったか、紙に書いて投票してもらっていた。その結果、千之助の人気は圧倒的だった。
そんなこんなで公演はあと1日に。やっぱり展開、早っ。
客の評判は上々で、一座は存続できそうだから良かったものの、千代の立ち場がない。悔しがっていると、突如、最初の演技の師匠・山村千鳥(若村麻由美)が現れた。第48回の高峰ルリ子(明日海りお)が婚約者に捨てられたエピソードは、似た境遇の山村千鳥を思い出させる策だったのか、じつにいいタイミングでの登場だ。
それにしても、千代、千鳥、千之助……と「千」のつく名前の人が3人もいて、渋滞気味である。
「演じるということは、役を愛した時間そのもの!」
千鳥は鶴亀家庭劇の公演を観ていた。草履を千代に投げつけて、「いやがらせ」と言ったり、公演を観たのは「たまたまよ」なんて言ったりするけれど、なんだかんだいって千代を気にかけているのだとわかる。話題の紫のバラの人(千代に花かごを贈ってくる人)候補に千鳥も加えたくなった。千之助を打ち負かす方法はないか千代たちにせがまれて、「演じるということは、役を愛した時間そのもの!」とだけ答えて去っていく千鳥。言っている意味がわからなかった千代だが、千鳥の言葉、そして玉(古谷ちさ)との会話の中ではたと気づく。つまり、自分の役を掘り下げることだった。
ルリ子と歌舞伎俳優・小山田正憲(曾我廼家寛太郎)、元・鶴亀歌劇団の石田香里(松本妃代)と千代は一晩かけてそれぞれが役を深めるべく、台本に書かれていない役の背景を考え始める。それが「役を愛した時間」ということである。
若村麻由美は、駆け抜ける嵐のような短時間ながら、「演じるということは、役を愛した時間そのもの!」とセリフを粒立たせ、意味を明確にしている。実感響く台詞だった。へんなキャラだけど重要なところは抑えている、さすが名優である。


千之助と千代たちの違い
役の背景を考える作業は、いわゆるスタニスラフスキーシステムのひとつ。これは役を生きるための方法論を活用することである。役の履歴書を考えることで、貫通行動を徹底させるのだ。千鳥は、千代が笑いで千之助を超えることはほぼ無理と断言していた。では、ここで、千代と千之助のやり方を比べてみよう。第49回の序盤、千代は、千之助の動きを潰すことばかり考えていて、全然前向きでない。面白く膨らませようとしていないので、面白くなりようがないのである。
一方、千之助は、自分の役割を踏まえたうえで芝居を膨らませている。例えば、第48回のレビューで紹介した、星田英利のブログを読むと、「手違い話」で手が他者と入れ違っていて使えないから、手のない蛇になることを思いついたと書いていて、それこそが、役を理解しているからこそ生まれるアイデアである。
このような俳優の演技の取り組みには、『半沢直樹』2020版で、堺雅人や香川照之たちが台本にない演技を付け加えたという話がしょっちゅうネットニュースで取り上げられて話題になっていたことを思い出させる。『おちょやん』の脚本・八津氏は、2013年版の『半沢直樹』の脚本を書いていたから、いっそう繋げて考えてしまうが、そういう裏事情は関係なく、俳優がいかに台本を読み込み、役を掘り下げていくか、その努力の裏側が『おちょやん』で世間に広く伝わることは有意義だと思う。
千代が、自分の役の過去を、自分に重ねて、貧しい家に生まれ売られたと書いていたことには、自分のなかにあるものしか想像が及ばないことがわかるし、ほかの俳優たちがアイデアを話し合って芝居を転がしていこうとして、興が乗って来ているのが楽しい。でもこれだと、稽古で演出家の一平が何もしていないことの現れになってしまう。稽古中に、みんなでこういうことを発見していく流れも見たかった。
ともあれ千代たちは自分たちの役を膨らませていくことで、千之助に対抗することができるか。50回は週の終わり。いつも週末はいい感じにまとまるので、今週末もきっと、「晴れやな」。
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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■明日海りお(高峰ルミ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■松本紀代(石田香里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若村麻由美(山村千鳥役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami