
汎用性ある桜木の喝が心に響く『ドラゴン桜』第7話
今シーズンのドラマの中で抜群の安定感を誇る日曜劇場『ドラゴン桜』(TBS / 日曜よる9時〜)。これまで日曜9時といえば、お父さんの好む企業ものが人気だったが、今回はティーン層も取り込むことに成功した。なにしろ受験のノウハウであるから。【前話レビュー】『ドラゴン桜』読解力の大切さ説く6話 本ドラマがよく観られているのはよくできた要約文のようだから?
第7話では「自分の弱さを知り、それを乗り越えることで強くなる」とか「幸せになりたかったらおまえは覚悟を決めろ」とか「失敗したときは笑うんだ」とか「走って走って力を貯めて、必ず上昇するときがくる」など。コロナ禍、漠然とした不安が立ち込める今、桜木(阿部寛)の喝が心に効く。

とりわけこの1年、学校にも思うように通えず、慣れないリモート学習になってしまった学生たちもいるだろう。彼らにとって、桜木の教えや、生徒たちが力を合わせて受験に挑む姿は心の支えになるだろう。
家族で観ることのできるドラマ『ドラゴン桜』。企業ものが好きなお父さんには、龍海学園の土地買収エピソードが付与されている。買収に関する謎のメールを桜木に送ってきている人物は誰か? という企業ミステリー的な楽しみと学園ものとのジャンルミックス。
中には企業ものは蛇足ではないかという声もあるが、題材をひとつに絞らないことが多様化、細分化する視聴者のニーズに応えることになるのである。
5人以上、東大合格者を出すことが桜木のノルマである。ただし学園が買収されてしまったら桜木の仕事は成立しない。

「自分の弱さを知り、それを乗り越えることで強くなる」
第7話では、桜木は専科の7人を東大模試に挑戦させる。E判定だったら東大専科を辞めさせると聞いて生徒たちは戦々恐々となるが、桜木の狙いは「自分の弱さを知り、それを乗り越えることで強くなる」ことを生徒たちに叩き込むことだった。模試まであと2日となった時、助っ人教師として由利杏奈(ゆりやんレトリィバァ)がやって来る。彼女は英語教師。ダンスしながら英語を流暢に語る彼女は、英語は適当でいいと言う。日本人は完璧主義で謙虚だが、外国人は日本語をたとえたいしてしゃべれなくても、自信満々でしゃべる。「英語は適当とモノマネ」と極意を聞いて、生徒たちは肩の力が抜けていく。



時間をかけて慣れていくものだと悠長な桜木に、模試まで時間がないと菜緒(南沙良)は焦りを露わにする。模試で良い成績がとれなかったら専科を辞めさせられることに最も過剰に反応した菜緒は、焦れば焦るほど自信がなくなって、いざ本番になっても他者のことばかり気になって調子が出ない。
桜木と水野(長澤まさみ)は東大模試の秘訣を教える。
「東大模試は年6回受ける」
「国語は必ず古文からはじめる」
「数学は言葉で方針を書く」
「必ずおやつを持っていく(エネルギー補給とリフレッシュ効果)」
「社会は既習範囲しか出題されない」
「リスニング試験でメモをとるな」

これらの秘訣から読み取ることができるのは、東大試験では情報をフル活用することが大事であること。
そして、再三、桜木が言っている、仲間の大事さ、性格が悪いと試験に落ちるということ。これが今回、天野(加藤清史郎)と藤井(鈴鹿央士)の関係性を通して描かれた。
ふたりが徐々に距離を縮めている場面は理路整然とした物語のなかに柔らかさを作りホッとさせた。広々とした海が背景にあることも息が詰まらなくていい。

天野は、YouTuber勉強法をまだ続けていて、だんだん堂に入って来た。本人は気づいていないが、徐々に英語が身についてきていて、由利杏奈の英語をリスニングできたことを、藤井は気づいていた。
東大合格の可能性の高い優秀な弟・裕太(深田竜生)にはYouTuber活動をバカにされるが、模試当日、受験生たちの中に動画を観て励みにしている者たちがいたことを知った天野は俄然力が沸いてくる。一方、藤井は最初のうちは余裕で天野を慰めていたが、模試が思うようにできず塞いでいく。


受験勉強は滑走路
模試の結果は、麻里(志田彩良)がA判定、健太(細田佳央太)はCで、藤井D、残りのメンバーはE判定だった。麻里は安定の優秀さ。健太のほうが藤井より成績が良かったことは衝撃的。専科を辞めさせられると絶望する奈緒に桜木は、E判定――合格率20%ということは、100回受験すれば20回合格できることと、ものすごく前向きな解釈を語る。まだ模試なのだから、本番まで時間がある。物事を前向きに捉え、自信をもっていくこと。
運が良いからそれを自覚するようにと桜木に言われ、みるみるやる気になる奈緒。
受験勉強は滑走路。「走って走って力を貯めて、必ず上昇するときがくる」という言葉は魔法のように気持ちを軽くする。いつか飛ぶためにもコツコツやる(ただし要領よく)ことが大事なのである。



海岸で落ち込んでいる藤井を慰める天野。最初はツンとしていた藤井がだんだんデレていく。性格が悪いと落ち込んだとき誰も慰めてくれないが、仲間を作ればこうして慰めてもらえる。
東大専科はこんなふうに順調に見える。だが、水面下で龍海学園の売却計画が進行している。関わっているのは元理事長で現理事・久美子の父・恭二郎(木場勝己)と水野の後輩・坂本(林遣都)と桜木の元教え子・米山(佐野勇斗)、そして桜木法律事務所の岸本(早霧せいな)。桜木と水野の身内が陰謀に加担しているのだからおそろしい。
東大合格のドラマながら、岸本のセリフ「社会に出たら学歴なんて関係ありませんよ」が皮肉めいていた。


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番組情報
TBS日曜劇場『ドラゴン桜』
毎週日曜よる9時〜
出演:出演:阿部寛 長澤まさみ 高橋海人(King & Prince) 南 沙良 平手友梨奈 加藤清史郎 鈴鹿央士 志田彩良 細田佳央太 西山 潤 西垣 匠 吉田美月喜 齋藤瑠希 内村 遥 山田キヌヲ ケン(水玉れっぷう隊) 鶴ヶ崎好昭 駿河太郎 馬渕英里何 大幡しえり 深田竜生(少年忍者/ジャニーズJr.) 林 遣都 佐野勇斗 早霧せいな 山崎銀之丞 木場勝己 江口のりこ 及川光博
原作:三田紀房『ドラゴン桜2』(コルク)
脚本:オークラ 李 正美 小山正太
音楽:木村秀彬
プロデューサー:飯田和孝 黎 景怡
演出:福澤克雄 石井康晴 青山貴洋
制作著作:TBS
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/dragonzakura/
※第8話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami
ゆいざえもん
フリーで活動するグラフィックデザイナー・イラストレーター。得意としているファンアートは、透明水彩画や似顔絵で役者さん・舞台の魅力にアイデアを加えながら描いています。他にブランディングデザインやパッケージ・ウェブデザインなどを行う。宝塚歌劇が大好き。愛知県在住。
@yui_zaemon