紆余曲折ありつつ、『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』が配信となった。上映時間4時間強という大ボリュームながら、これが案外スルスル観られる。
バキバキに決まった絵面の連打は、まさに現代の神話と形容したくなるような風格がある。

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紆余曲折がありすぎた、『ジャスティス・リーグ』

映画『ジャスティス・リーグ』は賛否が大いに割れた作品である。2017年に公開された当時、スーパーマンやバットマンといった人気ヒーローを擁するDCコミックスは、映画作品においてライバルのマーベルコミックスに差をつけられていた。マーベルは同じ世界観を共有する多数のヒーローが単発もしくは総登場するシェアード・ユニバース形式の作品群を世界的に大当たりさせている。

対するDCコミックス(とワーナー・ブラザーズ)も負けじと『マン・オブ・スティール』(2013年)、『バットマンvsスーパーマン』(2016年)と同じユニバース形式の作品を製作。この2本を監督したのが、ザック・スナイダーである。

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このザック・スナイダーという監督は、極めて強いビジュアルを持った映画を作る人である。画面内の絵面の作り込みを徹底的に重視し、出世作となった『300』では原作コミックそのままの凝りに凝った映像とアクションを見事にまとめて見せた。スローモーションも多用するが、その使いどころも一本調子ではなく、タメの効いたド派手なモーションと特殊効果の使い方は随一。

また、ミュージックビデオやCMのディレクターとしてのキャリアもあり、音楽と俳優のアクションとストーリーが三位一体となったエモーショナルな作風が売りである。

が、その作風は年々、重厚長大になっていき、『マン・オブ・スティール』も『バットマンvsスーパーマン』も上映時間は2時間を大きく上回る。普通の人間からすれば神にも等しい超人同士の大激突を描くため、戦闘シーンも必然的に大ボリュームかつ高密度にならざるを得ない。

さらに、ストーリーに深みを持たせ戦闘シーンの重みを支えるために、人間関係もシビアに描く……。
こういった姿勢を貫いたため、この2作は当時ヒットしていたマーベル系のアメコミ映画と比べるとシリアスで重くて暗く、なおかつ戦闘シーンでは極大の破壊が炸裂するという、大艦巨砲主義を貫いた作品となった。

おれはけっこうザックむきだしな超ボリューム大鑑巨砲スーパーヒーロー主義映画が好きだったのだが、しかし困ったことに、直接の続編である『ジャスティス・リーグ』では監督が途中で変更になってしまったのである。

この『ジャスティス・リーグ』は、そもそも企画のスタートが2007年であった。スーパーヒーローが大集合する作品になるはずだったものの、製作態勢が決まらない状態が続き、一時は『マッドマックス』のジョージ・ミラーが監督となる予定まで立った。が、全米脚本家組合のストライキなどによって製作が遅延。

さらにクリストファー・ノーランの『ダークナイト』が大当たりしたことでノーランのダークナイト三部作の製作が優先され、監督がザック・スナイダーであることが発表されたのが2014年。脚本が完成したのはその翌年だった。

その後撮影が開始され、「今度こそ順調に完成するのか……!」と思われたものの、2017年にザック・スナイダーの娘が急逝したことで事態は一変。ザックは急遽監督を降板(さらに本作のプロデューサーでザックの妻であるデボラ・スナイダーも降板)し、代わって追加撮影とポストプロダクションを担当したのは『アベンジャーズ』を監督したジョス・ウェドンだった。ウェドンはダークなザックの路線をできるだけ軽くするための再撮影で雇われていたが、ザックが降板したことによって全権を掌握することになった形だ。

というわけで、ジョス・ウェドンは追加撮影も挟みつつ、「とりあえず当初のザックの構想に添いながらも上映時間は2時間に収めてくれ」というオーダーに応えることになった。要するに、『ジャスティス・リーグ』は、様々なトラブルが重なった結果、極めて歪な出来になった映画だったのである。


なんせ作風が全然違う監督を途中から全面的に登板させたので、陰影のつき方やテンポやセリフのノリが映画の中でちぐはぐになった。重厚長大なザック路線とノリが軽いウェドンの作風の食い合わせは悪く、アクションシーンも妙に緊張感がなくジョークもスベり気味……。結果として『ジャスティス・リーグ』は批評家からも観客からも酷評され、以後DCとワーナーはユニバース路線から撤退。『ジョーカー』のような単品作品を重点的に製作する路線をとることになる。

話は同じ! だけどそれ以外が全然違うスナイダーカット

前置きが長くなったが、『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』は、ザックが構想していた本来の『ジャスティス・リーグ』である。上映時間は4時間強。重厚長大もここまで来たかという長さだ。

一応、劇場公開版と同じ脚本を元にしていることから、基本的なストーリーに変化はない。スーパーマンが前作で死亡したのち、地球にある3つの「マザーボックス」を狙って悪役ステッペンウルフが率いる軍勢が攻めてくる。

最強のヒーローを欠いた状態で強敵を迎え撃つことになったバットマンとワンダーウーマンは、地球にいる未知のヒーローたちの総力を結集し、チームの力でステッペンウルフたちに立ち向かうことを決定。それぞれヒーローのスカウトに乗り出すが……というお話である。

という感じで基本的な設定とストーリーは同じなのだが、それ以外の全てが別物だ。ステッペンウルフはトゲトゲした金属製の鎧で覆われ、より凶悪なルックスに変貌。
劇場公開版ではイマイチ敵としての格が低く見えたステッペンウルフだったが、スナイダーカットではさらにその背後に"ダークサイド"というより強力なヴィランが存在していたことが判明。悪の軍勢のボスにしちゃどうも三下っぽいな……と思っていたが、それもそのはず、あいつは中間管理職だったのである。

各キャラクターの掘り下げがより深くなっているのも、スナイダーカットの特徴。なんせ上映時間が倍なので掘り下げられて当然ではあるのだが、特に驚いたのはジャスティス・リーグの一員であるサイボーグについてしっかりと説明されている点だ。劇場公開版ではどんなキャラクターなのかイマイチよくわからなかったが、スナイダーカットでは「元はアメフトプレイヤーの大学生だったが事故で体の自由を失い、半ば強制的に父親の手で肉体を機械化された」というキャラだったことがわかりやすく説明される。

このサイボーグが父親との確執を乗り越える過程が映画の本筋に近い扱いになっており、つまり『ジャスティス・リーグ』はサイボーグのオリジンとしても機能する内容だったのである。

もちろん絵面のカッコよさは劇場公開版に比べてマシマシ。最強のヒーローであるスーパーマンの戦闘能力はとんでもないことになっており、さらに個々のヒーローたちの決めカットはバッチバチに決まっている。

戦闘シーンのキレも凄まじく、まさに「神話的な戦い」という形容がバッチリハマる雰囲気。劇場公開版にあった「逃げ遅れた家族を助けないと~」みたいなかったるいシーンがなく、最初から最後まで徹底的に破壊の連続、見せ場だらけのハイカロリーな戦闘シーンをこれでもかと見せてくれる。このあたりはまさにザックの真骨頂だろう。

脚本も大ボリュームの内容をテンポよくまとめており、思っていたよりずっと状況がうまく整理されていて飲み込みやすい。
サクサク話が進むので、4時間という上映時間でもけっこうすんなり最後まで見通すことができるのには驚いた。物怖じせず、普通の映画のノリで見てみても大丈夫だと思う。

ただ正直、4時間はさすがに長い。間に休憩を挟みたくなるし、途中でトイレに行ったりしたくなることもあるだろう。そう考えると、このプランをそのまま劇場公開するのはちょっと……となったワーナーの判断もわからないでもない。ネットでの配信という形式のほうが、相性は良い気はする。

さらに言えば、スナイダーカット版はクリフハンガーエンドとなっている。この時点ではDCコミックスのヒーロー達が総登場するシェアード・ユニバース映画としてシリーズ化する計画が生きていたので、スナイダーカットではのちの展開に向けての布石が打たれているのだ。

『バットマンVSスーパーマン』でも「近い将来スーパーマンが人類と敵対し地球は荒廃、バットマンはレジスタンスとして地下活動をしているがスーパーマンに追われている」という展開への目配せは挟み込まれていた。スナイダーカットの終盤ではその未来がさらに広げられ、さらに「あのキャラやこんなキャラまで出てくるの!?」というネタ振りが行われているのである。

今となってはどうしようもないのだが、このネタ振りがけっこうよくできており、正直「こっちの路線でそのまま作った映画も観たいな……」という気持ちにさせられる(そのためのネタ振りなので、当たり前ではあるのだけど)。だがしかし、もうそっちのルートは閉ざされていることがはっきりしている……。
この「来なかった未来」を垣間見せられる感じが、スナイダーカット最大のキツさだろう。だって、なんかこの路線のユニバース、すっげえ面白そうなんだもん……。

というわけで、スナイダーカットは劇場公開版『ジャスティス・リーグ』を観て「なんだこれ?」となった人なら必見の内容となっている。とにかく重々しく大仰だが、ここまでバキバキにディテールが決まった作品はなかなか観られない。観る前には「この映画には続きはない」という点をしっかり念じつつ、4時間の長尺に備えて鑑賞していただきたい。
(しげる)

作品概要

『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』
2021年 アメリカ
監督:ザック・スナイダー
出演:ベン・アフレック、ヘンリー・カビル、ガル・ガドット、レイ・フィッシャー、ジェイソン・モモア、エズラ・ミラー、エイミー・アダムス 

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Story


スーパーマンの壮絶な犠牲を決して無駄にしてはならない。ブルース・ウェインはダイアナ・プリンスと手を組み、迫りくる破滅的な脅威から世界を守るために超人たちのチームを作ろうとする。

だが、その困難さはブルースの想像を超えていた。彼が仲間に引き入れようとする一人ひとりが、乗り越えがたい壮絶な過去をもつために、その苦しみからなかなか前に進めないでいたからだ。

しかし、だからこそ彼らは団結することができ、ついに前例のないヒーローたちのチームを結成する。バットマン、ワンダーウーマン、アクアマン、サイボーグ、そしてフラッシュは、ステッペンウルフ、デサード、ダークサイドとその恐るべき陰謀から地球を守れるのか、それとも時すでに遅しなのか……。


――ワーナーブラザーズ公式サイトより


Writer

しげる


ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

関連サイト
@gerusea
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