多分そいつ、今頃パフェとか食ってるよ。/Jam著・名越康文監修[サンクチュアリ出版]

何にしてもメリットがあればデメリットもある。
例えば圧力鍋。これを使えばとろっとろの豚の角煮もあっという間に作ることができるけれど、鍋洗いはデコボコがあるぶん普通の鍋に比べてすごく面倒臭い。また、高い山の頂上からの眺めは素晴らしいけれど、そこに至るまでは長時間の登山が必要で、翌日は筋肉痛に見舞われる。

手間のかかる鍋洗いが嫌なら長時間に及ぶ調理を覚悟せねばならず(美味しい豚の角煮を食べたければ、だが)、澄んだ空気と素敵な景色を体験したければ登山の疲れと筋肉痛を引き受けねばならない。

なんだか変な例え話で恐縮だが、物事だいたいそういうことになっている。というわけで本題である。現代の人間社会は「そういうことになっている」が、とても複雑に、しかもいや~な感じにはびこっている気がする。

その大きな根っこのひとつが「SNS」だ。LINEにFacebookにInstagramにTwitterにと、ネットの世界は非常に便利である。どこにいても繋がりたい人とはいつでも繋がることができるし、思いついたときに調べものはできるし、買い物だってお店の定休日など関係なく好きなときにできる……。メリットはいくらでも言える。

ところが、である。
それだけメリットがあるということは、それに匹敵するデメリットもあるわけだ。それも困ったことに、そのデメリットは主に人が持っているデリケートでやわらかい部分に悪さをする。

そもそも、人は人、自分は自分と割り切れるほど人間は強くない。強くはないから誰かと、何かと繋がっていたいと思う。そういうときにSNSはある意味とても有益だ。もし周りに気のあう人がいなくても、SNSが人間関係を広げるきっかけになってくれる場合もある。実際、知人にはSNSを通じて仕事仲間を広げた人もいる。

しかしこのSNS、いきなり返し討ちのように攻撃をしてくることがあるから困る。それも最も心の弱いところを狙ったかのように、時に執拗なストーキングのように攻撃してくる。結果、悩みぬいたあげくに自ら命を絶つ人もいるし、心を病んで学校や仕事に行けなくなる人もいる。

そうしたことに対して、ある小説家は「ネットの電源をオフにすればいい」と言っていた。だがそうできる人は、もともとそのテの攻撃によって心が病むことはないタイプだろう。
オフればいいことは百も承知だけれど、それができない。呪詛みたいに何度も何度も心のなかで攻撃されたことを気にしてしまう。だから病んでしまうのだ。

そして由々しきことに、現代社会にはそういう人たちがたくさんいる。人前ではニコニコ笑っているけれど、一人になったら笑顔の下に隠された憂鬱な想いに苦しめられる。やめようと思っても気づけばスマホで「いいね」や「既読」を確認しては一喜一憂。そこに書かれた何気ない一言が妙に気にかかってしかたない。

人間関係のモヤモヤを払拭するために

『多分そいつ、今頃パフェとか食ってるよ。』は、そういう気持ちへの一服の清涼剤的な1冊だ。内容は「SNSのモヤモヤ」「人間関係のモヤモヤ」「職場のモヤモヤ」「自分のモヤモヤ」の4章からなる構成なのだが、語弊を恐れずに言うと、すべては人間関係のモヤモヤに端を発したことが書かれていると思った。

既読スルーされて落ち込んだり、苦手な人からの友達申請に困ったり、不快なことを言った人への怒りが収まらなかったり、理不尽な業務を断れなかったり、八方美人な自分が嫌いだったり……。ちょっと乱暴かもしれないけれど、どれも、もしも人里離れた山奥で一人で暮らしていたら関係のないことばかりなのである。
でもそうはいかないから、モヤモヤ、イライラ、グラグラと気持ちが泡立つ。

その根底にあるのは、いい人と思われたい、できる人と言われたい、一目置かれたい、みんなに好かれたいといった気持ち。そしてそれが自分が望むほどではないと、次の段階として周りは自分をちゃんと見てくれない、自分の評価は低すぎる、みたいに思うようになり、ひいては人を妬むようになったりもする。

元を正せばちょっと残念な気持ち、それが始まりだったのに。こんなに頑張ったのだから褒めてもらいたかった……、こないだは「いいね」をくれたのに……。けれどもそれが進むと、もしや自分は嫌われてる? 何か悪いことをした? と悪い進化を遂げ、さらにこれが悪く深化すると、馬鹿にしやがって! 何もわかってないくせに! ふざけるな! という怒りに育っていく。

こじらせる前に『多分そいつ、今頃パフェとか食ってるよ。』でひび割れた気持ちをメンテナンス

また困ったことに怒りや不快感というのは、人の感情エネルギーのなかでもそうとう強力で根が深い。だから望むべくは、そこまでこじらせる前にススッとなだめ解決するのが好ましい。そういうときに、ここにいない誰かから心を守る方法をやさしく教えてくれる『多分そいつ、今頃パフェとか食ってるよ。』は、すごく助けになってくれると思う。

問題は自分のなかにあるよ。こんなに頑張ったのに! じゃなく、頑張りたかったんだよね? そう思ってみようよ、みたいにやんわりジンワリひび割れた気持ちに手当てをしてくれる。
あなたがモヤモヤイライラしてても、そのきっかけになった人は、そこまで傷つけようと思ってなかったんじゃないかな? それが『多分そいつ、今頃パフェとか食ってるよ。』の一言に集約されているのだと思う。

にしても言い得て妙なタイトルである。人間関係の問題は、おおむねそんなものだ。自分が気にしているほど、人は気にしていない。だったら気にするだけ損とも言える。関わり合うすべての人のことを突き詰めて考えていたら、神経なんか擦り切れるどころか粉々になってどこかに飛んでいってしまうだろう。

だったら申し訳ないけれど、胸の内で密かに大事な人を優先したって罰は当たらない。普段下着と勝負下着の違いを人間関係にも応用すればいいのだ。大事な人には手洗いして大事に干した勝負下着のごとく丁寧に接する。

周りにあわせて消耗し、挙げ句の果てにいろんなものをなくすくらいなら、先回りして自分保護を心がける。そんなことを言うと「大人だね~」と厭味半分に言う人が出てきそうだが、そんな人には「残念ながら大人なんですぅ~」と笑顔で返す。
そんな自分になれたらいいなと思う今日このごろ。

ちなみに続編『続 多分そいつ、今頃パフェとか食ってるよ。孤独も悪くない編』では孤独や不安への対処を、『にゃんしゃりで心のお片づけ。』では心のほうから見た片付け法を紐解いてくれている。それも一読をおすすめ。なんだかとてもホッとさせられます。
(前原雅子)

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Writer

前原雅子


フリーライター、音楽系が多い。読書、ジャンクから高級物まで広く食するお菓子、気の向いたときにする家事が趣味。

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